歴史の世界

プロパガンダのテクニック一覧 その2(E~L)

前回からの続き。

E(3)

  1. Euphemism:婉曲表現。不快にさせる恐れのあるもの、タブー視されるものを別の言葉で表現する。
    【例】「死ぬ→他界する」「断る→遠慮する」
    また、「お手数ですが」「ご足労をおかけしますが」なども婉曲表現になるらしい(クッション言葉)。

  2. Euphoria:多幸感。豪華なプレゼントをしたり、表彰式などのイベントを行なって幸福感・士気を高める。
    国家としては、軍事パレードがEuphoriaの一部になるらしい(士気・愛国心を高める) *1

  3. Exaggeration:誇張。
    【例】他国に対して自前の武器のスペックや個数をかさ増しして発表する。
    「この商品を使えば、あなたの人生はバラ色だ」

F(6)

  1. False accusations:虚偽の告発・告訴。裁判沙汰にされた側は膨大な時間とコストを払うことになる。False accusationsの原告側を損害賠償で訴えて勝訴してもコストに見合う額を手にすることはできないらしい(←日本の場合。海外はわからない)。 *2

  2. Fear, uncertainty, and doubt (FUD):客に対してライバル会社の信頼性を貶めるテクニック。
    【例】プロバイダや携帯電話サービスのライバルに対して、「あそこは倒産しそうだ」「よくつながらなくなる」「〇〇という噂がある」などと言って不安を煽る。

  3. Firehose of falsehood:デマを反復的・連続的かつ大量・迅速に垂れ流す。
    【例】米大統領選後の大量のデマがこれ(ただしどのような目的なのか分からない)。

  4. Flag-waving:愛国心あるいは組織やイデオロギーに対する忠誠の名のもとに、ある行為を正当化する。
    【例】「愛国無罪」「反日無罪」。シー・シェパードの違法行為。

  5. Foot-in-the-door technique:始めに小さな要求を聞いてもらって、続けて大きな要求を受諾させるテクニック*3。押しに弱い人には効果的。訪問販売のテクニック。

  6. Framing (social sciences):相手または大衆の判断・選択の基準となる思考の枠組み(frame)をこちらで設定してしまうこと。
    【例】高級レストランにおいて、安いワインを「これは○○年ものの高級なワインです」といって飲ませると、客は高級なものだと信じてしまう *4
    また、別の有名な例が「コップの水」。「もう半分しか無い」といえば相手は不安になるし、「まだ半分もあります」といえば安心させることができる。 *5

G(4)

  1. Gaslighting:虐待・心理操作をするテクニック。DV、クラスや職場でのいじめなどあらゆる場面で仕掛けられる可能性がある。加害者は一人の場合も複数の場合もある。
    Gaslightingのテクニックはたくさんあるのだが、ここでは3つだけ挙げる。
    ・ 加害者が被害者にウソをついているのに被害者に対して「嘘をつくな!」とまくしたてて、被害者に「私が間違っているのかも」という心理に追い込む。
    ・周りに被害者の悪口を言って孤立させる(いじめの対象にするように仕向ける)。
    ・被害者の行動や思考の自由を奪い、すべてコントロールしようとする。
    そして、さらに悪辣な段階は、さんざん上記のようなGaslightingをしたあとに、加害者が「お前を大切に思っている」とか「周りの人間はお前の敵だ」と言って加害者に依存させるように仕向ける。 *6

  2. Gish gallop:論争術の一つ。
    議論の本質から逸れた些末な小論を立て続けに言ったり、相手に即応不可能な議論を旧に持ち出したりして、相手を圧倒する。
    【例】「国会のクイズ王」の異名を持つ小西洋之参議院議員安倍総理(当時)に対してやったこと *7 (詳しくは《小西洋之とは - ニコニコ大百科》などを参照)。

  3. Glittering generalities:「きらびやかな一般論」。「平和を守る」など誰もが良いことだと思い、反対できないような一般論・フレーズを言って、これと自分たちをリンクさせて、自分たちのイメージ・主張を良く見せる、または言うことを聞かせるという戦法。
    イメージアップの例→選挙ポスターに「希望のある未来を築く」と書く。「スカッと爽やか〇〇(商品名)」。
    何かをさせる例→「お国のために」といって無給奉仕させる。「海を汚さないために」といってレジ袋を有料化する。

  4. Guilt by association (Reductio ad Hitlerum):連座の誤謬。「A氏が麻薬使用容疑で捕まった」→「ところでB氏はA氏と仲がいい」→「B氏も麻薬をやっているに違いない」のように三段論法の形を取るが、「仲がいい」ことと「麻薬をやっている」ことは無関係なのに、詭弁を承知で故意に関係付ける。

H, I(3)

  1. Half-truth:主張の中に、ある程度の真実を混ぜることによって、主張の全体を真実だと思い込ませる。間違った情報を信じ込ませたり、対象者の好まない結果に誘導する。
    【例】2018年1月、トランプ大統領Twitterで 「私の政策のおかげで、黒人の失業率が過去最低となった!」と主張したが、トランプ大統領が就任する7年前の2010年から一貫して低下していた *8

  2. Information overload:認知処理能力を超える大量の情報を流して、対象者の意思決定能力を低下させる。

  3. Intentional vagueness:故意に曖昧な発言をして対象者に独自の解釈をさせて行動させる。
    対象者が解釈を間違えたとしても、あるいはその解釈をもとに間違った行動をしても、自分は「それはあなたが勝手にそうとらえただけだ」といってしらを切る。 *9

L(5)

  1. Labeling:多くの場合、短いフレーズを使って対象者(物)にネガティブなイメージを貼り付ける。
    【例】「あいつはネトウヨだ」「左翼だ」「あれ(商品)は"ガラクタ"だ」 *10

  2. Latitudes of acceptance:交渉の場のテクニック。自分と対象者の意見の間に開きがある場合、自分に有利な妥協に誘導しようとする方法。2つある。
    一つは、高めの要求をふっかけてから交渉に入る。Door-in-the-face techniqueと同じ。
    もう一つは、いったん対象者の受容できる範囲まで自分の要求を下げて、その後にだんだんと元の自分の要求に釣り上げる。Foot-in-the-door techniqueに近い。

  3. Loaded language:ある事柄に対して、強く感情に訴えかけるような表現を付け加えたり、事柄事態を強い言葉に変更する。
    「"美人すぎる"アナウンサー」。「法の変更」→「改革」

  4. Love bombing:カルト教団などが使う手口。対象者を家族や共同体などの既存のグループから引き剥がすために、対象者に対して多大な愛情を浴びせかける。

  5. Lying and deception:単純に、ウソをつく。騙す。

M, N(5)

  1. Managing the news:国政府が大衆に吹き込みたい主張を、メディアを通して何度も繰り返し、大衆を耳タコ状態にする。classical conditioningやad nauseamに関連する。

  2. Milieu control:(Milieuはフランス語で周囲・環境の意味。)カルト教団などが使う手口。新しいメンバーの環境をコントロールすることによって洗脳する。多くの場合、メンバーを隔離して外界の情報を遮断する。

  3. Minimisation:自分が行なったネガティブな行為のインパクトを小さく見せようとする。
    被害者を貶(おとし)めて、自分の加害の最小化する。(例:あいつはいつも客からカネを巻き上げてるじゃないか!)
    もう一つは、自分の行為は利他行為だ(例:国家の名誉のためにやったんだ!)と言い張る。

