進化の重要なキーワードの一つ、突然変異についてまとめておこう。
突然変異の説明に必要な用語たち
「何となく分かりそうな用語」をもう少し詳しく理解するために整理しておく。
遺伝子
遺伝子
遺伝形質を規定する因子。本体はふつうDNA(デオキシリボ核酸)で、染色体上のある長さをもつ特定の区画をいう。
遺伝形質とは、「生物のもっている形や特徴のなかで遺伝するもの」*1。これに対して獲得形質はふつうは遺伝しない。これは「後天性遺伝形質ともいう。先天性遺伝形質に対する言葉。すなわち,生物が生れたのちに,外界の影響によって得た形質。たとえばナイフによる切り傷や学習による知識など。」*2 *3
DNA
DNA
地球上の多くの生物において遺伝情報の継承と発現を担う高分子生体物質である。
- 生体物質とは、「生物の体内に存在する化学物質の総称。」*4
染色体
染色体
元来は細胞核の中に含まれ,細胞分裂が始まると,塩基性色素によく染まるひも状の構造を指したが,その後の分子遺伝学的な知見に基づき,現在では,細胞内の遺伝情報を担うDNA(およびヒストンなどのタンパク質分子が結合した)の巨大な糸状分子を指す。
ヒト細胞の分裂期染色体(左)とその拡大図(右)。バーは1 μm。
突然変異
突然変異(とつぜんへんい)とは、生物やウイルスがもつ遺伝物質の質的・量的変化。および、その変化によって生じる状態。
核・ミトコンドリア・葉緑体において、DNA、あるいはRNA上の塩基配列に物理的変化が生じることを遺伝子突然変異という。染色体の数や構造に変化が生じることを染色体突然変異という。
細胞や個体のレベルでは、突然変異により表現型が変化する場合があるが、必ずしも常に表現型に変化が現れるわけではない。 また、多細胞生物の場合、突然変異は生殖細胞で発生しなければ、次世代には遺伝しない。
表現型に変異が生じた細胞または個体は突然変異体(ミュータント[1])と呼ばれ、変異を起こす物理的・化学的な要因は変異原(ミュータゲン[2])という。
個体レベルでは、発ガンや機能不全などの原因となる場合がある。しかし、集団レベルでみれば、突然変異によって新しい機能をもった個体が生み出されるので、進化の原動力ともいえる。
出典:突然変異<wikipedia
遺伝物質とは遺伝子、DNA、RNA、染色体のこと。
表現型とは、「ある生物のもつ遺伝子型が形質として表現されたものである。その生物の形態、構造、行動、生理的性質などを含む。」(表現型<wikipedia)
突然変異は大きく分けて、遺伝子突然変異と染色体突然変異(染色体異常)の二つがある。
遺伝子突然変異は、基本的にDNAの複製(細胞分裂する時にDNAも複製される過程)*6のミスにより起こるが、その他の原因として化学物質によるDNAの損傷および複製ミス・放射線照射によるDNAの損傷などがある*7。
染色体突然変異(染色体異常)は、《染色体の、欠失・逆位・転座・重複などによる構造の変化や、染色体数の増減などの変異。また、それが原因で起こるダウン症候群などの病気》*8。
突然変異は、基本的にDNAの複製のミスで起こるので、自然環境の中では周囲の環境に関係なくランダムで起こる。
しかし、放射線照射により人為的に突然変異を起こすことができる。*9
突然変異の影響(有害か有益か)
突然変異のほとんどは、個体の生存にとって有害です。タンパク質はアミノ酸がならんで作られる分子ですが、突然変異によって遺伝暗号が変化すると、たいていは意味のない配列になってしまうので、どんなタンパク質も作られなくなってしまいます。また、不適切なタンパク質が作られることにもなります。そうすると、そのような変異を持った個体は、生存や繁殖に不利になります。[中略]
有害な突然変異は、そういう変異を持った個体の適応度が低くなるので、自然淘汰によって除かれてしまいます。いったん除かれても、変異はランダムに起こるので、また同じような変異が生じてくることがあります。
出典:長谷川眞理子/進化とはなんだろうか/岩波ジュニア新書/1999/p65
体細胞の突然変異は腫瘍の発症につながることがある。 詳細は「悪性腫瘍#がん発生の機序(メカニズム)」および「発癌性」を参照
生殖細胞が突然変異を起こし、それが無事に発生・成長すれば、その個体の全細胞のDNAが変異した状態となり、部位によっては親と異なる遺伝形質が発現する事がある。さらにそれが子に遺伝し、幾世代に渡って変異が累積していけば、ついには別の種へと変化する事になり、これが進化のプロセスの一つと考えられている。
細菌やウイルスは突然変異によりワクチンの型変化や治療薬への抵抗力を獲得する事があり、治療・予防を困難にしている。ただし細胞や個体が突然変異を起こしたとしても、細胞なら分裂能力、個体なら繁殖能力を持たない場合も多く、変異したものがその個体のみで終わってしまう場合も少なくない。また個体の場合は、繁殖能力を持っていたとしても、必ずしも変異したDNA部分が遺伝されるわけではないので、やはり変異が遺伝されるとは限らない。
出典:突然変異#影響<wikipedia
分子時計
分子時計(ぶんしどけい、英: Molecular clock)とは、生物間の分子的な違いを比較し、進化過程で分岐した年代を推定したものの仮説。分子進化時計とも呼ばれることがある。[中略]
1955年頃から、アメリカのライナス・ポーリングとエミール・ズッカーカンドル[1][2]は、ヘモグロビンのα鎖を構成するアミノ酸に注目した。ヘモグロビンα鎖は141個のアミノ酸からなることが知られていた。また、動物により配列が異なることから、ポーリングらはいろいろな動物間でこのアミノ酸の配列の異なる個数を調べたところ、以下の結果を得た。
ヒト - ゴリラ:1個[3]
ヒト - イヌ:23個[4]
ヒト - イモリ:62個[要出典]
ヒト - 鯉:68個[4]生物の類縁度が高いほどアミノ酸の配列が異なる個数は少なくなることが分かった。これ以外にも色々な動物間のアミノ酸の配列の違いを測定。さらに、化石上ですでに分岐時期が判明しているものとの相関関係を取ると、アミノ酸α鎖の配列の差と分岐時期に直線関係があることが分かった。
これらのことからアミノ酸配列の突然変異が常に一定速度で発生すると仮定すると、生物間の分子構造の違いと分子構造の時間あたりの変化量から進化系譜が構築できるのではないかという考えが生まれた。1962年、ポーリングらはこれを分子時計と名付けた[5]。
分子時計については、ほかに、「パラダイムシフト:分子進化の中立説<宮田 隆の進化の話 - JT生命誌研究館/2005」なども参照。
関連記事
*1:遺伝形質<日本大百科全書(ニッポニカ)<小学館<コトバンク
*2:獲得形質<ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典<コトバンク
*3:「獲得形質は遺伝しない」の例外として「エピジェネティクス」というものがあるらしいが、調べていない。
*5:著作者:Ascendinglotus2、ダウンロード先:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:SisterChromatid1.png#/media/File:SisterChromatid1.png