歴史の世界

【読書ノート】江崎道朗 『なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力』

DIME」(後述)については、数年前より著者が日本に普及しようと努めている言葉だ。本書は、「DIME」という言葉については割りと簡単に説明できるが、これが国家にとってどれほど重要なものなのかを説明している本だ。

出版社による紹介と目次

企業人から政治家まで全日本人が学ぶべき新しい「経済安全保障」の教科書。
かつてないほど世界は複雑になっている。経済的な事象から世の中を読み解こうとしても、安全保障上の脅威がすべてを塗り替える時代になった。「経済安全保障」がビジネスの一大トレンドになっているのも、世の必然だろう。
そうした時代のなかで、いかに日本と世界の未来を見抜けばよいのか?
それを可能にするキーワードがある。「DIME」という言葉だ。
DIME」とは、Diplomacy=外交、Intelligence=情報、Military=軍事、Economy=経済の4要素を組み合わせた国家安全保障の基本戦略である。そして、じつはこのDIMEに則って、アメリカや中国などの覇権国は国家戦略を組み立てていることが、本書を読めば理解できるはずだ。
ならば、日本はこのDIMEという概念をどこまで採り入れているのか? その歩みを学んだうえで、ビジネスパーソンはいま、いかなる視点をもつべきか。
米中経済戦争からウクライナ戦争、台湾有事まで、その裏側にあるメディアが伝えない核心を、マーケットにも精通するインテリジェンス研究の第一人者が描き出す。新しい「経済安全保障」の教科書。

第1章 国家の「独立」とはどういうことか
第2章 「覇権国家」は世界をこう捉えている
第3章 「戦後レジーム」と「独立国家の学問」
第4章 たった十年で劇的に変化した日米同盟
第5章 ウクライナ戦争を「DIME」で読み解く
第6章 企業が知るべき「経済安全保障推進法」
第7章 「有事対応」は日本企業の社会的責任だ
第8章 日本の安全保障史の試行錯誤に学べ
終章 戦前に失われた「I」を求めて

出典:Amazon.co.jp: なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 : 江崎 道朗: 本

内容に入る前にいくつかの用語について

安全保障と経済安全保障

「安全保障」という言葉は基本的に国防と同義で良いと思う。旧来は、「国防省」とあるように国防≒安全保障は「他国・他勢力の武力(軍事)から国家を守る政策や組織を含む概念」くらいの意味だったが、近年では外交や経済その他も統括して「国家の安全を保障する(守る)」ことを考えるようになった。

もちろん、昔から外交や経済などは国防と密接なものであったが、組織の縦割りの弊害のため各部門が他分野に関して無知無関心ということすらあった。近年はこれを統合し意思疎通を図り、効率的な運営をしようという話になっている。代表的な組織が「NSC(国家安全保障会議、英語: National Security Council)」だ。

「経済安全保障」はその「安全保障」の経済部門だと思えばいいだろう。例えば、ロシアが西欧に対して「◯◯をしなければガスパイプラインを停止する」と脅したり、中国が「レアアースを売らない」と言ったりしてきた場合に「国家の安全を保障する」手段を考えるということだ。

2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」については本書にも書いてあるし、ネット上にもわかりやすい記事がたくさんある。

この本は、DIMEと安全保障全般(過去と現在)が書かれているが、《企業人から政治家まで全日本人が学ぶべき新しい「経済安全保障」の教科書》という文言があるように、読者ターゲットは経営者や企業幹部のようだ。《第7章 「有事対応」は日本企業の社会的責任だ》とあるように、彼らに安全保障とDIMEについて見識を持つように訴えかけている。もちろんそれらを学ぶことでトラブルに巻き込まれるリスクを避けるなどの利益も得られるだろう。

国家戦略

――国家戦略とは何でしょうか。
(ローレンス・フリードマン)「国際社会の中で自国をどう位置づけるかという考え方だ。軍事の視点とともに政治、経済、文化の視点も入れて。同盟相手や国際機関に対しどんな姿勢で臨むのか。誰が敵になりそうで、誰が問題を引き起こしそうかも考える」[中略]

――国家戦略とは何ですか。
(兼原信克氏)「国としての一番大事な目標を定めて、それを実現するにはどうしたらいいか、という方策を組み合わせて考えることでしょう」

出典:asahi.com:朝日新聞 新戦略を求めて ―ニュース特集―

国家戦略とは兼原氏が言うように国家の目標を実現するための方策(戦略)なのだが、フリードマン氏が言うように「国際社会の中で」という面がある。そしてフリードマン氏が言う「国家戦略」は、上述した近年の「安全保障(または安全保障戦略)」と重なるところが多い。

