中王国時代はエジプト再統一から始まる。
統一したのは、第11王朝第4代メンチュヘテプ2世。
この記事では第11王朝の起源から再統一までを書いてみよう。
第11王朝とは?
「エジプト第11王朝 - Wikipedia」によれば、エジプト第11王朝(前2134年頃 - 前1991年頃)は、上エジプト南部の都市テーベ(現在のルクソール)の州侯が自立して建てた政権を指す。
第10王朝の始まりが前2130年頃で前2040年頃まで続くので、2つの王朝は90年ほども両立することになる。
というか第11王朝の方が、第10王朝よりも速く成立しているじゃないか!これはおそらく第10王朝が第9王朝と、第11王朝が第12王朝と継続しているからなのだろう。
上で書いたように、第11王朝第4代メンチュヘテプ2世が前2040年頃に第10王朝を滅ぼし、上下エジプトを統一する。
テーベ州侯時代
王朝成立から少し遡ってみよう。
テーベ州侯は「アンテフ(インテフ)」という人物まで遡ることができる。「Eleventh Dynasty of Egypt - Wikipedia英語版」では、彼は「Intef the Elder」と書かれている。
「Intef the Elder - Wikipedia英語版」によれば、この人物は、テーベだけではなく、南はアスワン(エジプトの南限)、北はコプトスのすぐ南まで支配していたという。
彼を世襲したのはメンチュヘテプ1世。「Mentuhotep I - Wikipedia英語版」によれば、彼は先代の支配領域もまるまる受け継いだ。
さてここで問題が起こる。
前々回に紹介したヒエラコンポリスの州侯アンクティフィだ。
前22世紀末-前21世紀初頭頃のエジプト
- アンクティフィは第9王朝時代の人物だが、とりあえず上の勢力図と同じ状況だと仮定して話を進める。
テーベ勢力はアスワンからコプトスの北まで支配しているはずなのにこれはどういうことだろう?ココらへんの説明を探したのだが見当たらなかった。
というわけで、推測してみよう。
テーベ州侯時代の戦いの時系列
まず、テーベ州侯がアンテフ(Intef the Elder)だった頃は、彼はテーベ以南の上エジプトを支配していた。メンチュヘテプ1世はこれを世襲した。*1
テーベ勢力(おそらくメンチュヘテプ1世)がコプトスを攻撃する。この頃コプトスの知事はチャウティといい、ヘラクレオポリス王家の忠実なしもべであった。彼の代か次の代かは分からないが、コプトスはテーベ勢力下に組み込まれることになる。*2 *3
テーベ勢力がコプトスとの戦いに専念しているうちにアンクティフィがテーベの南に位置するヒエラコンポリスで自立した(反旗を翻したと言ってもいいかもしれない)。彼は隣州のエドフを併呑し、さらにエレファンティネ(エジプトの南端アスワンの付近の州)と同盟した。これはヒエラコンポリス以南を勢力下に置いたことを意味する。テーベ勢力はコプトスを勢力下に組み込むことに成功した後、ヒエラコンポリスとの戦いに専念しなければならなくなった。(アンクティフィがテーベ勢力に反旗を翻して独立した、とはどこにも書いていないが、アンテフ(Intef the Elder)がテーベ以南を支配していたのが事実ならば、アンクティフィは「反旗・独立」したことになる)
メンチュヘテプ1世の後継者アンテフ1世が王を名乗った。しかしこの頃はまだテーベとコプトスしか支配できていなかった。ただし彼の代でヒエラコンポリス勢力を攻め滅ぼし(おそらくアンクティフィの死後)、コプトス以南を支配下に置いた。(アンテフ1世 - Wikipedia )
アンテフ1世の後継者アンテフ2世がアビュドス(アビドス、ティス)を併呑した。アンテフ2世は進撃をさらに進めて、中エジプトの第10県まで落とし、アシュートに迫った。しかしここで第10王朝側から巻き返され、結局テーベ勢力と第10王朝の境界はアビュドスの北に設定された。*4
アンテフ2世の後期の治世は第10王朝との和平が継続した。両者は互いに交流し、各々の問題に取り掛かることができた。アンテフ2世は、神々のために各地で建設事業を行った*5。後継者アンテフ3世の短い治世については あまり知られていない。
アンテフ3世の後継者メンチュヘテプ2世の治世14年にアビュドスで反乱が起こった。この事件がどのようなものかは知られていないが、これをきっかけに彼は第10王朝への攻撃を開始した。治世21年目(前2040年)頃にヘラクレオポリスを陥落させ、治世第39年(前2022年)頃には第10王朝最後の王を下し、エジプトを完全に統一することに成功した。*6
以上。
幾つかの文献で食い違いが発生しているが、上のシナリオが成立するために都合の良い説を採用した。わからないところは推測でカバーした。
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*1:Intef the Elder - Wikipedia英語版、Mentuhotep I - Wikipedia英語版
*2:トビー ウィルキンソン/図説 古代エジプト人物列伝/悠書館/2014(原著は2007年出版/p99-100
*3:「Mentuhotep I - Wikipedia英語版」ではメンチュヘテプ1世はコプトスと同盟したとしているが、これが事実だとしても支配下に組み込まれたことに変わりはない。
*4:エジプト第10王朝 - Wikipedia、エジプト文明:第1中間期② 第9王朝、第10王朝 - 歴史の世界も参照