歴史の世界

【書評】渡瀬裕哉『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか~アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』

本書曰く、「分断」の原因は、アメリカの選挙にある。

候補者が当選するためには有権者にとって重要な問題「争点」における主張・論争の中で、有権者の信頼を勝ち取ることがどうしても必要だ。

しかし、現在の選挙ではその「争点」を無理やり作り出して、有権者を煽ってボルテージを挙げて、「(候補者に)投票"しなければならない"」というところまで追い込むところまでやるらしい。これを「選挙のマーケティング」と書いてある。

「争点」を無理やり作ることは有権者アイデンティティ(=政治的立ち位置)を細分化することを意味し、これが「分断」ということになる。「分断」された有権者は煽られているので、他の「アイデンティティ」を持つ有権者に対して攻撃的になる。これが分断に拍車をかける。

さらに、この「分断」する手法が世界各国に輸出されるために「民主主義が分断を生み出す」という結果になる。

以上が本のタイトルの答えになる、と思う。

帯に《大変革の現代社会を生き抜くための処方箋》とあり、「洗脳」されない解決策まで提示している。

目次

第1章 成熟した民主主義がアイデンティティの分断を生み出す理由
第2章 リベラルと保守はどのようにアイデンティティを分断するのか
第3章 アイデンティティの分断を受け止めきれない「独裁」という政治体制
第4章 グローバル化アイデンティティの再構成
第5章 越境するアイデンティティによる民主主義の開始
第6章 現代社会の大変革を生き抜くための処方箋

出典:なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか - 株式会社すばる舎

1章・2章がアメリカの話。
3章は中国、
4章は日本を含む世界、
5章は未来の話(デジタル通貨の基軸通貨化と民主主義の変革)、
6章は処方箋の話。

著者について

私が著者を知ったのは保守系Youtube「チャンネルくらら」に出演されてからだ。つまり保守の人。

本書にっ書かれているところによると、18歳の時に日本の議員事務所に行ってそれから地元活動に汗を流し、小中大のレベルでの選対を取り仕切るまでになる。そしてその後に、渡米して共和党の選挙スクールに参加した、とのこと。

渡瀬氏によれば、日本の保守と言われている自民党は、アメリカ政治から見れば、「リベラル」だそうで、それより左は[以下略]。

私が知っている限りでは渡瀬氏は、アメリカの保守の政策(規制緩和・減税などの「小さな政府」系の政策)や政治家を支える組織(シンクタンクやスタッフの拡充など)を輸入しようとしている。

本の内容

気になったところだけを幾つか書いてく。

「なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか」

「なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか」の答えは、この記事の冒頭で書いた。このような手法は選挙のマーケティングと言われている。

現職に対抗する候補者は当選するために争点が必要になるわけだが、これをマーケティングの手法を使う。すなわち、有権者アイデンティティ(=政治的立ち位置)を細分化して、目をつけた有権者スマホなどの端末に適宜メッセージを送って段々と洗のu染め上げて、他のアイデンティを持つ人との対立を煽ってボルテージを上げ、彼らが候補者に投票するように誘導する。

自分のアイデンティティを変えられるという恐ろしいことが起こっているので背筋の凍る思いだが、マーケティングを知っている人ならば「こんなことは日々行われていることだ」と言うかもしれない。私たちが商品・サービスを選ぶのはマーケティングの影響が大きいらしい。上述の選挙のマーケティングは、どうもSTPアプローチのことらしい(詳しくは書かない) *1

以上はアメリカで行われていることだが、この手法は世界に伝播している。日本の政治の場合については、著者は以下のように言っている。

日本の場合、いまだに地縁、血縁、政治家 同士の主従 関係などで構図が決まってしうことも少なくないが、近年、主に都市部において、昔ながらの状況 も変わりつつある ように 感じる。

出典:渡瀬 裕哉.なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図 (Kindle の位置No.241-243). すばる舎. Kindle 版.

アメリカの民主党共和党の「分断」の違い

この件に関しては2章で書かれているが、以下の動画でも分かりやすく解説されている。

上述したマーケティングの手法を使っているのは主に民主党だ。彼らは現行の社会に無理やり分断を作り争点化して解決して新しい社会を作ろうとする。

一方、保守はアメリカが守り続けてきた建国理念・伝統・コモンセンス(常識)を今後も守り続けようと主張する。つまり、分断と言っても民主党の手法に対抗するような形を取る。

両者の違いでは民主党側の方がニュースになりやすい。「あなた(視聴者)の常識は間違っているかもしれない!?」のように問題提起ができるからだ。一方で、共和党側の主張は「あなたが守ってきた今までの伝統を守りましょう」と主張するのみだ。こうして両者の論争が起こった時に民主党側の方が見栄えがするということになる。(民主党側は「この言い回しこそが保守側の論理だ」と言うかもしれないが。いや、きっと言うだろうな。)

デジタル通貨が民主主義を変える?

これは5章の話。Facebookが発行すると言われるデジタル通貨「リブラ」や中国の「デジタル人民元」が国境を超えて普及し、これが現存の通貨システムを変えるだけでなく、民主主義まで変革するという話。

しかし、私は理解できなかった。国家の重大な権利であるマネー発行権を国家が簡単に手放すはずがないと思うからだ。EU諸国は手放したが、それに変わる利益を手にした。では、越境したデジタル通貨を受容する国家は何を得るのだろうか?よくわからない。

「分断」への対抗策

6章「現代社会の大変革を生き抜くための処方箋」の話。

私の理解は、

  • まずは上述のような「押し付け」が存在を十分理解する。
  • 争点化されたものの中から自分が有益だと思うものをピックアップして自分のアイデンティティに組み込む。
  • 他の有権者の価値観を認めて相違点に関しては深入りせず、共有できる点を探して合意形成を図る(コミュニティの破壊を防ぐ?)。

