歴史の世界

2017-01-01から1年間の記事一覧

メソポタミア文明:初期王朝時代③ 第ⅢA期/ウル王墓/ウルのスタンダード

記事「メソポタミア文明:初期王朝時代② 第Ⅰ期・Ⅱ期」の第2節「政治史的動向」に第Ⅱ期は「点在していた都市国家や中小村落が統合されて一つの領域を形成していく過渡期の時代」と書いたが、第ⅢA期もその過渡期は続いていた。 この記事では南メソポタミアの…

メソポタミア文明:初期王朝時代② 第Ⅰ期・Ⅱ期

前回、時代区分のところで書いたが、第Ⅰ期・Ⅱ期などの時代区分は考古学の研究成果によるもの(編年)で、政治史としてこの時代区分を使用するのは、便宜的に使用しているだけだ。言い換えれば、政治史としての区分でなく、考古学の区分に政治史を当てはめて…

メソポタミア文明:初期王朝時代① 時代区分/範囲/民族および言語

これから数個の記事に亘って初期王朝時代のことを書いていく。 初期王朝時代を簡単に言ってしまえば、「(都市)国家分立時代」となる。同様の時代は古代ギリシアや中国の春秋戦国時代などがある。 時代区分 範囲(舞台) 民族および言語 Map showing the ex…

メソポタミア文明:ウルク・ネットワークの広がり(物流網/文化の拡散/都市文明の拡散)

南メソポタミアは、このブログで何度も触れているように、資源というものがほとんど無い。都市と市民の生活の維持に必要な物資は他の地域から輸入しなければならない。 ウルク期の前の時代、ウバイド期の後半に南メソポタミアと他の地域をつなぐ物流網は既に…

メソポタミア文明:戦争のはじまり/「国家」の誕生

戦争 現在では,国家を含む政治的権力集団間で,軍事・政治・経済・思想等の総合力を手段として行われる抗争(内乱も含む)をいう。従来は,狭く国家間において,主として武力を行使して行われる闘争のみが戦争と定義されていた。 出典:百科事典マイペディ…

メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ④(聖婚儀礼・王)

前回の記事「メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ③(神)」から引き続いて書く。 今回も前回同様に小林登志子著『シュメル――人類最古の文明』と前川和也編著『図説メソポタミア文明』に頼って書く。 前回に引き続き、今回も上段のシーンに焦点を当てながら…

メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ③(神)

前回の記事「メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ②(牧畜・家畜)」から引き続いて書く。 今回も前回同様に小林登志子著『シュメル――人類最古の文明』と前川和也編著『図説メソポタミア文明』に頼って書く。 中段:剃髪した裸の神官 上段:神への献上 神(…

メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ②(牧畜・家畜)

前回の記事「メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ①(農耕・栽培)」から引き続いて書く。 今回も前回同様に小林登志子著『シュメル――人類最古の文明』と前川和也編著『図説メソポタミア文明』に頼って書く。 下段:農耕と牧畜の風景 ヒツジ ヤギ ウシ ブタ…

メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ①(農耕・栽培)

小林登志子著『シュメル――人類最古の文明』の第二章《「ウルク出土の大杯」が表す豊穣の風景》(p53~)と前川和也編著『図説メソポタミア文明』の序章《「ウルクの大杯」を読む 文明成立の宣言》(p6)で、ウルクの大杯が取り上げられている。 ウルクの大杯…

メソポタミア文明:ウルク期からジェムデト・ナスル期へ

シュメール文明が誕生したウルク期と、王朝が誕生した初期王朝時代の間にジェムデト・ナスル期という時代区分がある。この区分がどのような時代なのか、なぜウルク期と区別される必要があるのかを説明してくれる文献は「Jemdet Nasr period<wikipedia英語版…

メソポタミア文明:テル(遺丘)とジッグラト

テル(遺丘) ジッグラト テル(遺丘) メソポタミア文明の建造物の代表であるジッグラトに、触れる前にテル(遺丘)について触れる。 遺丘(いきゅう、英語: tell)とは、ある場所に繰り返し集落や都市が築かれた結果、その場所が丘のように盛り上がった状…

メソポタミア文明:文明誕生直後の神殿の役割

時代は変わっても神殿は都市の中心部に在リ続け、幾つもの重要な役割を果たした。 都市文明が誕生したばかりの時期は行政と宗教の運営が未分化だったが、時を経て分化していった。おそらく人口の増加や交易の多様化、インフラ事業の増大など業務が増えるにし…

メソポタミア文明:文字の誕生 後編(楔形文字)

世界最古の文字「ウルク古拙文字」は数詞と物を表す絵文字だけで記録をつけるために使われていた。 これからまた時が経つと、物と数字の記録だけでなく、「物と数字」の関係者たちの名前も書かれるようになっていった。例えば物の貸し借りの債権者と債務者、…

メソポタミア文明:文字の誕生 前編(ウルク古拙文字)

世界最古の文字はメソポタミアで誕生した「ウルク古拙文字」だ。 「拙」の字があるように、産まれたばかりの文字は絵文字もしくは記号のようなものだった。これが時を経て使いやすいように変わり、文字大系(現代でいうところのアフファベットや五十音)が出…

メソポタミア文明:文明の誕生、都市の誕生

文明はcivilizationの訳語だ。「civilizeすること=都市化すること」が文明の意味となる。 「文明」という言葉がついたものが全て都市を持っているかというとそうでもない。長江文明もトロイア文明も都市は持っていない。文明という言葉は曖昧なのだ。 今回…

