歴史の世界

プロパガンダのテクニック一覧 その1(A~D)

今回はプロパガンダのテクニックについて。

プロパガンダのテクニックを知れば、ダマサれることが減るだろうし、仕掛けた側の指向も読むことができる。逆にプロパガンダを仕掛けることもできるだろう。

さて、wikipedia英語版に《Propaganda techniques》というページがあって、たくさんのテクニックが載っている。

これらは、国政府が国内外に使用する大掛かりなものからセールスで使えるもの、虐待・いじめで使われるようなものまで幅広い。ABC順で書いてあり、カテゴリー別になっていない雑多なものだが。

テクニックの簡単な説明が書かれているがこれだけではわからないのだが、すべての項目にリンクが貼られている。そのリンク先には全部ではないが日本語版のリンク先が貼られている。

以上書いたことから分かるように、このページは研究者ではない人がまとめた一覧表と思われる。

さて、当記事ではwikipediaのページをベースにして各テクニックの説明をしていく(というか自分の備忘録)。

↑のページだけでは理解できないことも少なからずあったので、wikipedia以外のサイトをググったり、書籍も参考にした。

書籍の参考文献が↓の本。

実はwikipediaのページを知ったのはこの本に載っていたからだ。こちらには各プロパガンダの丁寧な説明と私たち日本人の身近な事例が示されているので、大変わかりやすい。カテゴリー分けもされている。

この本をコピペするわけにはいかないので、この本からの引用はあまりしていない。

私は(そしてケント・ギルバート氏も)専門家ではないので、正確な、ちゃんとした情報を知りたい人は研究者の文献を探してほしい。

A(6)

  1. Ad hominem:人格攻撃。議論・論争をしている時に、対象者の(主張を批判するのではなく)人格を攻撃して敵の信用を失墜させる。

  2. Ad nauseam:自分の主張を絶えず繰り返して信じ込ませる。
    【例】テレビのコマーシャルはこの効果を狙って放映している。
    韓国は従軍慰安婦問題において「嘘も100回言えば真実になる」と思っている。日本にとって恐ろしいことに、それなりに功を奏している。

  3. Agenda setting:自分が主張したい問題を話す議題に設定してしまう。議論したくない議題を妨げることもできる。マスコミが同じ問題を連日ニュース・トピックとして取り扱えば、視聴者はその問題を重要視するようになる。
    【例】モリカケ問題がこれ。 逆に、中国に忖度して、中国に都合の悪い台湾やウイグルの話はできる限り取り上げない。

  4. Appeal to authority:権威がある人の言葉を引用することで、自分の主張を補強する。その筋の専門の権威の引用ならいいが、他分野の権威の引用もAppeal to authority に含まれる(こちらは印象操作となる)。
    【例】人気のタレントが政治的発言をさせて、ファンに「〇〇が言ったから正しい」と思わせる。ニュースワイドショーもこれに当たる。

  5. Appeal to fear:話の始めに不安なことになることを言って、その後に思い通りになるように誘導する(商品を買わせるなど)。
    【例】保険のセールスで、老後や天災の不安を語って保険を買わせる。

  6. Appeal to prejudice:偏見を煽る、または植え付ける。
    【例】人種差別感情を増長させたり、「暴走族はダサい」などのイメージを植え付ける。

B(4)

  1. Bandwagon:ある行為を「多くの人がやっている」と言って支持させる。
    【例】「バスに乗り遅れるな」「国民は怒っている」「スマホみんな持ってるんだよ。ねぇ買ってよ~」

  2. Beautiful people:魅力的な(あこがれの)有名人のやっていることを真似をすれば、自分も魅力的になれるかもしれないという心情を刺激する。
    【例】広告・コマーシャルで多用される。女性ファッション雑誌も。

  3. Big lie:「(大衆は)小さな嘘よりも大きな嘘の方が被害者になりやすい」←アドルフ・ヒトラー我が闘争』の中の一文。大衆は日常的な小さな嘘には気づくが、途方も無い大きな嘘には気づかない。
    【例】「ノストラダムスの大予言」「ユダヤ金融陰謀論

  4. Black-and-white fallacy:3つ以上の選択肢があるにも関わらず、二者択一を迫る。
    【例】「わたしと仕事、どっちが大事なの?」

C(5)