当たり前といえば当たり前。とにかくマーケティングの影響下で自分を見失わないように心がけることが重要だ。

私の感想

マーケティング

選挙のマーケティングを使った「分断」を作る手法は、有権者(の脳みそ)をコントロールしようというもので、実際に成功していて、さらにアメリカから世界に輸出されているという。このことはおそらく選挙のマーケティングだけでなく、マーケティングそのものも人をコントロールしようとするものなのだろう。

著者によれば、選挙のマーケティングの技術は日々進歩しているので、私たちは警戒を怠れないし情報をアップデートしなければならない。

そんなわけで、私は「マーケティング」というキーワードが一番刺さりました。

アメリ

この本で書かれていることは主にアメリカの選挙事情についてだ。なぜアメリカが重要なのかといえば、周知のようにアメリカが世界覇権国家であり、カネと知恵・知識が集まる場所で、マーケティング技術のようなものを輸出する国だからだ。さらにはアメリカは若い国で人工(人造)国家なので、政治でいろんなチャレンジングな実験をやっている。これも輸出される。

そういう意味で1章・2章が他の章より重要だと個人的には思っている。アメリカの政治がどのようなものなのかを知るのは、日本国民としても重要である。

その他

チャンネルくららの中でこの本について触れられている動画を幾つか



【戦略学】フィクションその2

前回からの続き。

戦略とフィクション

奥山氏がなぜフィクションにこだわるのか。以下の動画で語っている。この動画の中で戦略とフィクションの関係についても語っている。

  • 奥山氏が師事していたコリン・グレイは核戦争が起こった場合の戦略を考える職についていたことがあるのだが、核戦争などは過去に起こっていないことであり、全く架空の出来事を仮定して戦略を組み立てていかなければならない。
  • 核戦略でなくても、戦略家は まだ起こっていない未来を想定して戦略を立てなければならない。最悪の場合も考える必要もある。
  • このような想定を奥山氏はフィクションと言っている。フィクションが戦略は立てられない、と。

  • 歴史家は ある出来事において当事者が直面していた未来も分かった上で当事者を批判するが、当事者自身は未来が見えない状況でフィクションを設定して行動していくしか無いのだ。(奥山氏はこのような歴史家にご立腹の様子)

起業家とフィクション

起業家が起業する時には 未来のビジョンが必要になってくる。いわゆる「大風呂敷を広げる」というやつだ。このビジョンも奥山氏のフィクションの定義にはこのビジョンも含まれる。

上述の動画で和田憲治氏は、ビル・ゲイツ氏がマイクロソフトを起業した時のエピソードを話している。

  • ビル・ゲイツ氏が起業した当初(1980年代)に語っていたことは、「世界中の会社の机の上にはパソコンが置いてあるんだ。オレがそうするんだ」と言っていた。
  • ゲイツ氏はIBM PCのOSを自社開発しようとしたが、これを断念して他社のOSを買ってIBMに売りつけるのだが、実はIBMと交渉が成立したあとで、他社OSを買収したという。

このようにビジョンを大言壮語する人物は日本にも見つけられる。松下産業の創業者の松下幸之助

生産者の使命は貴重なる生活物資を、水道の水の如く無尽蔵たらしめることである。いかに貴重なるものでも、量を多くして無代に等しい価格をもって提供することにある。
われわれの経営の真の使命はまさにここにあると思うのである。

出典:『松下幸之助一日一話』(創業者 松下幸之助の言葉|パナソニック 採用情報

と言って、他社の技術を「キャッチアップ」して製品を安価で大量販売した。

戦後日本では多くの起業家がいるが、彼らはビジョンを持っている。ここ30年のうちで、ゲイツ氏や松下氏のようなビジョンを持つ人が日本で見当たらない原因はデフレである。日本がデフレのためにビジョンを持つ人が成功しにくい一方で、アメリカは一定の経済成長が持続して、ビジョンを持つ起業家が続々と成功している。

ウソの分類

国際政治学者・ジョン・J.ミアシャイマー (著)『なぜリーダーはウソをつくのか』において、ウソを分類している。

この本は政治の国内外においての「ウソ」について書かれている。

この本について奥山氏が解説しているのが以下のサイトだ。

まず、「真実の供述」(truth telling)と「騙し」(deception)を分ける。

そして次に「騙し」を以下のように分類する。「ウソ」は「騙し」のうちの一部だ。

  1. 「印象操作」(spinning)
  2. 「秘匿」(concealment)
  3. 「ウソ(をつく)」(lying)

「印象操作」とは、事実において自分の主張したい部分を強調して、逆に主張に合わない部分を言わないか些細なこととして扱う。就職の時の履歴書や面接においては 受ける側は「印象操作を仕掛けている」と言える。

「秘匿」は隠すこと。履歴書や面接において、自分の不都合なことはできるだけ言わないことが「秘匿」にあたる。

さて、「ウソ」について。本書では第二章「国際政治で使われるウソの種類」で以下のように分類している。

1、「ウソをつく」(lying)
1-1「戦略的なウソ」(strategic lies)

「国家間のウソ」(inter-state lies)第三章
「恐怖の煽動」(fearmongering)第四章
「戦略的隠蔽」(strategic cover-ups)第五章
ナショナリスト的神話作り」
(nationalist mythmaking)第六章
「リベラル的なウソ」(liberal lies)第七章

1-2「自己中心的なウソ」(selfish lies)
「無能の隠蔽」(ignoble cover-ups)
「社会帝国主義」(social imperialism)

出典:なぜリーダーはウソをつくのか/奥山真司の地政学「アメリカ通信」

まず大きく「戦略的なウソ」と「自己中心的なウソ」を分類するが、より重要なのは前者の方だ。第三章から第七章まで順に5つのウソを詳しく解説している。これらのウソについては奥山氏が動画で簡単に解説している

  1. 「国家間のウソ」
    例:イスラエルは「核開発をやってない」と公言しているが、実はやっている。
    ミアシャイマー曰く「国家間のウソ」は意外と少ないとのこと。奥山氏曰く 「ウソがバレた時の反動が大きい」ので「国家間のウソ」はつきにくい、と。