  4. Name-calling:誹謗中傷。対象者に対する悪口を言いふらしたりレッテル貼りをして言いふらして、対象者の評判を貶める。

  5. Non sequitur (Formal fallacy):「〇〇だから××だ」「〇〇ならば××だ」という結論と理由(仮定)に欠陥があるのに、押し通そうとすること。
    【例】「憲法第9条を変えれば戦争になる」 *11 という主張はよく聞くが、そもそも憲法の条文に戦争を止める力などあるわけが無いので、文章として間違っているのだが、それでも一部の人々の中では通用してしまっている。



*1:出典:ケント・ギルバートプロパガンダの見破り方/清談社/2020/p206

*2:プロパガンダの見破り方/p218-219

*3:一貫性の原理

*4:プロパガンダの見破り方/p234

*5:フレーミング」は心理学や他の社会科学で扱われる用語で、当然、違いがある。その違いについては私にはさっぱりわからない。

*6:Gaslightingはあまりにもインパクトがあるようで、「私はGaslightingされている」という妄想を訴える人も多いらしい

*7:プロパガンダの見破り方/p184-185

*8:Half-truth - Wikipedia

*9:プロパガンダの破り方/p188-189

*10:一方で、対象物にポジティブなイメージを貼り付けることもあるが、具体例が思い浮かばない

*11:プロパガンダの見破り方/p179

プロパガンダのテクニック一覧 その1(A~D)

今回はプロパガンダのテクニックについて。

プロパガンダのテクニックを知れば、ダマサれることが減るだろうし、仕掛けた側の指向も読むことができる。逆にプロパガンダを仕掛けることもできるだろう。

さて、wikipedia英語版に《Propaganda techniques》というページがあって、たくさんのテクニックが載っている。

これらは、国政府が国内外に使用する大掛かりなものからセールスで使えるもの、虐待・いじめで使われるようなものまで幅広い。ABC順で書いてあり、カテゴリー別になっていない雑多なものだが。

テクニックの簡単な説明が書かれているがこれだけではわからないのだが、すべての項目にリンクが貼られている。そのリンク先には全部ではないが日本語版のリンク先が貼られている。

以上書いたことから分かるように、このページは研究者ではない人がまとめた一覧表と思われる。

さて、当記事ではwikipediaのページをベースにして各テクニックの説明をしていく(というか自分の備忘録)。

↑のページだけでは理解できないことも少なからずあったので、wikipedia以外のサイトをググったり、書籍も参考にした。

書籍の参考文献が↓の本。

実はwikipediaのページを知ったのはこの本に載っていたからだ。こちらには各プロパガンダの丁寧な説明と私たち日本人の身近な事例が示されているので、大変わかりやすい。カテゴリー分けもされている。

この本をコピペするわけにはいかないので、この本からの引用はあまりしていない。

私は(そしてケント・ギルバート氏も)専門家ではないので、正確な、ちゃんとした情報を知りたい人は研究者の文献を探してほしい。

A(6)

  1. Ad hominem:人格攻撃。議論・論争をしている時に、対象者の(主張を批判するのではなく)人格を攻撃して敵の信用を失墜させる。

  2. Ad nauseam:自分の主張を絶えず繰り返して信じ込ませる。
    【例】テレビのコマーシャルはこの効果を狙って放映している。
    韓国は従軍慰安婦問題において「嘘も100回言えば真実になる」と思っている。日本にとって恐ろしいことに、それなりに功を奏している。

  3. Agenda setting:自分が主張したい問題を話す議題に設定してしまう。議論したくない議題を妨げることもできる。マスコミが同じ問題を連日ニュース・トピックとして取り扱えば、視聴者はその問題を重要視するようになる。
    【例】モリカケ問題がこれ。 逆に、中国に忖度して、中国に都合の悪い台湾やウイグルの話はできる限り取り上げない。

  4. Appeal to authority:権威がある人の言葉を引用することで、自分の主張を補強する。その筋の専門の権威の引用ならいいが、他分野の権威の引用もAppeal to authority に含まれる(こちらは印象操作となる)。
    【例】人気のタレントが政治的発言をさせて、ファンに「〇〇が言ったから正しい」と思わせる。ニュースワイドショーもこれに当たる。

  5. Appeal to fear:話の始めに不安なことになることを言って、その後に思い通りになるように誘導する(商品を買わせるなど)。
    【例】保険のセールスで、老後や天災の不安を語って保険を買わせる。

  6. Appeal to prejudice:偏見を煽る、または植え付ける。
    【例】人種差別感情を増長させたり、「暴走族はダサい」などのイメージを植え付ける。

B(4)

  1. Bandwagon:ある行為を「多くの人がやっている」と言って支持させる。
    【例】「バスに乗り遅れるな」「国民は怒っている」「スマホみんな持ってるんだよ。ねぇ買ってよ~」

  2. Beautiful people:魅力的な(あこがれの)有名人のやっていることを真似をすれば、自分も魅力的になれるかもしれないという心情を刺激する。
    【例】広告・コマーシャルで多用される。女性ファッション雑誌も。

  3. Big lie:「(大衆は)小さな嘘よりも大きな嘘の方が被害者になりやすい」←アドルフ・ヒトラー我が闘争』の中の一文。大衆は日常的な小さな嘘には気づくが、途方も無い大きな嘘には気づかない。
    【例】「ノストラダムスの大予言」「ユダヤ金融陰謀論

  4. Black-and-white fallacy:3つ以上の選択肢があるにも関わらず、二者択一を迫る。
    【例】「わたしと仕事、どっちが大事なの?」

C(5)

  1. Cherry picking:数多くの事例の中から自分の論証に有利な事例のみを並べ立てる。
    【例】「AもBもCも世襲だから世襲は良い(悪い)」(実際は世襲議員には良い人悪い人の両方存在する、かもしれない)

  2. Classical conditioning:詳しい説明は 《古典的条件づけ - Wikipedia》 参照。心理学用語。「パブロフの犬」で有名。
    【例】私たち日本人の多くは「フクシマ」というカタカナ表記を見ると条件反射で原発事故を想起する。マスコミに刷り込まれた結果だ。

  3. Cognitive dissonance:認知的不協和。心理学用語。定義は難しいので 《認知的不協和 - Wikipedia》 参照。
    たとえば、A氏が「タバコは体に悪い」と認知しているのに「自分はタバコを吸い続けたい」と思っている(認知している)場合、A氏は矛盾(不協和)を感じるようになる。A氏はこの不協和を解消するために「自分はタバコを吸い続けたい」を選択し、「タバコは体に悪い」という認知を撤回して「タバコをやめるとストレスが酷いので体に悪い」という認知に変更する。
    この心理を利用してプロパガンダを仕掛ける。
    【例】前回の記事で、チャールズ・チャップリン第一次大戦の時に自由公債の購買キャンペーンをしたことを書いた。政府は、大衆が「公債を書いたくない」「チャップリンは好きだ」という不協和を抱いた後に、「公債を買おう」と認知を変更するように誘導している。ただし、このテクニックはBeautiful peopleとも言える。