インテリジェンス

平たく言えばインテリジェンスとは情報のことである。そしてその本質は、行動のために論理的で正確な情報を得ることにある。[中略]

政治や国際関係の分野においてインテリジェンスという用語を使う場合、その定義は「国家の外交・安全保障政策に寄与するために収集・分析・評価された情報、またはそのような活動を行う組織」の意味で使われることが多い。長らく日本では「諜報」という言葉が当てられてきたが、諜報というと秘密裡に行われる情報収集活動という意味になり、インテリジェンスの定義に比べるとかなり狭い。[中略]

国家にとってのインテリジェンスとは、国際関係という法的な秩序の弱い世界にあって、その安全を確立するために、日々情報を収集し、活用するための国家知性にあたるということだ。[中略]

国家レベルのインテリジェンスとは「国家の知性」を意味し、情報を選別する能力ということになる。[中略]

今や国際政治や安全保障分野でインテリジェンスと言えば情報を指すが、同じ情報でもインフォメーションは「身の回りに存在するデータや生情報の類」、インテリジェンスは「使うために何らかの判断や評価が加えられた情報」といった意味合いになる。

インフォメーションやデータの類は、我々の周りに無数に存在している。しかしそれらはそのままでは使えないことが多い。そのため我々はデータを取捨選択し、加工して利用するのである。これを天気予報で例えるなら、気圧配置や風向きはインフォメーションにあたり、それらデータから導き出される「明日の天気」が加工された情報、これがインテリジェンスということになる。

出典:データに付加価値を与える――インテリジェンスとは何か/小谷賢 - SYNODOS

DIMEの例(例え話)

本書の「はじめに」にDIMEの例え話が書いてある。

たとえば アメリカ は、 仮に 米 中 で 戦争 が 起こっ た とき、 国務省 を 使っ て 外交 交渉 を する( D) だけで なく、 軍事 的 に 中国 を 恫喝 する( M)、 財務省 を 使っ て 在米 の 中国共産党 幹部 の 資産 を 凍結 する、 商務省 を 使っ て 中国 系 企業 を アメリカ 市場 から 追放 する( E)、 FBI( 米 連邦 捜査 局) などを 使っ て 在米 の 中国共産党 幹部 の 関係者 を 拘束 する( Ⅰ) といった、 外交( D)、 軍事( M)、 経済( E)、 インテリジェンス( Ⅰ) を 使っ て 対抗 措置 を とり、 在中 の アメリカ 人 たち を 守ろ う と する に ちがい ない。 あるいは 在米 の 中国共産党 幹部 の 関係者 を 拘束 する など し て、 人質 交換 といった 手段 を 駆使 する こと も いとわ ない だろ う。

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 8). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

まあ今の日本政府に同じことが出来ると思わないが、上はあくまでも例え話だ。DIMEを使った別の方法を考えることは出来るだろう。

第1章について

国家の「独立」についての話。

ここでは「ルック・イースト」という懐かしい言葉が出てくる。「失われた◯十年」に入る前の時代の日本は各国から憧れや嫉妬の目で見られるほど輝いていた。

「ルック・イースト」はマレーシアのマハティールだが著者は彼のブレーンに会って話を聞いた。

ルック・イースト政策を始める前に近代産業国家になるための政策を考えていた時、イギリス人から「キリスト教圏でないマレーシアは近代産業国家になれない」と言われた。その論拠になったのがマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』だった。私はこの本を読んだことはないが、小室直樹氏の本で何度か引用されていたことは記憶している。簡単に言ってしまえば「プロテスタンティズムの倫理が資本主義の精神を生み出すのであってその倫理がなければその精神は生まれない」のような論だ。

小室氏はこの論を以って「日本は資本主義国家ではない」と書いていたが、くだんのブレーンはそうは思わなかった。彼はイギリス人の言うことを聞いても埒が明かないと考えて日本を参考にして近代産業国家を目指そうとした。

ブレーン曰く、

「独立 には 三 段階 ある。 政治的 独立、 経済的 独立、 そして 精神的 独立 だ。 マレーシア は( 一 九五 七年 に マラヤ 連邦 として イギリス から) 政治的 独立 は 勝ち とっ た ものの、 経済的 独立、 精神的 独立 は まだ だ」

