歴史の世界

【読書ノート】内藤 陽介『今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方』

2021年に出版された『今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方』の続編(この本についてもブログを書いている)。

Amazonの紹介欄より引用

地上波・ネットを問わず、一般的な報道番組では、速報性という観点から、どうしても、事実の推移を逐一追いかけていかざるを得ない面があり、その歴史的・思想的な背景などもじっくりと掘り下げていく余裕を確保しづらいという面もあるでしょう。
これに対して、彼らの苦手な作業、つまり、国際ニュースとして報じられた出来事の背景についてじっくり読みこみ、その「意味」を理解しようというのが本書のスタンスです。
世界各地で不安定な情勢が続き、その対応をめぐって各国政府が迷走しているように見える中、我々はどうすべきか、という問題を考えるためのヒントを提供することで、微力ながら、ぜひ、皆様のお役に立ちたいと考えております。
本書で取り上げた国々は、例外なく、死に物狂いで国益(と彼らが信じること)を追求しています。
そして、そうした剝き出しの欲望がぶつかり合うことで世界が大きく揺れ動いているがゆえに、各国は迷走を余儀なくされているのです。
だからこそ、決して安息の地など存在しない国際社会の混沌と無秩序を嘆くのではなく、むしろそれを前提に自分たちの身の処し方を考えるほうが建設的で精神衛生上も良い。
そして、世界の中で我々が「どうすべきか」という問いに答えるためには現状を正確に認識する必要があります。本書がその一助となれば幸いです。
国際ニュースから国内問題まで、日本を勝たせる方法を学ぶ

出典:今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方 - | 内藤 陽介 |本 | 通販 | Amazon(下線は引用者による)

まず、国際社会とは何かというと、上にあるように「混沌と無秩序」の世界だ。世界政府の警察権力などなく、各国が自衛と国益のために行動しなければならない。ヤクザの世界と変わらない。ヤクザの世界が分かりにくければ「武力行使が少ない戦国時代」くらいに思っておけばいいかもしれない。

アメリカが世界の警察なんて言われてたことがあったが、トランプ前大統領がホンネを言ってくれたのでそんな言葉は死語になっただろう。G7各国もきれい事を言っているが彼らも考えてることは同じだ。イギリスのブレグジット問題やドイツの環境問題の転向などは醜態と言っていいだろう。

日本人にとって交渉の理想は譲り合いだが、それで外交をしたら利益を得るどころかむしり取られるだけだ。そんなことで利益は得られないことは実社会で知っているはずなのだが。

しかし最近は、(あまりにも中韓朝露がむちゃくちゃなので)日本も国益と国防について真剣に考え始めている *1 。そんな中で著者は日本国民が国益を考える一助になるようにこの本を出版した。

上の第一・第二パラグラフが著者と本書のスタンス。ここ重要。

本の目次

第1章 中国が仲介したサウジ・イランの国交回復から“世界を読む”
第2章 取扱注意!今日も世界を動かす「陰謀論
第3章 日本が見習うべき“お手本”北欧の迷走
第4章 みんな知らない韓国“反日”の正体
第5章 日本社会の病理とその処方箋

出典:上のAmazonのページ

第一章について

サウジ・イランは中東における大国でこの章は中東全般に関わる話でもある。中東の政治はどの国も基本的にグダグダだが、世界に石油を供給している場所なのでほおっておく訳にはいかない。

アメリカは世界覇権国として中東をコントロールしようとするが精根尽き果てて関与を減らしつつある。そしてその隙間を狙うように中国が手を出している、という構図。

本章では、米中ではなくサウジ・イランの事情を深掘りして話を進めていく。どうして中東問題はうまくいかないのか?アメリカの外交の失策もあるが、中東側にも原因があることを私たちは一般国民は見逃しがちだ。なぜなら大手ニュースが報道しないから。そこらへんを丁寧に説明するのがこの本(と前著)。

第二章について

前のアメリカ大統領選挙で注目を浴びた陰謀論。最近は下火になった...と思っていたがそうでもないらしい。

本章ではフリーメーソンなどの定番の陰謀論の説明とそれらが拡散・定着した背景が簡潔に書いてある。根強く残っている陰謀論は基本的に根付かせようという意図を持つ人たちがいる(いた)わけだ。一方で、それを信じたい人達がいる。以上は当然のことだが、その人達がどういう人なのかがここに書かれている。

いわゆるDS(でぃーぷ・すてーと)陰謀論を信じている人たちは大手メディアを嫌い、これに対立する情報(本当はデマ)を信じてしまう傾向にある。それらの情報源(デマの発信源)をつきとめると全く証拠が無いことが分かるのだが、信者はそれを言っても聞く耳を持たない。ここまでくるとカルトと言っていいだろう。