  2. 「恐怖の煽動」
    例:米ブッシュ・ジュニア政権の時(9.11の後の数年後)に「フセイン大量破壊兵器を持っている」とか「フセインが9.11の黒幕だ」と米国民を扇動したが、実際はウソだった。 (これ以降は、国内向けのウソ)

  3. 「戦略的隠蔽」
    例:密約。国家間で結んだ密約を国民には隠蔽すること。

  4. ナショナリスト的神話作り」
    例1:日本書紀にあるような国家的神話。
    例2:毛沢東率いる人民解放軍が日本軍と戦て勝利したというウソ。実際は蔣介石国民革命軍に戦わせて自分たちは兵力を温存していた。

  5. 「リベラル的なウソ」
    例1:アメリカは原爆を広島・長崎に落としたが、「これを落とさなければ、さらなる多くの米兵が命が奪われた」と主張した。 例2:第二次大戦直前、アメリカはソ連国内の惨状を知っていたが、米国内ではスターリンを「ジョンおじさん」と呼ぶなど好意的なイメージを喧伝した。

そしてミアシャイマーの結論は↓。

本書の結論は、著者も告白している通りに一般的なイメージとは違って「意外なもの」である。それを一言で言えば、「国家のリーダー同士は互いにあまりウソを使わないが、自国民にたいしてはかなりウソをつく」というものだ。ミアシャイマー自身も「リアリスト」という立場から、当初は国家間でウソが多用されているという想定をしていたらしいが、実際に調べていくとその反対の結果ばかりが出てきたとしており、その結論に自分でも驚いた様子がうかがえて興味深い。

出典:なぜリーダーはウソをつくのか/奥山真司の地政学「アメリカ通信」

本書は国際政治(国内政治も)に関するウソについての本で、ニュースを見る時に必要な知識が書かれているのだが、「印象操作」や「秘匿」については私たちの日常でも良く使われる騙しなのでいつも気に留めておくべきものだろう。

個人的には「ブラフ」とか「(交渉時に)ふっかける」などもウソの部類に入ると思うのだが、上の分類のどこかに入るのかどうか判断がつかない。

陰謀論とフィクション

前回に『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏がnew york timesに書いた話に触れたが、これとは別の記事が2020年11月20日付のnew york timesに載った。タイトルは"When the World Seems Like One Big Conspiracy"邦訳は「世の中が一つの大きな陰謀のように見えるとき」。

この記事は世界的カバール陰謀論について書かれている。「カバール」とは秘密結社のことで、世界的カバール陰謀論の例はユダヤ陰謀論や国際金融資本陰謀論やディープステート陰謀論だ。

この記事の邦訳全訳がWeb河出で掲載されている。

この記事でハラリ氏は、世界的カバール陰謀論の基本的な筋立て、欠陥を歴史的な観点から解き明かし、私たちが直面する「現実」を明らかにします。「悪意ある単一の集団、思想が世界を支配している」と主張する陰謀論の蔓延に警鐘を鳴らすと同時に、私たちが日々接する情報をどう捉え、自身の見識、立場を作り上げていくべきかを示唆する内容となっております。

出典:『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリが解き明かす、 世界的陰謀論の虚偽と欺瞞。The New York Times記事翻訳を全文公開|Web河出

さて、本文。

私たちがこの世界で目にする無数の表立った出来事の背後には、悪意ある単一の集団が潜んでいる、と世界的カバール陰謀論は主張する。ただし、この集団の正体は一様ではない。[中略]

それでも、基本的な筋立ては同じで、その集団は、この世で起こることのほぼいっさいをコントロールしていながら、同時に、その支配を隠している、というものだ。

出典:同掲サイト

ハラリ氏は陰謀論の欠陥を書いているが要約すると4点。

  • 歴史は陰謀論のように単純ではない。
  • 人を思い通りに動かすのは難しい。
  • 隠し事はすぐバレる。
  • 人数が多くなればなおさらだ。

ハラリ氏は日常のサプライズパーティですらうまくいかないのに、《世界的カバール陰謀論は私たちに、80億近い人を操るのは驚くほど容易だと信じることを求めているのだ。》と書いている。

ただし、ハラリ氏は陰謀が無いと言っているわけではない。

むろん、この世の中には本物の陰謀が数多く渦巻いている。個人、企業、組織、宗教団体、派閥、政府などが、絶えず何かをたくらみ、実行に移している。だが、まさにそのせいで、この世界全体を予測したりコントロールしたりするのが、ひどく難しくなっている。[中略]

どんなカバールも、単独では全世界を密かにコントロールすることはできない。それは正しいだけではなく、それに気づけば、確かな力が得られる。この世界で競い合う勢力や派閥を見極め、一方の側に肩入れし、もう一方の側に立ち向かうことが可能になるからだ。それこそが、現実の政治にほかならない。

出典:前掲サイト

「陰謀」をウソとかデマとかディスインフォメーションと読み替えることができるだろう。「カバール」は秘密結社というよりも「世界で競い合う勢力や派閥」のことだと思えばいい。

ハラリ氏の主張を前述のミアシャイマーの主張とつなげて考えるのもいいかもしれない。



【戦略学】フィクション その1

「現実を見ろ!」と主張するリアリストの奥山真司氏が、一方で「フィクションは大事だ」と言っている。興味深い。

どうしてフィクションが重要なのかを以下に書き留めておく。

(フィクションと戦略の関係の話は次回にする。)

この記事における「フィクション」

「フィクション」とは通常はウソとか作り話のことを指すのだが、ここでは(未来を語る上での)仮定の話や(国家や宗教を語る上での)神話なども含まれることに注意。これよりもさらに拡大解釈もある。

真実に勝つフィクション

まず↓の動画。フィクションというものが実は真実よりも強いのではないか?という話。

この動画は『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏がnew york timesに書いた記事の紹介。複雑な部分を省略して、簡単に解説し、感想その他を加えている。