  4. Common man:主に政治家が使うテクニック。ある支配者層出身の政治家(あるいは候補者)が(支配者層の人間なのに)庶民(Common man)のスタイルで振る舞って、有権者の仲間であることをアピールして、信頼と票を勝ち取ろうとする。
    【例】方言で話すとか、普段着を着る、祭りなどのイベントに参加する、など。

  5. Cult of personality:2つの意味がある。
    一つは、コマーシャルで熱狂的人気の(個人崇拝されている)有名人を使って宣伝すること。Beautiful peopleのテクニックにつながる。
    もう一つは、政治的なもの(主に全体主義国)。マスメディアを使って理想化された英雄的なイメージを作りだして個人崇拝させて、全ての政策を支持させようというもの。

D(6)

  1. Demonizing the enemy:敵の悪魔化。敵を卑劣で、大衆に甚大な被害を及ぼす者だと刷り込む。政界・言論界でよく見る。レッテル貼り(labeling)につながる。
    【例】「あいつは全体主義者だ」「ヒトラーのような奴だ」。

  2. Diktat:絶対的命令。2つのやり方がある。
    ひとつは、「君は○○すべきだ」のように直接的表現を使って、他の選択肢を排除する。権威が高い人が行なうほうが効果的(つまりappeal to authorityと併用が効果的)。
    もう一つ、前回紹介したアンクルサムの「I want you」のポスターのように、画像やフレーズなどを使う。

  3. Disinformation:偽情報を掴ませる、あるいはばら撒くことによって、敵に誤った行動に誘導したり、撹乱する。
    【例】2020年の米大統領選挙後に多くのデマが流れたが、それ以降、バイデン政権を「不正選挙で選ばれた大統領」と考えている有権者は少なくないというアンケート調査の結果が出ていた。

  4. Divide and rule:国際政治用語。大国が小国どうしを仲違(たが)いさせることによって、団結して対抗できないようにする(支配しやすくなる)。
    【例】ローマ帝国がやっていたし、近現代ではイギリス、アメリカがやっていた。国家内や企業内でも応用できるだろう。

  5. Door-in-the-face technique:そこそこ無理なお願いをするような場合、最初に相手に より難しいお願いをして断らせて(多少なりとも後ろめたい気持ちにさせて)、次に本命のお願いをして承諾させる。 *1
    また、値段交渉の時に、高めの値段を設定しておいて、値引いて客に得したと思わせるのもこれ。*2

  6. Dysphemism:普通の物・言葉などを故意に不快な言葉で表現して、それらを貶める。
    【例】「マスミ」「安保法案→戦争法案」*3



*1:返報性の原理

*2:返報性の原理とは別だと思うがどのような心理メガニズムの結果なのかはわからない

*3:出典:ケント・ギルバートプロパガンダの見破り方/清談社/2020/p247

プロパガンダ(3)プロパガンダと「宣伝戦」

前回はエドワード・バーネイズの話をした。バーネイズは「プロパガンダ=PR(広報宣伝)」と主張した。彼はプロパガンダをビジネスで使うために最新の注意をはらい、「企業の宣伝活動は、企業が抱いている真の目的を覆い隠すためのまやかしであってはならない」 *1 と書いている。

今回は「プロパガンダ=宣伝戦」の話をする。上記に対してこちらのプロパガンダの対象は顧客ではなく、敵国または諸外国だ。こちらは上品さは求められず、かなり荒っぽいことをする。特に戦争中や直前ではウソの度合いが多くなる(即効性が求められる)。

宣伝戦とは?

宣伝戦とは?
宣伝主体が近代の諸技術を利用し,特にマス・コミュニケーションの手段を駆使して,個人,集団,国家構成員全体の教条,判断,関心などを間接的に一定方向に誘導しようとすること。商業宣伝であれ政治宣伝であれ,宣伝主体の意図の方向に受信者,同調者を大量に獲得すればするほど,成功した宣伝と考えられるので,宣伝戦には宣伝内容の真理性が第一義的には重視されず,また理性だけでなく情緒へのアピールもなされる。政治の世界では,党派,国家,陣営などの宣伝主体が自己の同調者をより多く,相手側の同調者をより少くするため,象徴的なメッセージを投げ合って激しい宣伝戦を行う。第1次および第2次世界大戦において,両陣営が大規模な宣伝戦を行なったのは周知の事実である。現代の戦争が心理戦争の一面をもつといわれる理由がここにある。

出典:宣伝戦とは/ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典/コトバンク

「第1次および第2次世界大戦において」行なわれたように読めるが、平時でも日々おこなわれている。

以上を踏まえた上で、奥山真司氏の宣伝戦の解説。

私達日本人は往々にして、例えば、歴史認識などの問題になると、 「後生の歴史家に判断をゆだねる」ですとか、「学者の共同の研究会を立ち上げる」という話になったりします。

が、まったく、無駄です。調査など二の次なのです。

そもそも、「歴史の真実」という単語は日本人の考えるそれと同じではありません。歴史は政治の「道具」として使う概念なのです。「真実」を語りあって解決する気がないという厄介な相手です。

お人好しとも言える我々日本人は、この認識が決定的に欠けていたので、これまでずっと負けて続けてきました。

南京大虐殺」、「百人斬り」、「いわゆる"従軍慰安婦"問題」全部ウソでした。結局、真実を追究して主張してもダメなのです。

本当はそんなことはないのに、あたかも"それがあったかの如く"世界は動いています。このような問題は、歴史家、学者に任せても解決しません。政治家が腹を決め、「政治」主導で戦うしかないのです。[中略]

これがプロパガンダ(宣伝戦)です。アピール力による武器なき戦争、つまり、 周辺国民の頭に侵入して、その認識を書き換えてしまう「戦争」なのです。

「これが戦争なんだ」という認識を持つとすぐに納得できると思いますが、要は、<なんでもアリ>なのです。

出典:奥山真司のプロパカンダ&セルフプロパカンダ|奥山真司の地政学「アメリカ通信」

宣伝戦とは武器なき戦争。つまり平時でも(今現在でも)行なわれている。日本は「南京大虐殺」「"従軍慰安婦"問題」で何十年も攻め続けられて負け続けてきたのだが、だいたい日本は仕掛けられていたという意識すら無いか極めて薄い *2 。それどころか中韓に味方するマスメディアや言論人のほうが多いというのが現状だ。今も当然仕掛けられているのだが、マスコミが中国に忖度している状況は今なお続いている(ちなみに最近は韓国に対する報道はほとんど無い)。

日本人はまず、平時(今現在)でも宣伝戦が常時行なわれていることを認識し、警戒し、マスコミの中国への忖度を批判しなければならない(他の国へも同様)。

ウソを現実と書き換えてコントロールする

ここからは上記の奥山氏のページを細切れにしてコメントしていきたい。なお、コメントは私の勝手解釈。

我々日本人は「真実」とか、「真理」、「真心」が大事だと長年教えられ、それを信じて来ました。しかし、「戦略」を考える上での仮定、仮定ですから、つまり<ウソ>です。そして、これが最終的には「現実」すらひっくり返して、更に新たな「現実」を創る、そういう非常に重要なイメージなのです。

そして、世界はウソに満ちていますが・・・

「真実(戦術)」より、「ウソ(戦略)」によって新しい「現実」を創っている

ここをしっかりと理解できないと「プロパガンダ」はわかりません。[中略]

