歴史の世界

戦後直後の日本経済について⑤ 歴史を歪めるもの

前回からの続き。

歴史を歪めるもの

ここまで書いてくるのに、主に高橋洋一『戦後経済史は嘘ばかり』(2016年)という本を参考にした。

なぜ嘘がまかり通ってきたのか?

それほど確固たる証拠はないのだが、とりあえず書き留めておこう。

左翼史観の残滓

その昔、「自虐史観」という言葉がある程度流行した。

冷戦終結後の1990年代から、日本において日中戦争・太平洋戦争などの歴史を再評価する流れが表れ、自由主義史観を提唱した教育学者の藤岡信勝などによって「新しい歴史教科書をつくる会」などの運動が活発となった。「つくる会」は、主に近現代史における歴史認識について「自虐史観」であるとし、いわゆる戦後民主主義教育は日本の歴史の負の面ばかりを強調し、戦勝国側の立場に偏った歴史観を日本国民に植え付け、その結果「自分の国の歴史に誇りを持てない」、「昔の日本は最悪だった」、「日本は反省と謝罪を」という意識が生まれたと批判した。

出典:自虐史観 - Wikipedia

私は教育業界とは縁がないので藤岡氏の主張に対して「全くそのとおりだ」とまでは言えないが、1990年代に出版された日本近現代史関連の本を見る限り、彼の言う通りなのだろうと思っている。

戦後直後の歴史に関して言えば、GHQが占領当初に日本を弱体化しようとしたことは高校日本史では教えていない(らしい、としか言えないが)。

藤岡氏がいうところの「自虐史観」とは違う見解(たとえば「弱体化」のこと)を主張しようものなら「あいつは歴史修正主義者だ」とか「右翼だ」とレッテルを貼られた。

現在はそのような圧力はどうってことないが(弱まっているそうだが)、昔はその圧力は相当強かったらしい。引用に「冷戦終結後の1990年代から」藤岡氏らの活動が活発化したということは、冷戦終結以前は左翼の力が強かったということだ。

最近は左翼は高齢化が進んでいると言われ、共産党の支持者は高齢者がほとんどだと言われている。

それでも教育・出版・マスコミ業界などでは左翼連中が一定の力を持っている(チャイナ・コリアからの工作員が紛れているという話もあるが、真相は知らない)。

9年前(2013年)に出版された倉山満『常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 上 「アカ」でさえない「バカ」なカリスマ教科書』では副題にあるように、その歴史の記述は「アカ」でさえない「バカ」なのだそうだ。左翼史観の残滓は残っているが、編集者はそのようなことは気にしていない、ただクレームが少なくなるように汲々として作っているだけだ、とのこと。

9年前から少しは変わっていてほしいが、田中秀臣『脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている』(2021年)を読むと、それほど定説は変わっていないようだ。

歴史を歪曲しようというエネルギーだけでなく、本当の歴史を知ろうというエネルギーも減少しているかもしれない。

財政均衡派(財政緊縮派)の人たち

GHQが行なった財政均衡政策を肯定する人たちがいる。その総本山が財務省だ。彼らは世界に通用しない経済思想(つまり財政均衡≒財政緊縮)を持つ。世界標準の(というか普通の)マクロ経済学を彼らは理解していない。

高橋洋一氏、田中秀臣氏はリフレ派と呼ばれることがあるが、彼らは普通のマクロ経済学に沿って経済政策を主張しているが、日本では少数派だ。その原因はマスコミや経済学者・エコノミストの多くが財務省におもねっているからだ。

有沢広巳(有澤廣巳)

傾斜生産方式という政策は石橋湛山が行なったものだが、いまは有沢広巳氏に紐付けられている。

以下は対談の一部。

 和田(みき子氏) 有沢はこれらの復興政策を自分の手柄にするため、石橋の仕事の痕跡を抹消することに腐心してきました。そして彼が傾斜生産の担い手として日本社会党をあてにしていたことも文献によって確認できます。さらに第一次吉田内閣退陣後に政権についた社会党片山内閣との折り合いが悪くなると、今度は傾斜生産を自分とGHQの業績のみによるものだった、とまで言い出します。このような有沢の画策は従来の研究では一切言及されてきませんでした。一方、当の石橋はといえば有沢の画策を取るに足らないものだと思っていたはずです。なぜなら石橋にとっての戦後復興における最重要課題は自由貿易の再開だったわけですから。[以下略]

出典:実利に基づく平和思想を唱えた人 『石橋湛山の経済政策思想』(日本評論社)刊行を機に 対談=原田泰×和田みき子/読書人WEB](https://dokushojin.com/reading2.html?id=8056

小説『官僚 たちの夏』

日本の戦後の高度経済成長は、通称産業省(通産省→現在の経済産業省経産省〉)が適切な産業政策を行ったからだ、と信じている人が多くいます。「通産省日本株式会社の司令塔だ」という声もありますし、城山三郎の小説『官僚 たちの夏』は、そんな英雄的な官僚像を高らかにうたいあげました。

しかし、これはあくまで「伝説」にすぎません。実際には、産業政策が効果を上げたことなどほとんどなく、通産省の業界指導は役に立たなかったのです。

出典:高橋 洋一. 戦後経済史は嘘ばかり 日本の未来を読み解く正しい視点 PHP新書 (p. 10). 株式会社PHP研究所. Kindle Edition.

このことは上念司氏がニュースコメンテーターとして口を酸っぱくして何度も言ったいることだが、要するに「官僚は商売をやったことなど一度もないのに、商売人よりも経済センスがあるわけはないだろ!センスがあるなら安月給の公務員辞めて商売してるわ!」とのこと。