  • 世間一般の人たちは「真実には力がある」と思っている。つまり「真実を世に公開すれば、ウソは駆逐される」と信じている。
  • ハラリ氏は、いろいろ人類の歴史を見てきたけど、それはウソだと言い切っている。
  • まず、社会を動かすためには真実だけでは全く動かない。
  • 動かすためには「コモン・ストーリー」が必要。つまりフィクションだ。
  • 本当に力があるのは真実ではなく、ウソやフィクションだ。
  • フィクションの(真実に対する)強み。
    • その1:「真実は普遍的だが、フィクションはローカルである。」簡単に言い換えると、科学(真実)は普遍的だが、ある組織(ローカル。宗教団体、国家、民族など)の中ではフィクション(コモン・ストーリー。教義、神話、歴史教育など)のほうが真実よりも力を持つ。例えば、『日本書紀』の神話は日本国を一つにまとめる役割を果たしているが、他国にとってそれはフィクションにすぎない。
    • その2:「真実は汚くて目を背けたいものである。」例えば、韓国の歴史はなにもないので、韓国は檀君神話を信じる。(歴史・過去というものはドロドロとしているもので、それを覆い隠すものが神話や英雄伝説である)
  • 国家だけではなく、個人も自分自身のためのコモン・ストーリーを作って、人生を歩んでいったほうがいいのではないか?どんな困難・災害があっても自分なら生き抜いていけるという非科学的な自身は多くの人が持っているが、そういう思い込みはどうしても必要だ。
  • アメリカの政治家が真実・実情だけしか言わなければ、必ず落選する。だから政治家たちは建国の父の話などを語る。やっぱり政治家にはフィクションが必要だ。
  • ただし、フィクションを語りかけられる側も、以上のことを理解しておくことが重要だ。

人類史とフィクション

ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』の紹介説明で以下のようなものがある。

サピエンス躍進の起点となった認知革命はおよそ7万年前に起きた。原因は遺伝子の突然変異らしいが、サピエンスは柔軟な言語をもって集団で行動できるようになり、先行する他の人類種や獰猛な動物たちを追い払った。この認知革命によって獲得した〈虚構、すなわち架空の事物について語る〉能力は神話を生み、大勢で協力することを可能にした。後に国家、法律、貨幣、宗教といった〈想像上の秩序〉が成立するのもここに起因している。

出典:サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 | ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 |本 | 通販 | Amazon

(「認知革命」については議論があるところなのだが、その話はここでは省く。)

一般的に動物は大きな群れを維持することはできないのだが、ホモ・サピエンスが言語を「発明」して伝達を用意にしたことによってこの壁を克服した。

そしてさらに虚構つまりコモン・ストーリー(神話や宗教など)を創作してを作って共有することにより大きな共同体が維持できるようになった。そして「大勢で協力することを可能にした」その結果が文明に至る。

ここまでは私もすんなりと納得できたのだが、国家、法律、貨幣も虚構だという主張を受け入れるのには躊躇する。

ハラリ氏はあるインタビューで以下のように語っている。

虚構は悪いイメージがあるが?

「虚構は重要で、価値があるものだと思います。なければ社会は成り立たない。例えば、貨幣がなければ、今の経済は明日にでも崩壊してしまう。秩序がなければ、互いに殺し合ったり、そうしても罰則も与えられなかったり。ですから、虚構が悪いと言っているわけではありません」

「例えばサッカーには誰もが合意しているルールがあります。このルールは自然なものでも、神からもたらされたものでもない。人間がつくったものです。でも、そのルールに合意、つまり共通の虚構を受け入れなければ、サッカーをプレイできなくなります」

出典:"貨幣や宗教は虚構"「サピエンス全史」ユダヤ人著者が語ったこと。

ハラリ氏が使う「虚構」という言葉は以上のようなものを含んでいる。『サピエンス全史』は世界的ベストセラーになった本で多くの人たちがハラリ氏の主張を絶賛しているのだから、「ルール=虚構」という等式が受け入れられた、または「そういう考え方がある」と認知されたということになる。

新しい社会を作るためのフィクション

以上を踏まえて、新しい社会を作る"虚構"の話を引用。

『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社)という本のこと。これは必読です。ハラリは、人間を人間たらしめた能力は、虚構構築能力だと喝破している。[中略]

伊賀:今、安宅さんが「虚構」と呼んでるのは、まさに私が『生産性』に書いたビジネスイノベーション、非技術的なイノベーションの話ですね。なんだけど、たくさんの人が信じる新たな虚構をつくるのは簡単なことではありません。

安宅:ものすごく難しい。でも、共通の虚構を積み上げることで、人間は社会制度のすべてをつくり、巨大な仕組みを構築してきたとハラリは書いている。その虚構構築能力こそが、人類が現在の礎をつくった時期と同じぐらい大事になってきていると思います。

伊賀:そうですね。そして新たな虚構が提案され、多くの人がそれを信じ始めると、過去にみんなが信じてきた社会制度としての虚構がアップデートされて覆されていくんです。[中略]

生物にとって種の保存は究極の目的ですが、それにもっとも適した虚構、つまり社会制度が何かというのは、環境や利用できる技術が変わればそれに応じてアップデートされていくのが自然なこと。

古い虚構が機能しなくなっているのに、「次はこれでいこう」という新たな虚構を提案できないと、社会も企業も停滞してしまう。少子化問題の根幹もそこにある。そういう意味で私が『生産性』の中で書いたビジネスイノベーションを起こす力というのは、まさに虚構構築能力ってことですよね。

出典:生産性を高める最終兵器は虚構を構築すること 新春対談:安宅和人×伊賀泰代【第3回】 | 新春対談:安宅和人×伊賀泰代|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

社会を良い方向へアップデートするためには虚構構築能力が必要不可欠という話。

(続く)



【戦略学】リアリズム(とリベラリズム)

リアリズムが戦略学のカテゴリーに入るのか、正直わからないのだが、とりあえず戦略を立てる上で知っておかなければならない用語らしいので、ここに書いておく。

ここで書くことは表面的なことだけなので、ガッツリ学びたい人は 奥山真司氏の音声教材 で勉強したらどうでしょう?

