歴史の世界

先史:南北アメリカ大陸の農耕の起源について

紀元前3000年頃までは、アメリカ先住民すべてが基本的には狩猟採集民であり、異論もあるがおそらくはいくつかの熱帯地域では初期段階から園芸をおこなっていた。[中略] エクアドル南部やペルー北部のいくつかの地域では例外的にきわめて早期にみつかっているが、アメリカ大陸熱帯地域全体でもっとも古い農耕定住から先古典期をへて後期都市期への発展は、紀元前2000年~300年のあいだにおこった。西南アジアにおける先土器新石器時代のイェリコ期から原文字ウルク期まで、あるいは中国における裴李崗(はいりこう)期から商王朝までの約5000年以上の期間におこったことが、この短期間におこっているのである。人口密度の高い熱帯アメリカ地域の文化連続は、劇的な様相がある。この発展はほかの地域より少し遅れてはじまり、急激でひどく競争的でとても創造的である。

出典:ピーター・ベルウッド/農耕起源の人類史/京都大学学術出版会/2008(原著は2004に出版)/p230-231

西アジアと中国は必要に迫られて栽培化を発明したが、アメリカ大陸の栽培化は園芸の範囲内ということらしい。初期の栽培化も主食となりうるようなもの(例えばトウモロコシ)ではなく、香辛料や工芸植物(例えばトウガラシやヒョウタン)だった。前2000年より前に栽培化された作物はいくつもあるが、これらは園芸または小規模な農耕の範囲内だった。

前2000年以降に本格的に農業が開始され、家畜や役畜も利用されるようになる。また文化間の交流も盛んになったようで、文化の共通性が高くなっていった。

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出典:ベルウッド氏/p229

上の地図が示すように、幾つかの地域で独自に農耕が起こった。同じ作物でも別々に栽培化されたものがいくつかあるようだ。

栽培作物

以下に幾つかの作物の栽培化の起源を書いていくが、上記の通り、本格的な(集約化した?)農業が始まるのは前2000年頃と考えたほうがいい。

トウモロコシ

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Photo by Nicolle Rager Fuller, National Science Foundation

出典:Corn Domesticated From Mexican Wild Grass 8,700 Years Ago/National Geographic/March 23, 2009

上の記事によれば、トウモロコシは8700年前よりも前にテオシントという植物から栽培化された。写真の通りテオシントとトウモロコシは似ても似つかないが、人が数千年かけて選別して大きな実をつけるものに変えていった。

ジャガイモ

「Late Archaic–Early Formative period microbotanical evidence for potato at Jiskairumoko in the Titicaca Basin of southern Peru」*1という論文によれば、ジャガイモの栽培化はティティカカ湖畔のJiskairumoko(遺跡名)で前3400年に始められた。この論文のAbstractしか読んでいないが、Abstractでは栽培化と農耕を分けて書いていなかった。さらに同時期に定住化が始まったとしている。ここらへんは論文発表の段階では差別化はまだできていなかったのかもしれない。

この論文を取り上げたニューヨーク・タイムズの記事によれば*2、同じ場所で前2000年に作られた金のネックレスが発見された。これは社会の階層化を示すものとされる。

現在普及されているジャガイモとティティカカ湖畔で栽培化されたジャガイモの関係について。↓

ジャガイモは南米アンデス中南部のペルー南部に位置するチチカカ湖畔が発祥とされる[15][16]。もっとも初期に栽培化されたジャガイモはSolanum stenotomumと呼ばれる染色体数24本の二倍体のもので、その後四倍体のSolanum tuberosumが栽培化され、現在世界中で広く普及するに至ったとされている[17]。

出典:ジャガイモ<wikipedia(参考文献は山本紀夫 『ジャガイモとインカ帝国 : 文明を生んだ植物』 東京大学出版会、2004年。ISBN 4130633201。)

カボチャ

セイヨウカボチャ:Cucurbita maxima

現在「かぼちゃ」として市販されているもののほとんどが「栗かぼちゃ」なのだそうだ*3。栗かぼちゃというのは「セイヨウカボチャ(西洋かぼちゃ、学名: Cucurbita maxima)の日本の品種群」だそうで、「Cucurbita maximawikipedia英語版」によれば、4000年以上前に南米で栽培化されたものだ。

ニホンカボチャ:Cucurbita moschata

栗かぼちゃとは別に日本で市販されている種。「ニホンカボチャ」とは言っても原産地は南米らしい。いつ頃栽培化されたのかは分からない。*4

ペポカボチャ:Cucurbita pepo

「カボチャの農耕起源は8000年以上も前」と言われるが、そのカボチャは「ペポカボチャ」という種で、メキシコで栽培化された(Guilá Naquitz Cave<wikipedia英語版参照)。ペポカボチャの品種で有名なのはズッキーニだが、食用以外の用途もあるらしい。

*1:Claudia Ursula Rumolda and Mark S. Aldenderfer/PNAS/2016

*2:Who First Farmed Potatoes? Archaeologists in Andes Find Evidence/New york times/ 2016/11/18

*3:栗かぼちゃ<wikipedia

*4:Phylogenetic relationships among domesticated and wild species of Cucurbita (Cucurbitaceae) inferred from a mitochondrial gene: Implications for crop plant evolution and areas of origin/PNAS/2002/authorsはリンク先参照