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 19). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

「政治的独立」は宗主国からの独立。「経済的独立」はここでは自他ともに認める「近代産業国家」になることを意味する。

著者は戦後になって経済大国になってG7の一員となり国際政治の中で発言権を持った日本と当時のマレーシアの状況を対比して次のように述べる。

経済的 に 発展 し なけれ ば、 政治的 には 独立 し ても、 国際 社会 で 発言権 を 保持 でき ない。 経済 力 が ない 発展途上国 は 先進国 から まとも に 相手 に すら し て もらえ ない の だ。 それ が どれほど みじめ で つらい こと か。 その 苦悩 を 実感 として 理解 できる 日本人 は 多く ない だろ う。

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 21). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

「近代産業国家」ならなければ他国に影響を及ぼす力を得られない。結局、どこかの国々が作ったルールに従うだけの国家でしかない......

うーん...。経済大国かつG7の一員で国際政治の中で発言権を持っているはずの日本が、その発言権を行使して国際社会に影響を及ぼしたことはいくつあっただろうか?第二次安倍政権より前にいくつあっただろうか?

話を戻す。前述のようにかつての宗主国イギリスは「マレーシアが近代産業国家にはなれない」と言った。これはマレーシア側からすれば「マレーシアは経済的独立はできない」と言われたようなものだ。「経済的独立」はイギリスからの経済的な独立を示すものだ。

3つ目の「精神的独立」。

マレーシアは独立後に「独自の歴史教科書の作成」を行った。それまではかつての宗主国イギリスが作成したものを使用していたが、その教科書には独立運動の指導者たちを「反乱者」と書いていた。宗主国目線の歴史観を断ち切り、現代マレーシアを肯定する歴史観を確立する。こうして「精神的独立」を確立する。

日本は大戦後からいわゆる「自虐史観」による歴史教科書で勉強させられてきた。これにより「経済的独立」は達成した後も「精神的独立」が遅れたのかもしれない。自虐史観中韓におもねったものだが、皮肉にも依存心はアメリカに向かっているのだが。

さて、まとめると、

  • 政治的独立→宗主国からの独立する。
  • 経済的独立→宗主国からの経済的な依存を断ち切るために近代産業国家になる。
  • 精神的独立→宗主国からの精神的な依存を断ち切るために独自の歴史教科書を作成する。

著者がマレーシア人から学んだことだが、これは日本人にとっても有用なことだ。

第2章について

章のタイトルは《「覇権国家」は世界をこう捉えている》だが、中身はインテリジェンスの話だった。

覇権国家アメリカは世界覇権を維持するために、「どのように動こうか」ではなく「どのように他国を動かそうか(コントロールしようか)」を考えている。一国だけで動き回ってどうにかなるのはせいぜい周辺の国々だけだ。世界を股にかけようとしたら他国を動かすよりほかはない。

相手 を コントロール しよ う と する 人間 は、 相手 の こと を 深く 知ろ う と する。 アメリカ や 中国 や ロシア は、 日本 を 含む 相手 の 国 の 内情 を 必死 で 調べ、 宣伝、 恫喝、 経済的 利権、 ハニートラップ など あらゆる 手段 を 使っ て 相手 を コントロール し、 自国 の 国益 を 確保 しよ う と する。

この 相手 の 国 を コントロール する 目的 で 相手 の 内情 を 調べ、 対策 を 講じる こと こそ を、 インテリジェンス と 呼ぶ。

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 44). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

一方、日本の「インテリジェンス」はどうなのか? よく「日本にはスパイ防止法がない」と言われるように日本のインテリジェンス事情は良いとは言えない。サイバー攻撃の被害などにより、近年こそ日本の政治家が重要だと祝えるようになったが、それまではお粗末だったということはよく聞くことだ。

それにも事情があって、日米戦争で敗北した日本は、アメリカに武装解除とともにインテリジェンスも解体されてしまった、ということだ。奪っただけでなく、インテリジェンス関連の研究(=独立国家の学問)は禁止された。地政学もその一つだ。

著者は、新しい時代のインテリジェンスは、他国から知識を輸入するだけではなく、過去の失われていた日本のインテリジェンスの知識を探し出して収集して、戦前の日本のインテリジェンスの遺産を再構築して今後の日本に活用できるようにしなければならない、と主張している。