DS陰謀論を利用してカルトたちをコントロールしようとする人たちがいる。本章ではロシアの例が書かれている。DS陰謀論に限らず、陰謀論カルトが海外からコントロールされるような事態を筆者は危惧している。人数が増えれば危険度も上昇すると。

この本で書かれていないが、DS陰謀論の発祥の地アメリカでは軍内の陰謀論者を洗い出す作業をしたそうだ。日本もDSを信じている政党(参政党)もあるので他人事ではない。

第三章について

「日本が見習うべき“お手本”北欧の迷走」で「手本」に「“ ”」がついているのは、本当に手本にすべきところと、反面教師とすべき点があるからだ。「迷走」とあるが、ちゃんと見習うべきところもある。

本章で取り上げられている北欧の国はスウェーデンフィンランド。2つの国がNATOに加盟することにトルコが反対しているという時事問題を取り上げている。

個人的にはこの問題よりもトルコを含む3カ国の歴史的背景のほうが興味深かった。特に北欧についての情報は聞くことがほとんど無いので新鮮だった。北欧は日本から遠い国だが、ロシアの隣国という共通点があり、「侵略されるかもしれない」という共通の恐怖もある。そういう点で親近感を持ってしまった。フィンランドの国防意識は日本が見習うべき点だ。

もう一つの時事問題は移民問題スウェーデンが移民を大量に受け入れすぎて治安が悪化しているという話。この国は移民で成り立っている国ということもあって、移民は他のヨーロッパ諸国よりも歓迎していた。そして左派・リベラルは人道的な理想(と選挙の票)を求めて、さらに移民歓迎を煽った。その結果、スウェーデン語を使えない移民が大量に発生し、その結果、治安が悪化していった。政治的に改善しようとしているがなかなかうまく進んでいない。人口減で困りつつある日本にとっては反面教師になるだろう。

この本に書いていないことだが、高橋洋一氏によれば、移民の比率が全体で5%を超えると大変なことになるらしい。全体で5%を超えるということはある地域では影響力を持つレベルの比率を持つことが想定されるからだ。

youtu.be

なぜ日本で外国人によるテロが起こらないのかという問いには「人口が少ないから」という答えが一定の意味を持つだろう。

第四章について

尹錫悦大統領はそれまでの親中・左派政策を大きく転換し、親米・右派政策を採っている。日本にすり寄ってきているというイメージすらある。このような薄気味悪さを覚えるような状況をどのように観察すればいいのか、というわけで(多少は)興味を持つ日本人が増えているようだ。

この章は歴史的背景が大半だが、主題は韓国論・韓国人論だ。「指桑罵槐(しそうばかい)」という言葉は岡田英弘(故人)の中国人論『この厄介な国、中国』 *2 でも取り上げられていたもので懐かしかった。中国と歴史的に深い関係にあった韓国でも同じ文化が染み付いているらしい。

ただしこの章で最も重要なキーワードは「理」。朱子学理気二元論の「理」だが、歴代のコリアンの考えが入り混じった「理」であることを忘れてはならない。著者によればこの考えは現代韓国に今日でも根強く残っている。

「 理」 は「 万物 が この世 に 存在 する 根拠、 根本 原理」、「 気」 は「 万物 を 構成 する 物質」 を 意味 し て おり、 すべて の「 気」 は「 理」 によって 統御 さ れ て い ます。

この 理気 二元論 に 基づき、 韓国 人 は、 すべて の 根本 原理 と なる「 理」 を 非常 に 重視 し ます。「 理」 とは「 ことわり( 理)」 で あり、 すべて の 出発点 です から、 それぞれ の 体制 を 支える 思想 や イデオロギー、 あらゆる 価値観 も、 さかのぼっ て いけ ば、 最後 には その 源泉 と なる「 理」 に たどり着く わけ です。 逆 に、 出発点 で ある「 理」 が 正しく なけれ ば、 そこ から 生まれ た 思想 や 価値観、 さらに は それら に 立脚 する 体制 も 正しい もの にはなり ませ ん。

出典:内藤 陽介. 今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方 - (pp. 201-202). 株式会社ワニブックス. Kindle Edition.

「理」は韓国人が行動方針を決める時の根本的な思考原理ということらしい。

もう一つ引用。

「理」 の 価値観 では、「 終わり よけれ ば すべて よし」 では なく、「 始まり が 悪 なら すべて 悪」 なの です。 これ では、 本来、 結果 責任 を 問わ れる べき 政治家 や 政権 について の 評価 は 歪 な もの に なら ざる を 得 ませ ん。

出典:内藤 陽介. 今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方 - (pp. 256-257). 株式会社ワニブックス. Kindle Edition.