メソポタミア文明:先史② ウバイド文化

メソポタミア文明の最初期はシュメール文明。シュメール文明は最古の文明と言われているが、その直前はウバイド文化で、それなりに栄えていた。 このウバイド文化とシュメール文明の差はなにか、という問題は別の記事でやるとして、この記事ではウバイド文化…

メソポタミア文明:先史① 土器新石器時代(アムーク文化とハッスーナ文化/ハラフ文化とサマッラ文化)

アムーク文化とハッスーナ文化 アムーク文化 ハッスーナ文化 ハラフ文化とサマッラ文化 ハラフ文化 サマッラ文化 上記2つの文化とメソポタミアの風土 西アジアの先史については「先史」カテゴリーにいくつか書いた。 先史:2万年前~(ケバラ文化/マドレ…

「メソポタミア文明①」シリーズを書く

これからメソポタミア文明シリーズを書く。「メソポタミア文明①」カテゴリーに保存する。 メソポタミア文明とこのブログの「メソポタミア文明①」カテゴリについて メソポタミア文明の時代区分は、一般的に「シュメール文明からアケメネス朝ペルシア帝国」ま…

四大文明から三大文明圏へ(枢軸時代/遊牧民)

四大文明については以前に《「四大文明」は学説でも仮説でもなく、ただのキャッチフレーズだった》という記事で書いた。 この記事では三大文明圏について書く。「三大文明圏」というのは、私がこの記事を書くために勝手に作った言葉だ。 またこの記事は私(…

「先史/ホモ・サピエンス 」カテゴリーの主要な参考図書およびウェブサイト

今回は疲れた。 まず複数ある参考図書が言っている年代が違う。主張が違うことも多い。 なんとかつじつまを合わせるなり両論併記なりして切り抜けようとすると、ナショナルジオグラフィックやネイチャーの記事が新しい説を発表しているというような感じだ。 …

先史:アフリカ大陸の農業の起源について

農耕の起源について続けて書いてきたが、この記事では農業(農耕と家畜)の起源について書く。もしかしたらアフリカ史的には農耕起源より家畜の起源のほうが重要かもしれない。 他の多くの地域もそうだが、アフリカの農業の起源についてある程度の通説を形成…

先史:南北アメリカ大陸の農耕の起源について

紀元前3000年頃までは、アメリカ先住民すべてが基本的には狩猟採集民であり、異論もあるがおそらくはいくつかの熱帯地域では初期段階から園芸をおこなっていた。[中略] エクアドル南部やペルー北部のいくつかの地域では例外的にきわめて早期にみつかっている…

先史:ニューギニア高地における農耕の起源について

『農耕起源の人類史』*1には農耕の起源地として西アジア、中国のほかにアフリカと南北アメリカ大陸とニューギニア高地を挙げている。 この記事ではニューギニア高地について書く。ニューギニア高地という言葉自体聞きなれていないので、まず場所の説明から入…

先史:中国における農耕の起源について

中国の初期農耕は黄河流域(華北)がアワ・キビ、長江流域(華中)はイネ(コメ)とされる。 中国本土(シナ)における農耕の起源または初期農耕の証拠はきわめて少なく、複数の仮説が並んでいる。 イネの栽培の起源について 珠江流域起源説 長江中流域起源…

先史:文化の衰退~PPNB後期と土器新石器時代

PPNB期に「新石器革命」、すなわち農業を基本とする生活様式が確立した。この人類の(狩猟採集から食料生産への)生活様式の転換は生活の安定をもたらし、人口は急激に増え、文化も育った。 しかし数百年に及ぶ繁栄した文化を支え続けてきた森林がついに…

先史:農業の誕生(新石器革命)と西アジアの新石器時代初期

寒冷なヤンガードリアス期が終わると温暖期が到来する。この画期は地質年代(地質時代)における更新世から完新世への移行期だ(ヤンガードリアス期は更新世の一部。ヤンガードリアス期や地質年代については当ブログ記事「最終氷期/ヤンガードリアス期/完…

先史:ナトゥーフ文化後期(ヤンガードリアス期)

ヤンガードリアス期とナトゥーフ文化後期 ヤンガードリアス期とは亜氷期(亜氷期については「氷河期/氷期/間氷期/氷河時代」参照)のこと。寒冷な時代。地球規模の現象だが主に北半球に大きな影響を与えた。 出典:ヴォルフガング・ベーリンガー/気候の…

先史:ナトゥーフ文化~「定住革命」

先史の最大のイベントは農耕の誕生(農業革命)なので、その手前にある「定住の始まり」というイベントにはスルーされがちだ。近年の発掘と研究の結果、定住型の狩猟採集民の生活が分かるようになってきた。 「定住→農耕の誕生」 定住しなかった人類 定住の…

先史:定住型文化の誕生~ナトゥーフ文化

ナトゥーフ文化の期間は、「Natufian culture<wikipedia英語版」によれば、前12500-9500年だが、後期の千数百年間はヤンガードリアス期という亜氷期と重なるため、全く違う文化だと思う。この記事では前期の話のみを書く。 気候 ナトゥーフ文化の誕生の原因…

新石器時代について

新石器時代の一番簡単な説明は「農耕・牧畜の始まりをもって新石器時代とする」というものだ。しかし縄文時代のように農耕・牧畜が始まっていないのに新石器時代とされているものもある(そうしない学者もいる)。 新石器時代はそれより前の時代より複雑なの…