道徳と戦略は区別しないといけません。

まずは、「真実(戦術)」「ウソ(戦略)」がどういうことかの説明。これを理解するには奥山氏の「戦略の階層」を理解しなければならないのだが(当ブログ記事はこちら)、ここでは簡単に説明したい。

「未来は〇〇になるかもしれない」「敵の現状は〇〇の可能性が高い」のような仮定を基にして戦略は立てられるが、奥山氏は「仮定=ウソ」としている。「ウソなくして戦略は立てられない」と。

そうなると、敵の「ウソ」を自陣の都合の良い「ウソ」に書き換えることができたら、自陣が敵をコントロールできることになる。この考え方が「ウソ=戦略」の急所だ。

一方、戦術は戦略の下部にあり、上部組織が戦略を練って下部組織が戦術を立てて実行する。下部組織は上部の命令と現実の実体に基づいて戦術を立てる。これが「真実=戦術」の急所。

次に、日本人の問題。私たち日本人は正直者が称賛され、事実を言えばかならず他人は分かってくれると思っている。現実はそんなに甘くないとは思ってはいるが、国際政治では日本人が想像もつかないようなウソ(プロパガンダ)が横行している。そしてプロパガンダは有効に機能している。上述の「南京大虐殺」「"従軍慰安婦"問題」が良い例だ。

日本人は相手の嘘を見破るだけではなく、ウソをつけるようにならなくてはならない。そうしないと宣伝戦に勝つことはできない。そして「道徳と戦略は区別しないといけません。」

日本は下部組織は優秀だが、上部組織が二流三流だということは第二次大戦にも現在の企業についても言われている。その要因の一つとして日本人が「ウソ=戦略」に弱い(ウソをつくのもつかれるのも)ということが言えるだろう。

日々是レ宣伝戦

先進国では人権問題などもあり、実際の戦闘行為を伴う戦争によって、戦死者をこれまでのように出せなくなりました。もはや大規模な死者の出る戦争は行いづらい時代になり、「プロパガンダ」に大きなウェイトを掛けています。

武器を使わなくとも、カネを巻き上げ、人々の脳の中のイメージを書き換えてしまえば、 やがて、これが「現実」として、本当の歴史として書き変えられていくのです。

相手側の認識、いうなれば、その脳を書き換えてしまえば、相手の動きを「コントロール」することができます。多国間での国際政治では、各国は常にイメージ戦で相手をコントロールしようと仕掛けて来ます。

日本人はウソをつくと後々困ることになると思うが、中韓は「ウソを現実と書き換えてしまえば敵をコントロールできる」と思っているから、ウソをつくモチベーションが日本人と正反対になる。中韓以外の国々も同じように考えていると思ったほうがいい。

プロパガンダはカネで釣った他国の有力者に言わせるという手口もある。WHOのテドロスが中国よりだということは有名だ(ただし最近の中国の傲慢な態度のおかげで世界中に反中感情が蔓延してテドロスも中国批判をせざるを得ない状況になっている)。

中韓米のプロパガンダに対抗しなければならない

中国や韓国のように、拠り所となる「真実の歴史」がお粗末では、ハナから「ウソ」を使って攻めていくより他ありません。国際社会で成り上がるために、「真実(戦術)」よりも、さらにパワフルな「ウソ(戦略)」を選択したに過ぎないのです。[中略]

世界では、真実=実力ではなく、ウソの力、ハッタリ力=実力と考える国に満ちています。

北朝鮮、韓国とハッタリだけの国
中国、アメリカとハッタリを組み合わせている国
に日本は囲まれています

中韓の《「真実の歴史」がお粗末》について。古代中世の話は脇に置いといて、近現代の「中華人民共和国」「大韓民国」の建国からの歴史はお粗末といえるだろう。だからこそ彼らは歴史を捏造しているのだ。彼らの言う「正しい歴史」というものは、彼らに都合の良い歴史のことだ。

そして、上述のとおり、中韓は「ウソを現実と書き換えてしまえば敵をコントロールできる」と思っているので、日本人のように「ウソをつくことは恥」とも思っていないし、バレても次のプロパガンダに移行するだけだ。

日本は、国際政治においては、中韓のこの姿勢を少しは見習ったほうがいいのかもしれない。

さて、ここで米=アメリカがでてくる。アメリカも日本に対してウソをついてきた。

最も重要なプロパガンダが戦後直後の「ウォーギルドインフォメーションプログラム=WGIP」だ。マッカーサーが日本への恨みも合って、「日本が二度とアメリカに歯向かわないようにするための洗脳」を施した。長くなるので詳しくは書かないが、今でもその後遺症が色濃く残っている。最近では日本学術会議が話題になったが、これもGHQが作ったものだ。学術会議のようにアメリカに既得権益をもらった者たちがWGIPを現在まで引き継いでいる(WGIP以外もアメリカは日本をコントロールするためにいろいろウソをついてきたわけだが、詳細には私は知らないのでここでは書かない)。

アメリカの第一の敵は中国、その次がロシア、その次がイランとなっているが、経済大国第3位の日本は、中国が倒れればアメリカの敵(ライバル)にされる可能性は十分にある。敵認定されないプロパガンダも考えておかなければならない。

おまけ

以上、奥山氏のアメリカ通信のページから引用したが、この文章は、『プロパカンダ&セルフプロパカンダ』という音声講座の宣伝だ。

音声講座に興味がある人は↑のページで購入できるので見てみてください。



*1:出典:エドワード・バーネイズ(訳・中田安彦)/プロパガンダ教本/2007/成甲書房/p110

*2:南京大虐殺」がウソというのは、日本軍が、南京戦で一人も民間人を虐殺していないなどということではない。中共は30万人あるいはそれ以上の虐殺があったと主張がプロパガンダだと言っているだけだ。

プロパガンダ(2)プロパガンダとエドワード・バーネイズ

『Propaganda』(1928) を著したエドワード・バーネイズは「プロパガンダの父」と呼ばれることもある。

ただ、『Propaganda』が世に出る前にはプロパガンダは使われていなかったかといえばそうではない。古代からプロパガンダはあったし、近代に限定しても第一次世界大戦時には各国が多用していた。

第一次世界大戦の時、バーネイズはアメリカ政府に雇われて戦争支持へ世論誘導するプロパガンダ工作に携(たずさ)わった。彼はこの経験と当時の大衆心理の研究を取り入れて、プロパガンダ(=PR)を体系化・理論化した(彼はプロパガンダとPRを同一視している)。このことが「プロパガンダ(=PR)の父」と呼ばれる理由となる。 *1

この記事では、『Propaganda』ができるまでの流れを書いていく。

大衆社会の形成

プロパガンダは古代からあるのだが、ここでは近現代におけるプロパガンダの話をする。

欧米で始まった近代の歴史が進むにつれて、為政者層(エスタブリッシュメント)も大衆の力を無視できなくなった。つまり、民主主義と資本主義が根付いて、彼らの合意が無ければ政治は進まず、彼らの購買が無ければ市場は成り立たなくなった。

19世紀末にもなると、大衆は新聞や大衆文学を読み、ラジオを聴き、情報を収集・消化した。その一方で、マスメディアが盛んになり、広告代理店やPR会社という新しい業界が誕生した。

