歴史の世界

2019-01-01から1年間の記事一覧

道家(5)老子(『老子』=『道徳経』における「徳」とは何か)

前回と対になる記事。 前回は「道」について書いたので、今回は「徳」について。 「徳」について 「徳」の重要性 「徳」について 儒学でいう「道徳」の中心は「道」であるそこでは「道」が「為すべきこと」であって、「徳」はそれを担う品性という二次的な意…

道家(4)老子(「道」とはなにか)

以前にも書いたが、『老子』は『道徳経』とも呼ばれる。この「道徳」は倫理的な意味のそれではなく、以下の理由により名付けられた。 『老子道徳経』は5千数百字(伝本によって若干の違いがある)からなる。全体は上下2篇に分かれ、上篇(道経)は「道の道と…

道家(3)老子(構成/時代背景/内容について)

『老子』の構成 時代背景 内容について キーワード 『老子』の構成 『老子』は『道徳経』あるいは『老子道徳経』とも呼ばれる。 『老子道徳経』は5千数百字(伝本によって若干の違いがある)からなる。全体は上下2篇に分かれ、上篇(道経)は「道の道とすべ…

道家(2)老子(著者と成立時期)

著書の『老子』は本来は『道徳経』と呼ばれるものだが、ここでは一般に通じている『老子』で一貫する。 なお、このブログでは書物の老子は二重括弧で、人物の老子は括弧なしで表記する。 成立時期 著者について 成立時期 『老子』(=『道徳経』)は春秋時代…

道家(1)道家について

今回は道家について。 道家について 道家の形成 特徴・特色 道家について 道家は諸子百家の一派でその代表は老子と荘子。その思想は老荘思想とも言われる。他には列子も道家に含まれるらしい。 『論語』学而篇や『荀子』勧学篇は、学問の重要性を説く。それ…

兵家(13)呉子

『呉子』の著者について 呉起について 『孫子』との比較 内容 日本における『孫子』と『呉子』の評価 『呉子』の著者について 『呉子』 中国の兵法書武経(ぶけい)七書の一つ。呉起の著作といわれてきたが、門下の作か、後人の手になる偽書か、諸説あって定ま…

兵家(12)孫子(まとめ)

この記事で『孫子』は最後。まとめる。 著者は呉の将軍、孫武 『孫子』が著された背景 『孫子』の内容 孫臏兵法 まず、『孫臏(そんびん)兵法』と『孫子』の関係から。 『孫臏兵法』 著者は呉の将軍、孫武 古代より『孫子』の著者が誰であるか議論されてき…

兵家(11)孫子(君主は開戦について慎重にすべし、戦略的成功を常に心がけるべき)

諸子百家 (図解雑学)作者:浅野 裕一出版社/メーカー: ナツメ社発売日: 2007/04/24メディア: 単行本(ソフトカバー) 開戦には慎重を期すべし 君主は戦略的成功を常に心がけるべき 開戦には慎重を期すべし 浅野裕一氏が『孫子』の特色を簡単に書いていたが、…

兵家(10)孫子(戦略書としての『孫子』 後篇/全3篇 --道(タオ)--)

今回は道(タオ)の話。 今回もデレク・ユアン『真説 孫子』(中央公論新社/2016(原著は2014年出版))で語られるものを素人の勝手解釈で書いていく。 ユアン氏の語る『孫子』は著者である孫子(孫武)の考えを発展させたものであり、孫武が語っていないこ…

兵家(9)孫子(戦略書としての『孫子』 中篇/全3篇 --陰陽--)

今回は陰陽について書く。 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: 単行本 陰陽の原義と意味の拡大 中国の戦略思想における「陰陽」 陰陽から道(タオ)へ 陰陽の原義と意味の拡大 陰陽【いんよ…

兵家(8)孫子(戦略書としての『孫子』 前篇/全3篇)

今回は戦略書としての『孫子』について書く。 戦略書としての『孫子』 戦略と戦術の違い 『孫子』の全13篇と戦略と戦術 前編のまとめ 戦略書としての『孫子』 『孫子』は今でも戦略書として研究されているらしい。デレク・ユアン『真説 孫子』 *1 によれば、…

兵家(7)孫子(『孫子』と中国人社会の関係)

ここでは、『孫子』の地域的背景すなわち『孫子』と中国人社会の関係について書く。 中国人社会については、当ブログで「中国人論・中国論」というカテゴリーがあるので参考になるかもしれない。 相手(敵)を如何に貶めるか 彼を知り己れを知れば、百戦危う…

兵家(6)孫子(他者・他書との比較 -- 対マキャベリ『君主論』篇)

記事タイトルどおり、他者(他書)との比較について書く。 今回はマキャベリ『君主論』。 ソース 「信玄→『孫子』」、「信長→『君主論』」 両書の比較 信玄 vs 信長 『君主論』と比較して浮かび上がる「孫子の盲点」 ソース 『孫子』を『君主論』と比較しよ…

兵家(5)孫子(他者・他書との比較 -- 対クラウゼヴィッツ『戦争論』篇)

記事タイトルどおり、他者(他書)との比較について書く。 他と比べて、『孫子』がどのようなものなのか、イメージだけでも分かればいいかと思って書いてみた。 戦争論〈上〉 (中公文庫)作者:カール・フォン クラウゼヴィッツ出版社/メーカー: 中央公論新社…

兵家(4)孫子(春秋時代末期から戦国時代の戦争へ)

まだ時代背景は続く。 しかし今回はいよいよ『孫子』の著者の孫武の登場。 春秋末期。孫武の戦争 戦国時代の戦争 おまけ:あぶみの話 春秋末期。孫武の戦争 春秋末期。中原の社会秩序は凝り固まったまま崩れていく過程にあった。 この時代に、孔子は新しい秩…