第3章について

3章は「独立国家の学問」つまりインテリジェンス関連のここ十数年の激変の変遷について。頓挫した第一次安倍政権、思い出したくもない中国漁船衝突事件、時を経て創設された日本版NSCとこの路線を継承する現在の岸田政権まで。

NSCが発足した時、私はこれが何なのか全く分からなかった。NSCどころかインテリジェンスが何なのかも知らなかったのだから。そして今、NSCとインテリジェンスを知って十数年を振り返れば、NSCの誕生が衝撃的なものだったことは理解した。それまでは「日本版CIAを作れ」とか「スパイ防止法を作れ」とかいう主張に頷くしかなかった。

この章ではNSCについて詳しく書かれているが、とりあえず下記の一文を引用。

この 関係 省庁 が 総理大臣 主導 の もと、 一堂 に 会し て 国家 安全保障 について 定期的 に 会議 を 行ない、 DIME に 基づく「 国家 安全保障 戦略」 を 策定・推進 する かたち へと、 日本 政治 の 仕組み が 変わっ た ので ある。

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 66). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

「DIME」ほか各省庁は情報を共有してこなかったが、この縦割り行政の弊害がNSCにより解消される。情報だけではなく、人的な交流も行われるようになり、「安全保障は防衛省などに個々に丸投げするのではなく、すべての省庁で守る」という意識も生まれた。これらの意識はロシアのウクライナ侵攻と台湾有事の可能性が大いに絡んでいることだろう。

第4章について

「たった十年で劇的に変化した日米同盟」というタイトル。

十年で激変した理由は第二次安倍政権のほかに米中対立という要因があった。というか安倍政権の安全保障改革が成功したのは米中対立が本格化したことが一番大きな理由だ。他の大きな理由としてはプーチン・ロシアの侵略的な動きが挙げられる。

この章では激変しなければならない要素と近未来にどうあるべきかという指向が具体的に書かれている。安倍政権以前はアメリカからの要求に従ったりサボったりしていた日本が、近年では頭と膝を突き合わせて安全保障の未来がどうあるべきかを議論している。

このように激変しているのだが、大手マスコミと一般的な日本人の反応の鈍いと著者は重ねて書いている。

第5章について

「第5章 ウクライナ戦争を「DIME」で読み解く」

ウクライナ戦争より前に、ロシアはクリミアを侵攻・併合した。その巧妙なやり口は「ハイブリッド戦争」の用語を世界に拡散した。

その後、ロシアはさらにウクライナへの侵略を企てて様々な動きを見せていたが、今回のような大規模な軍事侵攻をするとは(あまりにもリスクが高すぎるため)思われていなかった。

だが、ウクライナ国自身はこの軍事侵攻への対策にしっかりと取り組んでいた。この章ではウクライナがどのようにロシアを食い止めたのかが書いてある。

そして「ウクライナ戦争はDIMEを学ぶリアルな教材」としている。

第6章について

第6章 企業が知るべき「経済安全保障推進法」

中国が急速な発展をした理由の一つとして、日米ほかからの技術の流入がある。その中には違法な手段をもって入手したものもあるとされているが、私は詳しくはしらない。

「経済安全保障推進法」の成立の理由は以下の通り。

岸田 政権 が 二 〇 二 二 年 五月 に 成立 さ せ た この 法律 は、 文字どおり 安全保障 の 観点 から、 つまり、 有事 や 緊急事態 において も 経済 を いかに 維持 する のか、 また、 敵対 国 による 産業 スパイ から 日本 の 技術 を いかに 守り 育てる のか という 観点 で、 包括的 な 対策 を 強化 する ため の もの で ある。

出典:江崎 道朗. なぜこれを知らないと日本の未来が見抜けないのか 政治と経済をつなげて読み解くDIMEの力 (p. 121). 株式会社KADOKAWA. Kindle Edition.