また、リアリズムとよく比較されるリベラリズムについても書いていく。

リアリズムとは何か

国際政治を理論的に分析しようとする「国際関係論」という学問では、
ズバリ!「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって
分析、予測する理論」ということです。

つまり、「リアリズム」とは、
「国際政治というのはすべて権力の力学による闘争なのだ!」
と現実的(realistic)に考える理論です。
よってリアリズム(現実主義)となるわけです。

出典:リアリストとは?いかなる人達なのか。いかなる学問・学派なのか。|奥山真司の地政学「アメリカ通信」

まず、「リアリスト(現実主義者)」が考える国際社会とはアナーキーつまり無政府・無秩序で弱肉強食の世界だ。

そんな中で頼りになるのはパワーのみ。このパワーは基本的には武力・軍事力のことを指す。

彼らにとってみれば、
国際政治を動かす「パワー(power)」というのは、
「軍事力による脅しや実際の行動(攻撃)によって、
相手の国を自国の意思にしたがわせる能力」
ということなのです。

究極的にいえば、「リアリズム」では、
この「パワー」こそが国際社会を動かす唯一最大の要素なのです。
ですから、ここに注目してさえいれば、
概ね相手の動きは読めてしまう、ということなのです。

出典:同掲サイト

マネーが「パワー」になることもあるようだが、やはり引用のように軍事力(脅しや攻撃)による恐怖が第一のようだ(アメよりムチ)。

そして、リアリストたちの「平和を保つには?」の問いの答えは「軍事バランスを保つこと」となる。

リアリズムの歴史観/人間観

日本で国際政治やその理論などを学ぼうとすると、最初に触れるのはマルクス主義などをベースにした「理想主義/ユートピアニズム」が多い。もしくは「絶対平和主義」のようなものになる。いわば理想論と言ってもいい。[中略]

[欧米の]国の国際関係論の教科書は、まずはリアリズムの理論の勉強から始まるのが普通だ。いわゆる「現実主義」である。

最初に教えられる理論からして、「近代国家といっても、実はそれほど成熟しているものではなく、欲と業の塊であり、基本的には際限なく増殖しようとするものなのだ」という歴史観から始まるのである。

出典:"悪の論理"で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国/フォレスト出版/2010/p37

上では近代国家は成熟しているものではないと言っているが、これは人間も成熟していないということだ。

人間は知識の蓄積によって頭が良くなって、平和のための社会を構築しようとしてはいるが、一皮むけば「欲と業の塊」の動物の一種である、リアリストはそう考える。

以下の動画では、奥山氏は「リベラリストは人間は完璧になれると主張するが、リアリストは完璧なんてなれない/不完全なままだ」(要約)と言っている。

リアリズムとリベラリズムの比較

国際関係論において、リアリズムと比較されるのがリベラリズムとのこと。

リベラリズムについて簡単な説明がwikipediaにある。

国家の能力よりも国家の選好が国家行動の主な決定要因であると主張する。国家を単一主体とみる現実主義と異なって、リベラリズムは国家行為における多元性を許容する。それゆえに選好は国家によって変わり、文化、経済体制、政治体制のような要因に依存する。リベラリズムはまた国家間の相互作用が政治レベルに限定されるだけでなく(ハイポリティクス)、企業、国際機構、個人を通じて経済分野(ローポリティクス)にまで及ぶと主張する。したがって協調に向けた多くの機会や、文化資本のような広範な権力概念が含まれる。

もうひとつの前提は、絶対利得が協調と相互依存を通じて得られ、平和が達成されるというものである。

リベラリズムには数多くの潮流が存在する。商業的リベラリズム、(ネオ)リベラル制度論、理想主義、レジーム論などが含まれる。

出典:リベラリズム (国際関係論) - Wikipedia

難しいが、リアリズムとリベラリズムを比較すると理解しやすくなる。

以下に比較を書いていくが、私たちが国際ニュースで見る国際社会はほとんどがリベラリズムだと分かる。ただし現実をよくよく調べると、リアリズムの主張に真実味があることも分かる。

国際社会を動かす手段
リベラリズム:国際制度機関・国際取引・民主制の推進など
リアリズム:軍事力(同盟を含む)・経済力

国際社会を動かす主体
リベラリズム:あくまでも国家が中心だが、国際機関・多国籍企業NGOなども主体になりうる
リアリズム:国家のみ

経済的相互依存関係
リベラリズム:深まれば平和になる
リアリズム:深まっても戦争は起こる

平和について
リベラリズム:あらゆる相互依存を深めて協調性を増し、あらゆる問題は協議してルール化・制度化をすれば平和は維持・達成できる
リアリズム:軍事力の均衡においてのみ平和が保たれる

(以上は、 《リアリストとは?いかなる人達なのか。いかなる学問・学派なのか。|奥山真司の地政学「アメリカ通信」》 や 《【リベラリズム(国際関係)とは】現代までの変遷と理論をわかりやすく解説|リベラルアーツガイド》も参照。)

個人的には両者は理想(リベラリズム)と現実(リアリズム)を表していると思っている。両者を天秤にかけて、国際社会を見るのが妥当だと思う。歴代中国の皇帝が儒家(理想)と法家(現実)を使い分けていた。

リベラリズムの現実

ただし、国際関係論という枠をはずして実際のリベラリストを考えると、リアリスト・奥山氏としてはリベラルを許容できないらしい(上で紹介した動画《リアリストの人間観 VS リベラリストの人間観》を参照)。

実際のリベラリストは人間は努力すれば完璧になることができるというところまではいいのだが(リアリストは努力してもなれないと主張する)、完璧に到達したと勘違いしたリベラリストは他を見下すようになる、これが許せない(リアリストは、誰もが不完全でありミスもするから認め合うこともできる)、とのこと。

奥山氏ほか、保守言論人が言うところによれば、リベラルな人たち(左派)はある理想を掲げると他の理想を排除する傾向を持つ。そして行き着くところは全体主義だという。多様性・協調・人権を重んじる彼らが、結果的に真逆の方向に走ってしまう一因として、自分が掲げる理想を絶対視してしまうが故に他の理想を許容できなくなってしまうからのようだ。

それでも世の中には尊敬できるリベラリストと言う人がいるようなので、リベラリストは「全体主義に陥ってしまう危険性を持っている」くらいにしておくべきかな?