さらに、プロパガンダにおいて重要な大衆に関する研究の分野も活発になった。History of propaganda - Wikipedia によれば、ギュスターヴ・ル・ボンの『群衆心理』(1895、フランス)とガブリエル・タルド『模倣の法則』(1890、フランス)の二人がプロパガンダを語る上で重要な先駆的な学者だそうだ。

第一次世界大戦

第一次世界大戦プロパガンダの歴史の画期となった。各国は戦争を有利にするために、敵国・友好国・自国の大衆をコントロールしようと考えた。そして社会心理学などの大衆の行動に関する研究やジャーナリストやPR会社などの知識を結集してプロパガンダ機関を設立した。

イギリス

イギリスはこの戦争が長期化すると判断して1914年9月に戦時プロパガンダ局(War Propaganda Bureau、通称 ウェリントン・ハウス)を設立。この局には「新聞王」と呼ばれたアルフレッド・ハームズワース (初代ノースクリフ子爵)が参加し、この準備部会にはコナン・ドイルH.G.ウェルズら有名な作家が参加していた。

数年後、戦局の変更 *2プロパガンダ組織内部の揉め事があり、1918年に新たに情報省(The Ministry of Information 、MOI)を設立。複数あったプロパガンダ機関を統合した(映画を検閲する部署も組み込まれた)。ただし、ノースクリフ卿率いるクルー・ハウス委員会(Crewe House Committee、あるいはクルー・ハウス。敵国プロパガンダ担当)は情報省に属さず、別の組織として活動した。

ウェリントン・ハウスやクルー・ハウスの活躍については、以下の動画参照。

アメリ

1917年にアメリカは参戦することになり、すぐに戦時プロパガンダの部門である広報委員会(Committee on Public Information、CPI、通称:クリール委員会)を設立した。

CPIの任務は米国民を戦争支持へ世論誘導するプロパガンダ工作だった。ここにバーネイズは所属し、多くの経験を得た。

CPIの具体的な活動については広報委員会 - Wikipediaで紹介されている。

上記のwikipediaのページにある「四分人」は「Four Minute Men」の訳だが、中田安彦氏によれば *3、 彼らは地域の名士であり、プロパガンダ演説する内容はCPIの支部によって細かく指示されていた。このような手法は戦後にバーネイズによってプロパガンダのプロセスの中に組み込まれる。

また、CPIは新聞、ポスター、ラジオ、電報、映画をプロパガンダに活用したが、有名なポスターを以下に貼り付ける。

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典型的な「アンクル・サム」。第一次世界大戦当時の陸軍募兵ポスター。ジェームズ・モンゴメリー・フラッグ画(1917)。

出典:アンクル・サム - Wikipedia

この人物はアンクル・サムというアメリカ合衆国政府を擬人化したキャラクター。このポスターは一度くらいは見たことがあるだろう。第二次世界大戦の時も使用された。

有名なポスターをもう一つ。

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出典:File:Halt the Hun!.jpg - Wikimedia Commons

上部の"Halt the HUN!"(フン族を阻止せよ!)の意味は、フン族はドイツの蔑称。「野蛮人のドイツ人を文明人であるアメリカ人がやっつけなくてはならない」くらいの意味。

絵はフン族(ドイツ人)が女性と子供を襲っているところを米兵が制止しているところ。

下部の"BUY U.S. GOVERNMENT BONDS" "THIRD LIBERTY LOAN" は戦時調達のための第三次自由公債を買うように訴えかけている。

ちなみに、チャーリー・チャップリンは自由公債の購入促進のために『The Bond』(1918)という映画を自費で製作した。

ただし、こういったプロパガンダをやっても自由公債で十分な資金が集まらず、足りないカネは教会で司祭や牧師などに購買を勧めさせたり、ドイツ系アメリカ人に購買を強要したり、エゲツないやり方で資金調達をしていた。

どこの国でも切羽詰まったらこのようなことをする。

バーネイズ、『Propaganda』を出版

以下は中田氏の解説。

大戦後の1919年の夏、バーネイズはニューヨーク市内に自分の広報・宣伝会社を設立する。彼には、広報・宣伝の第一人者としてやるべき任務があった。それは、戦時下の「戦争プロパガンダ」の実態が戦後徐々に暴露されていくことによって失墜してしまった「広報・宣伝業」(彼はこれも含めてプロパガンダと呼ぶ)のイメージを回復することだった。彼は「広報・宣伝」を専門にしているのであり、その状況は彼にとって死活問題でも合ったのだ。

そこで彼は大胆な行動に出る。一般向けの小著として『プロパガンダ』というタイトルの本を1928年に出版するのである。

出典:エドワード・バーネイズ(訳・中田安彦)/プロパガンダ教本/2007/成甲書房/p236(訳者解説の文)

この本は、中田氏によれば、《「プロパガンダという技術をプロパガンダする」という目的で書かれた本なのである(p237)》とのこと。「広報・宣伝」業についてしまったをネガティブなイメージを払拭して、PR(プロパガンダ)が商売・政治・公民権運動などに役に立つことを力説している。そして、PRをするならその筋のプロであるPR会社を利用するべきだ、としっかり宣伝している。

この本にまとめられたプロパガンダの技術は、冒頭で書いたように、先行研究とCPIでの経験を基に理論化・体系化したものである。

ロシア・ソビエトプロパガンダ

バーネイズとは関係無いが、ロシア・ソビエトプロパガンダについて少し。

20世紀初頭のプロパガンダで有名なのが、偽書『シオンの賢者の議定書』だ。これは帝政ロシアの秘密警察がポグロムユダヤ人虐殺)を正当化するために作ったプロパガンダだ。

これが帝政ロシアが崩壊すると、第一次大戦後のロシア革命への干渉戦争を経て、欧米に拡散していった(欧米でも反ユダヤ主義が広まっていた背景がある)。

そして『議定書』は各国にユダヤ虐殺の正当化の「根拠」となった。ユダヤ虐殺といえば、ナチス・ドイツを想起するが、虐殺したのはドイツだけではない。多かれ少なかれ欧米諸国はやっていた。

話をロシアに戻す。

ソビエト・ロシアになってからは、プロパガンダ共産主義の宣伝や政策各種の伝播の役割を持った。ただし、ソビエト政府に逆らう者たちは恐怖政治によって弾圧された。

つまり、戦時の英米などで行なわれていた「プロパガンダ+統制・弾圧」は、ソビエトにおいては平時で行なわれていた。全体主義国家である中国や北朝鮮も同様だ。



*1:「経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスも、先駆的研究を体系化・理論化したので、そのように呼ばれたわけだ。

*2:ロシア革命により、ロシアが戦線離脱

*3:エドワード・バーネイズ『プロパガンダ教本』( 2007年)の訳者・解説。ソースはこの本のp235

プロパガンダ(1)「プロパガンダ」とはなにか

プロパガンダ」という言葉をよく見聞きするが、その意味をちゃんと分かっていなかったので、色々と調べてみた。

プロパガンダ」とは何か

プロパガンダの定義。大雑把だが、極めて分かりやすい定義を紹介する。

プロパガンダとは、大衆の心をコントロールする技術。
(出典:エドワード・バーネイズ『プロパガンダ教本』(訳・解説:中田安彦) ) *1

分かりやすいのだが、これだけでは不十分だ。

次に、少し長い説明を引用。

プロパガンダ(propaganda)とは、特定の思想によって個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとする宣伝活動の総称です。特に、政治的意図をもつ宣伝活動をさすことが多いですが、ある決まった考えや思想・主義あるいは宗教的教義などを、一方的に喧伝(けんでん)するようなものや、刷り込もうとするような宣伝活動などをさします。要するに情報による大衆操作・世論喚起と考えてよく、国際情報化社会においては必然的にあらわれるものです。今日その方法は、必ずしも押しつけがましいものではなくなり、戦略化し巧妙なものとなってきています。