兵家(3)孫子(春秋時代後期の戦争)

今回も時代背景の話。 戦争そのものの変化 「将軍」職の発生 戦争そのものの変化 新しい戦い方は、春秋時代後半に次第に広まってきた。ただしその原因や結果は、戦争の規模が拡大したことにあるのかは明確には言えない。いずれにせよ、当時の国々が行った改…

兵家(2)孫子(春秋時代前期の戦争)

この記事では孫武が生きた時代が戦争の活気であったことを示すために春秋戦国時代の戦争の移り変わりを書いていこうと思う。 戦闘について ルールについて 「宋襄の仁」 戦闘について 今から2500年以上前、中国春秋時代の戦争は、互いをはるかに見通すことの…

兵家(1)孫子(『孫子』は誰が書いたか)

これから『孫子』に入る。まずは著者と著作について。 兵法書『孫子』は誰が書いたか かつて著者について論争があった 現代に伝わる『孫子』までの変遷 兵法書『孫子』は誰が書いたか 『孫子』の「子」は先生というくらいの意味で、『孫子』の著者は孫氏であ…

墨家(2)思想実践、墨家の歴史

前回は墨家の基本思想について書いたが、今回は墨家の歴史について。 墨家は思想よりも歴史のほうが重要なのかもしれない。 創始者、墨子=墨翟 墨子の活動 二代目・禽滑釐と「質的変化」 三代目・孟勝 戦国中期~末期 墨家消滅 以下は浅野裕一著『雑学図解 …

墨家(1)基本思想

墨家の基本的な思想は「十論」と呼ばれる十個の主張からなっているが、その中でも有名な「兼愛」と「非攻」を先に書いていこう。その後に「十論」。 兼愛 非攻 基本思想(墨家十論) 兼愛 兼愛説【けんあいせつ】 中国,戦国時代の前4世紀の思想家墨子(ぼく…

儒家(11)荀子(性悪説/礼治主義/天人の分)

今回は荀子について。 荀子は、彼の語る「性悪説」と、韓非子や李斯(始皇帝の丞相)の師匠として有名だ。 荀子は趙の人、前4世紀末つまり戦国末期の人。「稷下の学」で有名な斉の学堂で祭酒(学長職)を努めたほどの人物だ。 後年は楚の蘭陵に移り、その長…

儒家(10)孟子(天命と易姓革命)

前回からの続きで今回も孟子について。 天命 天とは? 中国思想と天下 天命 易姓革命 天命 天命の概念は孟子が作った言葉ではないが、孟子の思想を知る上で重要なものだ。いや孟子だけではなく、中国の思想を知る上で重要。さらには日本の思想にも影響してく…

儒家(9)孟子(王道思想)

前回からの続きで今回も孟子について。 王道政治 王道と覇道について。 孟子は古今の君主を「王者」と「覇者」とに、そして政道を「王道」と「覇道」とに弁別し、前者が後者よりも優れていると説いた。 孟子によれば、覇者とは武力によって借り物の仁政を行…

儒家(8)孟子(性善説/四端説/五倫)

前回からの続きで今回も孟子について。 性善説 四端説 五倫 性善説 孟子と言えば性善説。 その名の通り、人間は生まれながらにして善であるという思想(性善説)である。 当時、墨家の告子は、人の性には善もなく不善もなく、そのため文王や武王のような明君…

儒家(7)孟子(仁義について)

今回は儒家の話をしようと思ったが、孟子について書くことが多くなってしまったので記事を数回に分けて書くことにする。 孟子その人について 仁義について 仁について 義について 仁義について 孟子その人について 孟子(前372?-289年)は戦国前期、小国の鄒…

儒家(6)孔子の死後の状況

儒教や孔子については以前に書いたので *1 、ここでは戦国時代の儒家について書く。 孔子の死後の弟子たちの動向 先進派と後進派 精神科学派と社会科学派 孔子の死後の弟子たちの動向 弟子たち及びそれらの弟子の系統は幾つかの派閥に分かれているが、ここで…

戦国時代 (中国)⑧ 邑制国家から領域国家へ/遊牧民の登場

記事タイトルの通り、邑制国家から領域国家へという話と遊牧民の登場について書く。 前4世紀末の状況 邑制国家から領域国家へ 邑制国家のおさらいと殷周の邑制国家 領域国家のおさらいと戦国時代の領域国家 遊牧民の登場 出典:戦国時代 (中国) - Wikipedia…

戦国時代 (中国)⑦ 楚・燕・趙・韓

戦国七雄のうち魏・斉・秦については書いたので、残りの楚・燕・趙・韓についてまとめて書いてみる。 楚 燕 趙 韓 戦国七雄 出典:戦国時代 (中国) - Wikipedia *1 楚 楚は春秋時代の晋を含む中原諸国に恐れられるほどの大国であり、戦国時代に入っても変わ…

戦国時代 (中国)⑥ 中期 斉・秦の二強時代 秦編

前回に引き続き、斉・秦の二強時代の時代。今回は秦。 秦という国について 「春秋秦」から「戦国秦」への変貌/商鞅の変法 巴蜀合併と対楚戦勝利 白起の登場/昭襄王、西帝を自称する 秦という国について 春秋時代の秦については以前すこし書いた(春秋時代⑤…

戦国時代 (中国)⑤ 中期 斉・秦の二強時代 斉編

魏の覇権が衰えると、次に目立ったのは斉と秦の2国だった。 秦のことは別の記事で書くこととし、ここでは斉について書く。 (中期と言っても、私が勝手に区分しているだけなので、参考程度に) 田斉:斉の下剋上 第四代・威王 領地拡大 突然の衰退:「対斉…