【戦略学】勝つためにはルールを作る権力を握らなければならない

かつて国際スポーツの中で日本が強かった競技で、ルールを変更されて金メダルが獲れなくなったという話がいくつもある。日本人は「欧米人はズルい!」という。私だってそういう思いはある。しかし、そう言い続けるだけでは同じことが続くだけになる。

ルールを変えられるのが嫌ならルールを変える権力を握ってしまえばいいのだ。

ルール作りの重要性

戦略で狙うべきことは「相手をコントロールすること」。もっと分かりやすくいえば、戦っている最中も、後も、自分にとって不都合にならないように「相手や状況をうまく管理すること」。さらに詳しくいえば、バトルでの勝利(これは戦術の狙い)より、戦いが行われる仕組みやルールそのものを作り、相手より「長期的に優位な状態」を保つことを狙う。

出典:【脱ハウツー本!本当の人生戦略】戦略では「コントロール」を!長期的に優位な状態を狙え - 政治・社会 - ZAKZAK(文は奥山真司氏)

例えば、TPPのルールを決める時に、各国は当然のことながら自国が有利なルールになるように主張する。

国際スポーツのルールを決める場でも同じようなことが起こっていると考えるべきだろう。

スポーツ・経済におけるルール変更

世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう

世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう

  • 作者:奥山真司
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

上記の本で、奥山氏はノルディック複合競技の荻原選手の話を出している。詳しいことはここでは省略するが、長野オリンピックの前に優勝候補であった荻原選手にとって不利なルール改正がされてしまったという話だ。 *1

こういう問題は、スポーツ好きの人はたくさん思い浮かぶだろう。

例えば、柔道のポイント制偏重、水泳のバサロ制限、バレーボールでブロックのワンタッチをカウントしない、スキージャンプの板の長さ...などなど。これらが全て本当なのかどうかは分からないが、これらがルール改正の主導権を握ることの大切さを教えてくれる。

また、奥山氏はBIS規制の話をして以下のように締めくくっている。

日本 の 銀行がすごく強くなったら、日本を狙い撃ちするようなBIS規制という自己資本比率8パーセントという新しい国際 統一基準が作られました。このルールのおかげで、日本の銀行がバタバタと潰れました。

このように、日本人は自分からルールを都合よく変え ていくのではなくて、ほかの国に変えられてきたのです。そのなかで必死にやっ て、どんどん負けてきたというのが実態なのです。

ルールを守るという面では、日本人は一生懸命でものすごく優秀です が、いつまでも豊かになれないのは、基本的にルールのほうを変えようとしないからなのです。

出典:奥山真司. 世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう (Kindle の位置No.290-296). フォレスト出版株式会社. Kindle 版.

日本国内に目を向ければ、ルール作成は(政治家ではなく)官僚に握られているから、各省に不利益になる規制緩和が進まずに国益を損ねている。

ルールを作るまたは改正する権利を握ることは自身の有利な環境を作るということと同等だ。

技術を磨いても欧米には勝つことはできない

日本は長い間、もの作りを経済の柱としてきまし た。 もの作りというのは、 確かに基本的に技術 継承で、 すごい匠 の人 がいたり技術者がいたりして成り立っ て いる もの です。 日本 には 素晴らしい 職人 が い て、 彼らが頑張ってこの国を支え てきたと言っても過言ではありませ ん。

出典:奥山真司. 世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう (Kindle の位置No.152-154). フォレスト出版株式会社. Kindle 版.

日本はものづくり大国と言われることがあるが、ものづくりは最新技術を作り続けなければ、後進の国々にすぐに追いつかれてしまう。日本は数十年に及ぶ経済政策の失敗により売上不振の製造メーカーが保身に走った結果、韓国のサムスンに代表されるようなメーカーに追い抜かれ遅れを取るようになった。そしてかつて下請けメーカーの集まりであった中国は今やアメリカから恐れられるほどのものづくり大国になっている。

じつはアメリカもかつてはものづくり大国だったのだが、今これを程度あきらめて別の道を歩いている。

アメリカの企業、すなわちアップルやアマゾンなどは流通の仕組みそのものを握ることで優位に立とうと考え、そして成功した。世界中の製造メーカーは彼らのいいなりになるしか無くなった。

実は戦略学では、技術のようなハード面でいか 勝つかと考えることは、戦術という低いレベルに属するものなのです。 その下のレベルが ハードそのもの について考える技術 というレベル です から、日本がどれだけ頑張っても欧米に勝てるわわけがないのです。

出典:奥山真司. 世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう (Kindle の位置No.167-169). フォレスト出版株式会社. Kindle 版.

勝つためにはルールを作る権力を握らなければならない

奥山氏は第一章《なぜ 日本人 は「 戦略」 が 苦手 なのか?》の最後のほうで書いていることを簡単にまとめると以下のようになる。

国際社会には世界政府などというものは存在しない、つまりアナーキーな世の中である。日本または日本人はこのような弱肉強食の中で生存競争をしていかなければならない。それがリアリズムだ。

日本または日本人はこのようなことをあまり意識せずにやってきたが、これからはもうそんなことを言ってられる時代ではなくなった。

日本は技術力を盲信することをやめて、まて、日本人は一旦スキルアップを考えるのをやめて、思考をガラリと変えることを提案している。新しい思考とはもちろん自分の有利なルールを作ることになる。

言うは易く行うは難しだが、日本政府はやらなければならないことだろう。



*1:奥山真司. 世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう (Kindle の位置No.279-280). フォレスト出版株式会社. Kindle 版.