出典:三省堂 WORD-WISE WEB -Dictionaries & Beyond-

アジテーション」との比較

上の引用元にはアジテーションの定義も載っているので、これも引用しよう。

プロパガンダに似た言葉に「アジテーション」があります。アジテーションは「振動」や「動揺」などを意味する英語のアジテーション(agitation)から来ています。「世論を喚起する活動やキャンペーン」という点ではプロパガンダと近いですが、アジテーションはむしろ「煽(あお)り」の意味合いが強く、「扇動」「大衆の潜在的不満をそそのかして行動を起こさせること」を意味します。

出典:同掲サイト

まとめ

以上をまとめると、

プロパガンダとPR(マーケティング)の違い

上述のエドワード・バーネイズ(1891-1995)は「PR(パブリック・リレーションズ)の父」と呼ばれるが、『プロパガンダ教本』で解説の中田氏は、バーネイズをPR・プロパガンダを初めて体系的に理論化した人物として紹介している。バーネイズはPRとプロパガンダを同義として扱っているという。そんなわけで、バーネイズは「プロパガンダの父」とも呼ばれる。

ちなみに、プロパガンダというと世間一般的に悪いイメージがあるが、バーネイズは中立的な用語としている。

上記のように、プロパガンダ=PRなので、政治以外の場でも使われている。ただし、バーネイズはPRを行う場合は大衆を騙してはならないと繰り返し書いている。

上記の本では、バーネイズが1955年に発表した The Engineering of Consent (未邦訳、「合意の製造」という意味)の中でプロパガンダ技術(=PR技術)の重要な8つのポイントというものを紹介している。

  1. 目的を明確化せよ
  2. 徹底的に調査を行え
  3. 調査で得られた結果に基づいて目標に修正を加えよ
  4. 戦略を立案せよ
  5. テーマ、シンボル、宣伝文句(キャッチフレーズ)を決めよ
  6. その戦略を実行するために(第三者による)組織を立ち上げよ
  7. タイミングと具体的なやり方を考えよ
  8. プランを実行に移せ

(p245:訳者解説文中)

これはマーケティングの基本的なプロセスの「RSTPMMIC」 *2 の原型なのかもしれない(全てではないが)。

上のように組織的にガッツリとやらなくても(口からでまかせのようなものでも)プロパガンダはできるのだが、組織が効率的にやろうとすると以上のようなプロセスが必要になるということらしい。

細分化(セグメンテーション)とインフルエンサー

たとえば、『プロパガンダ教本』の第二章(新しいプロパガンダの誕生)では、「新しいプロパガンダ」の手法としての「細分化」「インフルエンサー」の話が出てくる。

政府の政策への支持を集めるべく、細分化された各グループの重要人物の協力を得るようになったのである。それらの重要人物らの発する一言は、何百、何千、いや何十万という支持者に対して権威を持っているのだ。

そして、大衆を説得しようと試みている人々は、友愛、宗教、業種、愛国者、社交、地域によって区分けされたグループ内の支持を自動的に取り付けることに成功した。なぜなら、グループのメンバーたちは、そのグループのリーダーやその主張を代弁する人物から、あるいは日頃から読んでいてその主張に馴染んでいる新聞・雑誌の類から、意見を取り入れていたからである。

出典:プロパガンダ教本/p53

細分化(セグメンテーション)は、上記のように「友愛、宗教、業種...」のように大衆を属性ですること。マーケティングの用語でもあり、「RSTP...」の「S」のこと。

そして、あるグループ属性のリーダーがインフルエンサーとなる。グループのリーダーといっても日常的に話し合える人物だけではなく、会ったことがないテレビのコメンテーターや有名人もインフルエンサーになりえる。ただし、テレビのコメンテーターや有名人のほとんどはテレビ制作業者の台本で動いているだけだから、彼らが出演しているテレビ番組自体がインフルエンサーと言ったほうがいいのだろう。

インフルエンサーに直接アプローチして、説得・賄賂・脅迫などをして、コントロールできれば、彼/彼女のグループをコントロールできることになる。

ちなみに、現在のマーケティングのプロセスの一部に「セグメンテーション」があるが、マーケティングの手法ではインフルエンサーに働きかけることもあるが、別のアプローチもいろいろと開発されている。たとえば、ある属性に物やサービスを売り込みたい場合は、メールなどを送って勧誘する。趣味趣向・行動様式は人々のスマホから抜かれているのでセグメンテーションは昔と比べてよりピンポイントに狙えるそうだ。

プロパガンダの種類

以下はざっくりとした、プロパガンダの種類。

プロパガンダの種類

プロパガンダには大別して以下の分類が存在する。

出典:プロパガンダ - Wikipedia

ホワイトプロパガンダやコーポレートプロパガンダは事実に基づいて周知・宣伝するので基本的に悪事とは無関係なのだが、そうでないこともあるようだ。



【書評】奥山真司『“悪の論理”で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国』

“悪の論理”とは倉前盛通氏が1977年に書いた『悪の論理―地政学とは何か』を指す。倉前氏のこの本は当時ベストセラーになったという。

さて、奥山氏の本の話に移すと、こちらの本は前半は地政学+戦略学の話、後半は日米中の話。

ちなみに、この本は絶版してます。

著者について

著者紹介は《【書評】奥山真司『地政学―アメリカの世界戦略地図』 - 歴史の世界を綴る》で書いたが、『アメリカの世界戦略地図』を書いた2004年と『“悪の論理”で~』を書いた時期(2010年)で違うところは、著者が戦略学の知識を得たことだ。

前者の本を書き終えた時期(2004年)あたりで、著者は留学先を変えてコリン・グレイに師事して地政学と戦略学を学んだ。その知識の一部がこの本の前半に書かれ、その応用が後半に書かれている。

目次

第1章 世界は“悪の論理”で動いている
第2章 日本の国益は技術だけで守れるのか
第3章 世界の常識「地政学」とは何か
第4章 日本の属国化を狙う中国
第5章 日本を捨てるアメリ
第6章 属国か独立か、日本が迫られる選択肢

本の内容

200ページ余りの本。全6章。上述の通り、前半は地政学+戦略学の話、後半は日米中の話。

前半

前半の地政学+戦略学の話は、私のブログの「地政学・戦略学」で紹介しているようなことが書かれている。ただし、本書は『アメリカの世界戦略地図』で書いてなかった部分を補完するようなものだった(戦略学については本書のみに書かれている)。前半部分は100ページちょっとなので、地政学・戦略学も詳細というほどには書かれていない。

なお、戦略学に関しては2012年に著者が書いた『世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう』で比較的詳しく書かれている(このタイトルじゃ分からない。タイトルが悪い。)。

後半につながる部分で言えば、日本は戦略を考えていないか考えているとしても全く足りていないことを強調している。そして、私たち日本国民に戦略を考える上でどのような基礎知識が必要なのかを教えてくれている。それが地政学であり、戦略学だと。

後半

この本が出版された2010年は "悪夢のような民主党政権" の時期。内容の危機感も本書のタイトルの煽りも "悪夢のような民主党政権" が原因だと思われる。著者も相当の危機感をもって書いていると思うが、もしかしたら出版社側からそのように書いてくれと注文を受けたのかもしれない。

日本に幸運なことに、この本で書いてある悲観的な展望はある程度は杞憂に終わった。なので、6章(属国か独立か、日本が迫られる選択肢)に書いてあることは、現在から見ればズレているのだが、それはしかたがないことだ。2012年に安倍政権が誕生して日本経済を立て直してくれるなど誰が予想できたであろうか?

