“悪の論理”で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国
- 作者:奥山 真司
- 発売日: 2010/02/19
- メディア: 単行本
“悪の論理”とは倉前盛通氏が1977年に書いた『悪の論理―地政学とは何か』を指す。倉前氏のこの本は当時ベストセラーになったという。
さて、奥山氏の本の話に移すと、こちらの本は前半は地政学+戦略学の話、後半は日米中の話。
ちなみに、この本は絶版してます。
著者について
著者紹介は《【書評】奥山真司『地政学―アメリカの世界戦略地図』 - 歴史の世界を綴る》で書いたが、『アメリカの世界戦略地図』を書いた2004年と『“悪の論理”で~』を書いた時期(2010年)で違うところは、著者が戦略学の知識を得たことだ。
前者の本を書き終えた時期(2004年)あたりで、著者は留学先を変えてコリン・グレイに師事して地政学と戦略学を学んだ。その知識の一部がこの本の前半に書かれ、その応用が後半に書かれている。
目次
第1章 世界は“悪の論理”で動いている
第2章 日本の国益は技術だけで守れるのか
第3章 世界の常識「地政学」とは何か
第4章 日本の属国化を狙う中国
第5章 日本を捨てるアメリカ
第6章 属国か独立か、日本が迫られる選択肢
本の内容
200ページ余りの本。全6章。上述の通り、前半は地政学+戦略学の話、後半は日米中の話。
前半
前半の地政学+戦略学の話は、私のブログの「地政学・戦略学」で紹介しているようなことが書かれている。ただし、本書は『アメリカの世界戦略地図』で書いてなかった部分を補完するようなものだった(戦略学については本書のみに書かれている)。前半部分は100ページちょっとなので、地政学・戦略学も詳細というほどには書かれていない。
なお、戦略学に関しては2012年に著者が書いた『世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう』で比較的詳しく書かれている(このタイトルじゃ分からない。タイトルが悪い。)。
後半につながる部分で言えば、日本は戦略を考えていないか考えているとしても全く足りていないことを強調している。そして、私たち日本国民に戦略を考える上でどのような基礎知識が必要なのかを教えてくれている。それが地政学であり、戦略学だと。
後半
この本が出版された2010年は "悪夢のような民主党政権" の時期。内容の危機感も本書のタイトルの煽りも "悪夢のような民主党政権" が原因だと思われる。著者も相当の危機感をもって書いていると思うが、もしかしたら出版社側からそのように書いてくれと注文を受けたのかもしれない。
日本に幸運なことに、この本で書いてある悲観的な展望はある程度は杞憂に終わった。なので、6章(属国か独立か、日本が迫られる選択肢)に書いてあることは、現在から見ればズレているのだが、それはしかたがないことだ。2012年に安倍政権が誕生して日本経済を立て直してくれるなど誰が予想できたであろうか?
さて、4章(日本の属国化を狙う中国)の話。出版当時は中国は発展途上国のイメージが強かったと思われるが、この章では既に日本を喰らうことができる大国として扱っている。そしてこの頃には中国は既に海洋進出に力を入れていた。「一帯一路」のスローガンの下に内陸にも手を伸ばしているのだが、海洋のほうがコスパがはるかにいいそうだ。そして、対アメリカでは経済的結びつきを基にロビー活動を活発に行なって、対中強硬論を弱めるように努めていた。
5章(日本を捨てるアメリカ)の話。出版当時はオバマ政権だったが、5章ではまずアメリカの伝統的な(?)世界戦略を説明してから、「現状」を書きあらわしている。
アメリカが「日本を捨てる」理由についての著者の考えはアメリカが弱くなったとしている。すなわち、第二次湾岸戦争の失敗によって超大国としての権威・評判を落とし、アメリカ自身も自信を失ってしまった。著書には書いていないが、当時のオバマ政権は軍事費を削減して引きこもり指向に向かっていた。
4章・5章は米中の対象的な盛・衰を並べて、あたかも覇権交代の途上を表現しているようだ。トランプ政権でなく、ヒラリー・クリントン政権になっていたら覇権交代の可能性は現在よりも高かっただろう。
感想・まとめ
そんなわけで、この本は、前半と後半の楽しみ方が違う本だ。
後半は2010年代の前半が日本にとってどれだけヤバい時期だったのかを見ることができるだろう。
また前半の地政学・戦略学の話は、日本の弱点だが、ここを他の先進国並みに強化することができれば、押しも押されぬ強国となることができるだろう。あとは「財務省経済学」を捨てて、世界標準のマクロ経済学(日本ではリフレ派と呼ばれている)の知識を日本の政治の標準にすることだ(経済のことはこの本ではほとんど触れられていない)。