  1. Cherry picking:数多くの事例の中から自分の論証に有利な事例のみを並べ立てる。
    【例】「AもBもCも世襲だから世襲は良い(悪い)」(実際は世襲議員には良い人悪い人の両方存在する、かもしれない)

  2. Classical conditioning:詳しい説明は 《古典的条件づけ - Wikipedia》 参照。心理学用語。「パブロフの犬」で有名。
    【例】私たち日本人の多くは「フクシマ」というカタカナ表記を見ると条件反射で原発事故を想起する。マスコミに刷り込まれた結果だ。

  3. Cognitive dissonance:認知的不協和。心理学用語。定義は難しいので 《認知的不協和 - Wikipedia》 参照。
    たとえば、A氏が「タバコは体に悪い」と認知しているのに「自分はタバコを吸い続けたい」と思っている(認知している)場合、A氏は矛盾(不協和)を感じるようになる。A氏はこの不協和を解消するために「自分はタバコを吸い続けたい」を選択し、「タバコは体に悪い」という認知を撤回して「タバコをやめるとストレスが酷いので体に悪い」という認知に変更する。
    この心理を利用してプロパガンダを仕掛ける。
    【例】前回の記事で、チャールズ・チャップリン第一次大戦の時に自由公債の購買キャンペーンをしたことを書いた。政府は、大衆が「公債を書いたくない」「チャップリンは好きだ」という不協和を抱いた後に、「公債を買おう」と認知を変更するように誘導している。ただし、このテクニックはBeautiful peopleとも言える。

  4. Common man:主に政治家が使うテクニック。ある支配者層出身の政治家(あるいは候補者)が(支配者層の人間なのに)庶民(Common man)のスタイルで振る舞って、有権者の仲間であることをアピールして、信頼と票を勝ち取ろうとする。
    【例】方言で話すとか、普段着を着る、祭りなどのイベントに参加する、など。

  5. Cult of personality:2つの意味がある。
    一つは、コマーシャルで熱狂的人気の(個人崇拝されている)有名人を使って宣伝すること。Beautiful peopleのテクニックにつながる。
    もう一つは、政治的なもの(主に全体主義国)。マスメディアを使って理想化された英雄的なイメージを作りだして個人崇拝させて、全ての政策を支持させようというもの。

D(6)

  1. Demonizing the enemy:敵の悪魔化。敵を卑劣で、大衆に甚大な被害を及ぼす者だと刷り込む。政界・言論界でよく見る。レッテル貼り(labeling)につながる。
    【例】「あいつは全体主義者だ」「ヒトラーのような奴だ」。

  2. Diktat:絶対的命令。2つのやり方がある。
    ひとつは、「君は○○すべきだ」のように直接的表現を使って、他の選択肢を排除する。権威が高い人が行なうほうが効果的(つまりappeal to authorityと併用が効果的)。
    もう一つ、前回紹介したアンクルサムの「I want you」のポスターのように、画像やフレーズなどを使う。

  3. Disinformation:偽情報を掴ませる、あるいはばら撒くことによって、敵に誤った行動に誘導したり、撹乱する。
    【例】2020年の米大統領選挙後に多くのデマが流れたが、それ以降、バイデン政権を「不正選挙で選ばれた大統領」と考えている有権者は少なくないというアンケート調査の結果が出ていた。

  4. Divide and rule:国際政治用語。大国が小国どうしを仲違(たが)いさせることによって、団結して対抗できないようにする(支配しやすくなる)。
    【例】ローマ帝国がやっていたし、近現代ではイギリス、アメリカがやっていた。国家内や企業内でも応用できるだろう。

  5. Door-in-the-face technique:そこそこ無理なお願いをするような場合、最初に相手に より難しいお願いをして断らせて(多少なりとも後ろめたい気持ちにさせて)、次に本命のお願いをして承諾させる。 *1
    また、値段交渉の時に、高めの値段を設定しておいて、値引いて客に得したと思わせるのもこれ。*2

  6. Dysphemism:普通の物・言葉などを故意に不快な言葉で表現して、それらを貶める。
    【例】「マスミ」「安保法案→戦争法案」*3



*1:返報性の原理

*2:返報性の原理とは別だと思うがどのような心理メガニズムの結果なのかはわからない

*3:出典:ケント・ギルバートプロパガンダの見破り方/清談社/2020/p247