さて、4章(日本の属国化を狙う中国)の話。出版当時は中国は発展途上国のイメージが強かったと思われるが、この章では既に日本を喰らうことができる大国として扱っている。そしてこの頃には中国は既に海洋進出に力を入れていた。「一帯一路」のスローガンの下に内陸にも手を伸ばしているのだが、海洋のほうがコスパがはるかにいいそうだ。そして、対アメリカでは経済的結びつきを基にロビー活動を活発に行なって、対中強硬論を弱めるように努めていた。

5章(日本を捨てるアメリカ)の話。出版当時はオバマ政権だったが、5章ではまずアメリカの伝統的な(?)世界戦略を説明してから、「現状」を書きあらわしている。

アメリカが「日本を捨てる」理由についての著者の考えはアメリカが弱くなったとしている。すなわち、第二次湾岸戦争の失敗によって超大国としての権威・評判を落とし、アメリカ自身も自信を失ってしまった。著書には書いていないが、当時のオバマ政権は軍事費を削減して引きこもり指向に向かっていた。

4章・5章は米中の対象的な盛・衰を並べて、あたかも覇権交代の途上を表現しているようだ。トランプ政権でなく、ヒラリー・クリントン政権になっていたら覇権交代の可能性は現在よりも高かっただろう。

感想・まとめ

そんなわけで、この本は、前半と後半の楽しみ方が違う本だ。

後半は2010年代の前半が日本にとってどれだけヤバい時期だったのかを見ることができるだろう。

また前半の地政学・戦略学の話は、日本の弱点だが、ここを他の先進国並みに強化することができれば、押しも押されぬ強国となることができるだろう。あとは「財務省経済学」を捨てて、世界標準のマクロ経済学(日本ではリフレ派と呼ばれている)の知識を日本の政治の標準にすることだ(経済のことはこの本ではほとんど触れられていない)。



【書評】江崎道朗『知りたくないではすまされない~ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』

安全保障上の日米関係に関する本。

カバーそでの文章↓

トランプ大統領誕生から米中貿易戦争まで、なぜ日本人は国際情勢の行方を見誤るのか?リベラル、保守派がともに「目を背けたくなるような現実」のなかにこそ、未来を読み解く鍵が落ちている。歴史から安全保障の最新理論までを駆使して気鋭の評論家が描く、メディアが黙して語らなかった日本と世界のリアル。

上の文章の中の「未来を読み解く鍵」というのがこの本の内容で、大手メディアや保守論壇が目を背けたり無関心だった部分の話だ。

目次

第1章 国家は同盟国を見捨てることがある
第2章 海外メディアの報道を信じてはいけない
第3章 日本人が知らない、もう一つのアメリカ史
第4章 国際情勢を先取りする米インド太平洋軍
第5章 インテリジェンスが国際政治を揺るがす
第6章 政治を左右する経済・景気の動向
第7章 アメリカは敵と味方を取り違える天才だ
第8章 未来を読み解く「DIME」という考え方 終章 日本だけが手にしている「三つのカード」

著者について

経歴についてはamazonの著者についての欄を参照。事務方でずっと働いてきた人だが、近年では著述業の他にネットメディアでニュース解説をしている。現在の肩書は評論家または情報史学研究家(本人のtwitterより)。

江崎氏の興味の中心は日本の安全保障で、研究・著述・ニュース解説もそれに関連するものとなる。

情報史学とはインテリジェンス・ヒストリーのことだが、ここで言うインテリジェンスというのは諜報と解されることが少なくないがそれでは十分ではない。インテリジェンスとは国家その他の組織に有益な情報を収集・分析・判断する部門のこと。情報なら公になっている情報もそれ以外の情報も関係なく集める。インテリジェンスの話は本書にも出てくるのでそちらを参照。

本の内容

気になったところだけを幾つか書いてく。

1章(国家は同盟国を見捨てることがある)について

ベトナム戦争のことを引き合いに出して、アメリカが日本を見捨てる可能性があることを書いている。

日本の安全保障はアメリカに頼りすぎているが、現状は外交でも軍事でも必死さが足りないとのこと。こういったナメた態度はアメリカ人が最も嫌うところだという。これは地政学者の奥山真司さんも事あるごとに言っている。

だからこそ、アメリカに見捨てられる可能性を危惧して、《日本が何の努力もせずに、アメリカが日本を守ってくれるなんて、虫のいい話は通用しない(p44)》と書いている。

さて、上記の知識を得た上で最近の状況を見ると、尖閣諸島アメリカが守ってくれるかどうかが話題になっているが、まずは日本が海保と海自に資金を投入して必死に守らなければならない話で、最初からアメリカを当てにするような態度は逆にアメリカが守らない可能性を高めていることになる。

2章(海外メディアの報道を信じてはいけない)について

アメリカの主要メディアのほとんどが左派だということは、今次の大統領選挙で私たち日本人にも周知になった。そして、日本の主要メディアはそんなアメリカの主要メディアの情報を翻訳してそのまま垂れ流している場合がほとんどだ。

だからアメリカの保守がどのようなことを考えているのか、日本人は知らない。

この章ではアメリカ政治を左派と右派(保守)に大別して、《日本は侵略国家だとする歴史認識にこだわっているのは、アメリカの民主党系の知識人たちとマスコミである(p76)》とする一方、保守側の中には《先の対戦で悪いのはルーズヴェルト民主党政権だと考えている知識人がいるのだ(同ページ)》とある。

このような歴史観共和党の全てが持っているわけではないことに注意しなければならないが、ルーズヴェルト政権が日米戦争を引き起こしたせいで共産主義が世界に蔓延してしまったことをこの保守派は批判している。

もちろんこんな話は日本に伝わっていない。私たち一般人どころか、マスコミも知らなかったのではないか。4章には日本のマスメディアは特派員をワシントン・ニューヨーク・ロサンゼルスにしか送っていない(p122)とあるし、人数も少ないので、取材することなくペーパーを集めて日本に送る作業をしているだけだそうだ。

4章(国際情勢を先取りする米インド太平洋軍)について

インド太平洋軍はアジア・太平洋地域を担当する方面軍。在日米軍もこれに所属する。

北朝鮮有事や台湾有事に対する準備は、ハワイにあるインド太平洋軍司令部と、そこと関係する民間の軍事会社・シンクタンクが担当している。ここが活発に動きはじめたら、何らかの有事が近いと見るべきだし、そうでないのなら、いくら大統領や国防総省が強硬な発言をしても、さほど慌てる必要はない。(p128-129)