【戦略学】戦略と戦術/戦略の階層

地政学に引き続いて、戦略学について書いていく。その理由は地政学者の奥山真司氏が一般人向けに説明してくれていることと、日本にとって最も足りない部分であることという点にある。

そんなわけで、戦略学と言っても奥山氏が紹介する入り口の部分だけを勉強するだけだ。

参考図書は

世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう

世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう

  • 作者:奥山真司
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

この本自体は自己啓発本なのだが、戦略学の入門レベル(ガイダンスレベル?)が書かれている。

今回は戦略と戦術の違いから。

戦略と戦術

戦略と戦術の違いを短い言葉で説明することは難しいようだ。

まず仮に、日本と中国が全面戦争することをイメージしてみよう。

  • 日本軍の一部が尖閣を守る戦闘を考えるのは"戦術"レベルの話。
  • 日本軍が如何にこの全面戦争に勝利するかを考えるのが"戦略"レベルの話。さらに政治レベルで戦後に中国をどのようにコントロールするかを考えるのも"戦略"レベルの話になる。

となる。

戦略は政治家と軍上層部が考える領域、戦術はそれらより下部の組織が考える領域となる。

また会社組織で考えると、上層部が会社全体の経営方針を考えるのが戦略、下部組織が個々の役割を果たすor改善するのが戦術レベル。

奥山氏は動画で分かりやすく対比を説明している。↓

戦略の階層

上の戦略と戦術を踏まえた上で、戦略と戦術の各々をさらに分割したのが「戦略の階層」だ。レベルを何段階に分けるのは欧米では普通に行われていたようで、奥山氏はルトワック氏とコリン・グレイ氏の分割の説明を合体させて、以下のような図を完成させたようだ。

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出典:奥山真司/戦略の階層を個人向けに修正 /地政学を英国で学んだ

大きく2つに分けると、大戦略以上が戦略で、軍事戦略以下が戦術の領域。

奥山氏は日本人は戦術は最高レベルだが、戦略はまるでダメだと言っている。

日本人の私としては理解しやすい戦術レベルの一番下から話を進めたい。

技術

「敵兵の殺し方」と物騒なことが書いてあるが、個々の兵の練度、スキル、所持している武器などがこのレベル。

戦術

「戦闘の勝ち方」。小さなチームレベルの話。小隊とか中隊などがチームワークの中の戦闘。頭にあるように、技術の上位概念で、個々の技術をコントロールしている点に注目。

作戦

「いつどこで戦いをするのか」。会戦とは大部隊レベル。

作戦計画に基づいて遂行され、複数のチームレベルの戦術を同時進行させて目的を果たす。

インパール作戦とかノルマンディー上陸作戦など大規模なもので使われることも多いが、ウサーマ・ビン・ラーディン殺害作戦(ネプチューン・スピア作戦)も作戦となる。

軍事戦略

軍のトップがいくつかの作戦を同時進行させたながら、国vs国の最終的な軍事的勝利を考えるレベル。

(奥山氏によれば、以上までが戦術レベル。)

大戦略

(ここからが戦略レベルの話で、国家の話で言えば、軍人だけではなく、政治家が絡んでくる。)

戦争の前あるいは平時において考えるレベル。最近では陸海空に加えてサイバー・電磁波・宇宙の領域が加わるのだが、これらに(カネ・人員を含む)どれほどの資源を配分するかを決める。

上の「領域」の他に、地域ごとの分配もこのレベルで決める。米ソ冷戦時代は日本では北海道が重要な地域だったが、米中冷戦において(尖閣を含む)沖縄が決定的に重要になってくる。このようなことを考えるのは地政学の領域で、奥山氏は「地政学大戦略のレベルだ」と主張している(コリン・グレイ氏からそのように習ったとのこと)。

政策

国家戦略を考えるレベル。国家戦略については如何に引用する。

軍事力も国家戦略を構成する要素の一つであるが、国家戦略と軍事戦略を混同してはならない。軍事戦略では反対勢力との競争に焦点を置き、相対的な弱点を見つけて勝利を得ようとするものである。一方、基本的国家戦略においては、相手国の軍隊を打ち負かす必要はなく、国力のすべてを活用して平和を守り、自国に利益をもたらす環境を作ることを目的としている。

出典:マイケル・グリーン *1 /日米同盟と日本の国家戦略/外交 Vol.4/外務省(PDF

国家戦略では基本的に安全保障全般を考える。軍事だけでなく、外交、インテリジェンス、経済を含むすべての力を統合して安全保障を考える。政治家が考える。仮想敵国を設定するのもこのレベル。

上のグリーン氏は《戦後経済復興と[世界の]民主主義陣営入りを目指した吉田ドクトリン》を日本の国家戦略の最も重要な例だと言っているので、安全保障面以外に重きを置く国家戦略というものもあるようだ。

世界観(vision

「日本とは何ものか、どんな役割があるのか」を考えるレベル。

政策(方針)を考えるときには、自分が(あるいは国家として)どのような状態を望んでいるのか、あるべき姿というのはどういうものかをはっきりと認識して決めなければならない。

さらに深く、3つのことを考えなければならない。

  • 日本(国家あるいは自分)とは何なのか(アイデンティティを考える)
  • 周囲はどのような状況か(現状分析)
  • 日本はどのような状態を作り上げたいのか、あるいはどんな役割があるのか

奥山氏によれば、上記のアイデンティティの部分で、アメリカが「自由と民主主義(と市場)を世界に広げる」という国家ビジョンを持ち、中国は中華思想という確固たるビジョンがある、と言っているのだが、日本にはこういったものが無いらしい *2

2021年現在、日本は米中戦争の中でアメリカ側に立って自由主義を守る役割を担うという世界観を持っているはずなのだが、政府は、中国と仲良くしたい経団連らの意向もあって、あまり明確に打ち出していない。

上記の件を明確化できたとしても、アイデンティティの問題が残る。



*1:戦略国際問題研究所上級顧問圏日本部長

*2:"悪の論理"で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国/フォレスト出版/2010/p54