「経済安全保障推進法」に関しては、政府がわかりやすいように説明をネットにアップしているし、他にもわかりやすい説明がネットにある。

「企業はある程度、政府のコントロール下に入ってもらうが、その代わり以下の法律を遵守せよ」のようなことかと思う。企業の技術の流出は、企業だけでなく国家の損益に関わってくる。米中冷戦が本格化したからそれほど抵抗なくこの法案が成立したのかもしれない。

というのは、「エコノミック・ステイトクラフト(経済的嫌がらせ)」というものがあるからだ。最近の例では、原発の処理水を海に放流した際に中国が日本からの魚介類を全面輸入禁止にしたことが挙げられる。

また、この法律の指向は海外にも向いている。簡単に行ってしまえば、経済における中国包囲網だ。

現在、中国では「一帯一路」という海外展開により自国の縄張りを拡大している。対抗する自由主義国側(アメリカグループ)は、自分たちの縄張りを防衛することはもちろん、敵陣営や迷ってる国々に対して、「中国は危ないですよ。こっちに入りましょう」と呼びかけている。そのために、中国のような強権発動を制限するようなルールを自由主義国側は作り明示して、「こちらの方が安全で確実な利益が見込めますよ」と宣伝する。

第7章について

第7章 「有事対応」は日本企業の社会的責任だ

企業も上記のような状況を察して著者のような安全保障に詳しい人間を招待して情報収集をし始めている。しかし著者は企業の緊張感も情報もまだまだ不足しているという。

「新疆綿」問題のように、企業が国際情勢・社会情勢に無関心であることが許されない。それは普段からそうなのだが、米中冷戦の緊張の下ではさらなる繊細な対応が求められる。最悪の場合、不買運動を起こされたり、中国から直接攻撃を受けたりすることになりかねない。

さらに有事ともなれば企業は「政府は何をやってるんだ!」と全て国家その他の行政府に責任転嫁をすることはできない。 有事対策を怠った企業は有事の際に潰れるか有事の後にSNSで晒されて潰れるかのどちらかになるだろう。

著者は目標、あるべき姿を提示する。それは戦時下のウクライナの首都キーフだ。支障は全く無いとは言えないが、庶民はかなり普段通りに近い形で生活を送れている。そのためには民間のインフラが通常通り維持されていることが不可欠だ。この状態を維持するためには当然ながら企業の「有事対応」がしっかりしたものでなければならない。

第8章について

第8章 日本の安全保障史の試行錯誤に学べ

安全保障における戦後史は、「安倍以前」と「安倍以後」に分かれると言っていいだろう。ただし、日本がどうして安全保障に無関心になり、必要なのに真剣に考えてこなかったのかを知るためには過去を省みなければならない。

米ソ冷戦中、日本はアメリカの核の傘の中で安全保障に無頓着になっていた。「水と安全はタダ」なんて言われていた。これが冷戦が終わるとアメリカがソ連の次のターゲットに日本を選んだ。日本経済が低迷した原因は色々あるが、アメリカの経済的な攻撃は重要な要因の一つだ。

この章を見れば、歴代の政権が全く安全保障問題に取り掛かっていないわけではないのは分かる。それでも「安倍以前」のスピードは亀の歩みのように遅かった。

「安倍以後」、つまり安倍第二次政権でNSCに代表されるまさに画期的な大改革が行われ、現在の岸田政権でもこの路線を踏襲している。それでも「やらなければならないこと」は山積しており、新しい問題も次から次へと出てきているらしい。

終章について

終章 戦前に失われた「I」を求めて

失われた「I」。陸軍中野学校を中心とした戦前の日本のインテリジェンスの話。日本のインテリジェンス周りの知識は米軍占領時に大量に破棄させられたのだが、残りの大部分もその価値を理解できなかった政治家たちによって破棄されることとなった。

日本で失われた「I」を再興しなければならないのだが、残念ながら日本に適当なテキストとなるようなものはなく、著者がテキストとして推しているのが元CIA情報分析官スティーブン・C・マルカード 『陸軍中野学校の光と影』だ。

「光と影」つまり偉業と欠陥をよく吟味・分析してこれを新しく作る現代のインテリジェンス期間に活かすことを提唱している。

感想

もっと詳しくここに書き留めようと思ったが、kindleの引用が早い時期にストップがかけたためできなかった。

岸田政権は安倍路線を引き継がないのではないかという不安があったが、(経済はともかく)安全保障面では路線を継承しさらに発展させようとしていることがわかった。米中冷戦、具体的には台湾有事が目の前にあるのだから霞が関公明党も抵抗できないだろう。

法律に関しては省庁のwebページで一般国民でも理解できるように書いてある(少なくとも理解してもらおうとしている)。こうなると一般国民は有事の際に「国はなにをしてるんだ!」とはなかなか言えなくなるだろう。もちろん国が現在において十分な準備をしているというわけではないが。