ただし上述のように、日本の主要メディアにここに取材する能力がない。後は、一般国民が安全保障にほとんど(?)興味がないというのも取材をしない原因だろう。

もうひとつ、この章で重要だと思うところがある。「なぜアメリカでは軍事作戦を民間がつくるのか」という節だ。

たとえば、国防総省が中国との核戦争についての作戦計画をつくったりしたら、おおきな国際問題になってしまう。[中略]

そこで、民間の軍事会社やシンクタンクにいくつもの作戦計画原案をあらかじめ準備させておく。

そうすれば、そうした作戦計画案がマスコミに漏れても、「あれは、一民間シンクタンクが作成したものであって、アメリカ政府の正式な計画ではない」と逃げる事ができるのである。(p125)

ちなみに民間シンクタンクに携(たずさ)わっている人材が政権交代した時などに政府に入る(いわゆる回転ドア)。民間シンクタンクを経済的に支えているのは経済界の他、軍事産業と政府ということだ。以下の動画参照

5章(インテリジェンスが国際政治を揺るがす)について

インテリジェンスという言葉については冒頭で少しだけ触れたが、この章で詳しく書かれているので一部引用。

中西[輝政・京都大学]名誉教授は、このインテリジェンスが担当する分野は、大まかにいえば、次の四つであると説明している。
第一は、情報を収集すること。これは相手の情報を盗むことも含まれる。
第二は、相手にそれをさせないこと。つまり防諜や「カウンター・インテリジェンス」という分野である。敵ないし外国のスパイを監視または取り締まることで、その役割は普通の国では警察が担うことになる。
第三は、宣伝・プロパガンダプロパガンダには「ホワイト・プロパガンダ」と「ブラック・プロパガンダ」があるといわれる。前者は、政策目的をもってある事実をしらしめる広報活動を指す。それに対して後者は、虚偽情報などあらゆる手段を使って相手を追い詰めていく活動だ。[中略]
第四は、秘密工作や、旧日本軍でいえば「謀略」行為を行うことだ。CIA(中央情報局)はこれを「カバード・アクション」と呼び、ロシアでは「アクティブ・メジャー(積極工作)」と称することがある。(p138)

「謀略」については詳しく書かれていないが、別のところで書いているところによれば、《自国に都合の良い情報を、相手国の学者やマスコミを使って意図的に流布させること》 *1

またこの本以外で、インテリジェンスの説明として、

  • スパイ工作(国家機密を盗んだり、盗むのを防いだりする)
  • サボタージュ(要人暗殺、放送局や原発などの破壊)
  • 影響力工作(プロパガンダや上記の謀略)

と3つに分けている *2

本章では、正確な情報を収集するという意味で使っている。

ここまでインテリジェンスについて長々と書いてきたが、この章のメインの話はオバマ元大統領の「アメリカ封じ込め政策」だ。これはどういう意味かというと簡単に言えば、オバマ大統領が「積極的に米軍予算を削減」したということ。これにより米軍だけでなく防衛産業も大打撃を受けた。南シナ海における中国の「侵略」があってもオバマは何もしなかった。このことを米軍関係者が「アメリカ封じ込め政策」といったわけだ。

これで彼らは怒って、その怒りがトランプ大統領を生み出したという話。

7章(アメリカは敵と味方を取り違える天才だ)について

インドネシアのある軍幹部があるとき、こういった。

アメリカは敵と味方を取り違える天才だ。よってアメリカから誤解されないよう、注意深く、かつ粘り強くアメリカの指導者たちに働きかけなければいけない」

このインドネシアの軍艦部の警告こそ、ニュースの裏側を見抜くうえでどうしても学んでおきたい、第七のポイントだ。(p211)

アメリカは、第二次大戦で日本と戦った結果、ソ連を膨張させた。冷戦期に中国と組んであらゆるアイディアを提供してしまった結果、今の中国がある。このように目先の利益に気を取られて長期的利益に考えが及ばないのがアメリカだ、という。

そして繰り返しになるが、「よってアメリカから誤解されないよう、注意深く、かつ粘り強くアメリカの指導者たちに働きかけなければいけない」ということが重要で、第二次大戦の時も、冷戦の時も、それぞれスターリン毛沢東アメリカを味方に引き入れることにあらゆる手段を駆使して味方に引き入れたのだ。

そして日本はこういう競争に弱いし、また「アメリカはわかってくれる」などといって外交・インテリジェンスを怠ってきたのが近現代の日本だ。外交・インテリジェンスの戦いに負けたら、そこからの逆転は望めないと思わなければならない。

ただし、アメリカ側の立場に立つと、難しい案件が目の前に次々と現れて、限られた時間の中で決断しなければならないのだから、長期的な見方にこだわっていられないというのが現実なのだ。

私たちは完結した史実を見た上で「アメリカは敵と味方を取り違える天才だ」というのだけれど、当時の米政府には未来は見えないのだし、とにかく目の前の問題を解決するのが先なのだ。

こういった事も踏まえて外交・インテリジェンスの戦いに挑まなければならない。「アメリカは敵と味方を取り違える天才だ」といっても、飛び切りの天才・秀才がアメリカを動かしているということも忘れてはいけない。

8章(未来を読み解く「DIME」という考え方)について

DIME」とは何かというと、国家戦略または安全保障戦略を考える時に使う用語で、国力の4分野を表す。すなわち

  • 外交:Diplomacy
  • インテリジェンス:Intelligence または Information
  • 軍事:Military
  • 経済:Economy

この頭文字をとって「DIME」という。

戦略において、分野別に個別にやるのではなく、4つを組み合わせて戦略を組み立てるというのがDIMEに含まれる意味だ。

最近の例で言えば、米中冷戦において、アメリカは軍事力を使わずに、経済制裁を課したり、ウイグルで得た情報を公表して、世界各国に対しての中国のイメージを落とす戦略をとっている。もちろん、外交は常時しているし、軍事力は使わないといっても軍事演習などで圧力をかけている。

このような考え方は日本はしてこなかった。霞が関の省庁は縦割りで、自分の管轄以外の話は考えず、また、自分の管轄の話に干渉されることも嫌う。

しかし、第二次安倍政権になって国家安全戦略会議(NSC)をつくった。個々は国家安全保障を考える場所であり、DIMEを考える場所だ。内閣に所属し、縦割りの省庁の上位に位置して指示を出せる機関だ。

ただ、他国にはこのような組織が普通にあり、日本に無いのがおかしいというレベルの話、らしい。

この章では、DIMEの事例が書いてある。

感想

著者本人曰く「専門家ではない」ので、理論・理屈っぽい作りではなく、文章のほとんどが事例だった。個人的にはもうすこし、インテリジェンスとかDIMEの概念を紹介してほしかった。

まとめ

上述の通り、マスコミがほとんど左派・リベラルで、安全保障に疎い。本書は、ニュースに登場しにくいアメリカの安全保障に関する貴重な情報が書かれている。言い換えれば、この本に書かれているようなことは、ニュースに登場しにくいので、安全保障に興味がある人達はまず、この本を読んで、自分の情報源に何が足りないのかを知る必要があるだろう。

本書は理論・理屈っぽいことも書いてはいるが、少なめなので私のような安全保障初心者でも理解できる内容だ。1回目の通読で理解できなくても、2回読めばなんとなく言わんとすることが分かってくるだろう。

そういった意味では、本書は安全保障関連の入門書の一冊として適している、かもしれない。