【書評】奥山真司『地政学―アメリカの世界戦略地図』

最近(2020年)、『サクッとわかるビジネス教養 地政学』という本が3ヶ月で10万部売れた(出版社談)と話題になっている(出版社がそのように宣伝している)。この本の監修者が奥山真司氏だ。

私もこの本を買って読んでみたのだが、地政学よりも「地政学を使って米中露日EUがどんな国か見てみよう」みたいな本だった。この本を読めば国際情勢・国際ニュースが理解しやすくなるだろう。

さて、今回 紹介する本は、地政学の基本的なことと、アメリカ史の中の国家戦略(と地政学の関係性)が書かれている本だ。地政学の基本については上述の本よりは詳しく書かれてあるが、300ページの中の60ページくらいだ。

ちなみに、この本は絶版してます。

著者について

奥山氏の肩書は地政学者・戦略学者。

上述の『サクッとわかる』の自己紹介動画 *1 によれば、「私はふだん、防衛省の幹部学校で地政学や戦略論を教えたり、青山学院大学で学生を相手に戦略論を教えています。」

youtubeニコニコ動画などで、週に一回、ライブでニュース解説をしている(取り上げるニュースは海外の外交・安全保障に関するもの)。

政治的な位置づけは保守と言っていいと思う。本人はリアリストであると公言している。リアリストは現実主義者と訳されるが詳しくは《リアリストとは?いかなる人達なのか。いかなる学問・学派なのか。|地政学とリアリズムの視点から日本の情報・戦略を考える|アメリカ通信》 を参照。

この本は2004年に出版されたが、この当時はカナダのブリティッシュコロンビア大学の地理学科および哲学科を卒業したあたりのときで、その後、英国レディング大学大学院に入学して、戦略学科で修士号及び博士号(2011年)を取得することになる *2

本の内容

基本的に本書に書かれているのは、欧米の大学で一般に教えられている「地政学」(Geopolitics) という学科の内容に、著者が知っているトリビア的情報を加えたものである。

……なるべく多くの学校で使われている教科書を参考にしながら、“一般的に北米の大学で教えられている地政学” の内容と、そこから伺い知れるアメリカの国家戦略の歴史を中心に、幅広く書いたつもりである。

出典:奥山真司/地政学アメリカの世界戦略地図/五月書房/2004/p324

私が知りたかったマッキンダーとかマハンなど初期の地政学については60ページほど書いてあった。上述の本よりは詳しく書かれており、歴史背景も分かる。ガッツリと知りたい人には全然足りない量だとは思うが、私はとりあえず満足した。

アメリカの国家戦略の歴史については、大統領のブレーンだったキッシンジャーブレジンスキー、有名な学者のハンチントンやF・フクヤマらが言及され、彼らと地政学の関係について書かれている。彼らは地政学を使って分析・戦略立案を行った。

ここで重要な点は、彼らの分析・戦略立案は、地政学抜きに国家戦略を考えることはありえないということだ。米ソ冷戦も米中新冷戦もアメリカは封じ込め戦略をとっているが、これはマッキンダーやマハンのアイデアから出てきた戦略だ。言い換えれば、国家戦略に関係する者は地政学を十分理解していなくてはならない、となる。アメリカのエスタブリッシュメントにとっては至極当然のことだとは思うが、日本のエスタブリッシュメントはどうだろうか?

最終章の第六章は、上記と毛色の違う地政学の話になる。《環境地政学と反地政学》。

環境地政学については《他国の軍事的脅威よりも、……環境破壊のほうが、政治的に重要》と考えから環境保全が安全保障に関わるという考え方だ。これは2021年から始まるアメリカのバイデン政権の考えと重なる。この本には環境保護団体が「武力によって環境を破壊するんじゃない!」と言って従来の軍の行動を批判する。これもバイデン政権の中で議論されている話だ。さらに環境の話が進むと先進国と発展途上国の南北問題につながってくるのだが、バイデン政権でもクローズアップされることが予想できる。

もうひとつの反地政学は権力/覇権を徹底的に批判する(左翼的な)地政学なのだが、ここでは説明は省略する。

私の注目点・感想

とりあえず、地政学に関しては『サクッとわかる』よりも詳しい説明がなされていたので読んでよかった。ただし、地政学について『サクッ』に書いてあってこの本に書いていないこともあるし、半分以上は違うことが書いてあるのだから、どちらかは読まなくていいという話ではない。

上記2冊は入門レベルのようで、これだけ知っておけば大丈夫という程のものではないが、とにかくその入門レベルくらい知っていれば、新聞・テレビの国際ニュースをより理解できるようになるだろう。

アメリカの国家戦略の歴史については、上に書いたとおり。ジャパンバッシングについても言及されている。経済によって米ソ冷戦に勝利したアメリカだったが、冷戦後に ふと振り向くとアメリカを経済で追い抜こうとしている日本がいた。だから日本はブッ叩かれた。日本政府やエスタブリッシュメントはこの理由を分かっていたのだろうか?

おまけ:古典地政学と批判地政学

奥山氏が日本人に紹介している地政学マッキンダーやマハンの流れを汲む古典地政学だ。これらはがっつり政治に使われている。もはや学問ではないとまで言われているくらいだ。

一方、批判地政学は、上記のように政治の道具になっている古典地政学を批判する...という説明で意味が分かりますか?

簡単に言ってしまえば、批判地政学の人たちはリベラル系の人たちで、国家に批判的な人たち。アカデミズムの中にはよくいる人達ですな。とにかくなんでもいいからケチをつけたいみたいなニオイがするんだが、学問として成り立っているのでそれ相応の根拠は持っているらしい。

詳しくは(というほど詳しいわけではないが)、奥山氏のブログ記事《批判地政学に対する疑問点 : 地政学を英国で学んだ》を参照のこと。

奥山氏はカナダで批判地政学を学んでいたのだが、この本を書いた後に古典地政学をもっと学びたいと思ってイギリスのレディング大学でコリン・グレイ氏に師事したとのこと。