そりゃ理想としてはそうでしょうけど現実見ようよ...と言いたくなる。「反日無罪」に通ずるような思想。従軍慰安婦問題で、韓国側は過去の事実を軽視してゴリ押ししつづけたが、資料を持っていないだけでなく、以上のような思想を持っていたからあんな行動をとったのだろうか。

政治家・政権は結果によって評価・責任が問われる、と私も考えているのだが、日本人の中でもそう考えていない人がいるような気がしてならない(大手マスコミの中にもそういう人が少なからずいそう)。蛇足。

さて、この本では「理」を政権交代時の「大義名分」という意味でも使っている。つまり新しい政権ができた時にその政権がどんな方針を持っているのかを説明するものだ。その「理」が尹錫悦政権になって大きく「右回旋」した...

長くなりすぎたのでここまで。

第五章について

この章は日本・日本人論とそれを元にした日本の政治について。

日本人論については2つ(両方とも見出し)。

  • 日本人は「突出したもの」や「絶対的な中心」を嫌う
  • 苦労・我慢・忍耐を信仰する日本のマゾヒズム

前者は日本人なら分かると思う。実益のないリーダーになんて絶対やりたくない。リーダーをやらされた挙げ句に文句言われるだけだからね。こんなことは小学生でも知っている。

後者はどうだろう。

禁欲主義 は、 たとえば キリスト教イスラム教 文化圏 の 社会 では 特殊 な 人 たち でし た が、 逆 に 日本 の 場合 は そういう 禁欲主義 的 な 気質 の ほう が 社会 の スタンダード に なっ て しまい まし た。 三方一両損 的 に みんな が 少し ずつ 我慢 する 形 に し てでも みんな の 納得 を 優先 さ せる 傾向 が ある のも この ため です。

出典:内藤 陽介. 今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方 - (p. 297). 株式会社ワニブックス. Kindle Edition.

三方一両損と言えば大岡裁き。生みの親と育ての親の争いも大岡裁き。これらが美談と考えるのも日本人の行動様式かもしれない。「損して得取れ」的な考え方自体はいいのだが、最終的に自分が得を取れなくても、その場が丸く収まってくれることを優先してしまうことが、著者が主張する「日本のマゾヒズム」なのだろう。

具体的にマゾヒズムの事例はなにかと言えば「将来の子どもたちのために増税しよう」とか「地球環境のためにレジ袋を有料化しよう」みたいな主張がまかり通ってしまうところ。

つぎに政治。まずは政党について。

日本人 は 前述 の 通り、「 突出 し た もの」 や「 絶対的 な 中心」 を 嫌い、 理念 や イデオロギー の もと に 集結 する のが 苦手 なので、 日本 の 社会 には そもそも 欧米 型 の 近代 政党 が 生まれ にくい 土壌 が あり ます。

出典:内藤 陽介. 今日も世界は迷走中 - 国際問題のまともな読み方 - (p. 300). 株式会社ワニブックス. Kindle Edition.

では何で政党ができているのかと言えば「利権・利益を分配するため」。よって日本の政治家は利益団体の代理人であって彼らは分配の分け前を多くするため・確保するために働くのであって国益のために働いているというのは誤解だ(というのが著者の主張)。なので分配が多くなるのなら増税するのは至極当然のこと。

なので、利益団体のうまみを得られない一般庶民としてどのような行動をすればいいのかと言えば、一つは落選運動。これはここでは触れないとして、もう一つは「減税+規制緩和」の主張。これは「小さな政府」論の話だ。

規制緩和は特定の利益団体への利益をなくして(減らして)金回りを良くすることと技術革新を促進することにつながる。

小さな政府vs大きな政府という対立軸で政党ができれば欧米型の近代政党が出来るかもしれない。

最後に、個人的な感想

世界各国の時事問題・国際問題を扱う本だが、それをちゃんと理解するために各国のお国柄も説明している。むしろお国柄の説明のほうがぼりゅーむがあるので、こっちのほうがメインのような気がする。

日本から遠い国でも同じような問題を抱えているということで、身近に感じることができた。各国の成功例・失敗例が日本の政策立案に使える。

日本も含め各国の政治はどこもグダグダで(先進国はグダグダ、それ以外はもっとグダグダ)、国際政治は混沌を極めている。だからどうだという話だが、「日本は酷い国だ」という人がいたら「おまえ他の国みてみろよ、日本はマシなほうだぞ」と言い返すことができる。

国際政治は弱肉強食のヤクザな世界が基本で、日本が世界でうまく立ち回るためにはまずは基本の「敵を知り己を知る」こと。これは誰でも分かることだが、では何を知るべきかというところが分からない。このほんはそこを示してくれる。

本の構成のことを言えば、目次に見出しも載せてくれたことはありがたかった。読み返す時に便利。欲を言えば、kindleで読んでいるのだが、見出しにもリンクを貼ってくれるとありがたい。

(終わり)



*1:とはいえ、他の先進国と比べるとまだまだ意識は低いらしい。特にマスコミ。

*2:『妻も敵なり』の改題