歴史の世界

「中国人論・中国論」カテゴリーの主要な参考図書およびウェブサイト

「中国人論・中国論」シリーズ終了。

コラム的に1つの記事として書こうと思ったがこんなに長くなってしまった。

まあ、これから中国史を勉強するにしても、現代の国際政治を考えるにしても中国人の行動様式を知っておくことは有用だとは思う。

この記事では、主な参考図書とウェブサイトを書き残しておく。

岡田英弘/この厄介な国、中国/WAC BUNKO/2001(『妻も敵なり』(クレスト社/1997)の文庫版)

この厄介な国、中国 (WAC BUNKO)

この厄介な国、中国 (WAC BUNKO)

東洋史家・岡田英弘氏の本。歴史を通して「中国人とはなにか」を書いている。

この本を手にしたのは10年以上前で、その頃は反中本の1つとしか思えなかったが、今は「中国人を知るマニュアル」くらいに思っている。原著が20年前のものだが、読者のほうで多少の知識のアップデートをすればこの本は十分現役だ、と思う。

幅広い事項と少ない紙幅のため、詳細とは言えない部分が少なくたいので、気になる事項に対しては別の情報源を当たるしかない。

小室直樹小室直樹の中国原論/徳間書店/1996

小室直樹の中国原論

小室直樹の中国原論

社会科学者小室直樹氏の本。こちらも上の本と同様に歴史に中国人の行動様式を求めている。

ただし、小室氏は「中国史の記述は驚くほど正確」(p280)と書いているが、これは違う。現代の中国政府が歴史を改竄しまくっていることは周知の事実だが、歴代王朝も同様なことをやっている。

中国の正史は、例えば『明史』を清代の歴史家が書くように、先代王朝史を次代に書くことが慣習となっていた。そうなると歴史家は「先代王朝は末期に悪政を行ったので、自分たちの王朝が倒した」と易姓革命を正当化しなければならない。これだけでも嘘が必要だ。

また次代に正史を書かせるために現王朝はあらゆる資料を書き残すのが中国王朝のしきたりになっているのだが、都合の悪いことは書き残さないことも少なくないという。改竄も同様だろう*1

さらに一般庶民に関連する史料が極端に少ないという。

まあ他地域に比べれば、中国史は史料が 遥かに多いので、社会科学のサンプルが豊富なのは確かなのだろう。後はサンプルが有用化否かの分別の問題だ。

林 思雲(ペンネーム), 金谷 譲/中国人と日本人―ホンネの対話/日中出版 /2005

こちらは現代の中国人と中国をよく知る日本人が書いた本。

2005年という経済大国と言われる前の時代に出版された本だということを念頭に置かなければならないが、個人的には勉強になった。

特に、人間関係については上の2つと違う角度で同様なことを言っているので、知的好奇心を刺激された。3冊を読み比べると大変面白い。

この本は、一般的な中国の庶民の人間関係の感覚と、中国中央政府のその感覚は同じだということに気づく(当然なのだが)。

題名通り、中国人だけでなく、日本人についても書いているのだが、日本人に関するところはほとんど読んでいない。

渡辺利夫/決定版・脱亜論 今こそ明治維新のリアリズムに学べ/扶桑社/2017

決定版・脱亜論 今こそ明治維新のリアリズムに学べ

決定版・脱亜論 今こそ明治維新のリアリズムに学べ

  • 作者:利夫, 渡辺
  • 発売日: 2017/12/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

福澤が『脱亜論』を書くまでの短い歴史と彼の内面を探る本。

『脱亜論』を書く前、福澤は李氏朝鮮の清国からの独立と近代化を応援していたが、独立派のクーデターの失敗と独立派に対する中央政府の凄惨な仕打ちに、福澤は絶望して李氏朝鮮そしてその後ろにいる清国が近代化するという幻想を捨てた。

著者の渡辺氏は、『脱亜論』には福澤自身が李氏朝鮮が近代化できるという幻想に対する自省が含まれているのではないか、という趣旨を書いている。

倉山満(監修)/大隈重信、中国人を大いに論ず 現代語訳『日支民族性論』/祥伝社/2016

『日支民族性論』は監修者の倉山氏本人が「ネトウヨ本」と書いている。行き過ぎた部分があるのだろうがその部分がどこなのか私には分からない。日本を持ち上げ過ぎなきらいはある。

大隈は『日支民族性論』を書く前に、有名な「対華二十一カ条の要求」の交渉を行っていた。ここで蒋介石率いる中華国民国政府と粛々と交渉していたはずだが、蒋介石側が秘密協定をすぐさま世界に公開して日本側を批判し始めた。これに対して呆れたのか怒りを覚えたのか、この本を通して「支那はどうしようもない奴らだ」と世に訴えた。

このような本だからある程度割り引いて読まなければならないが、大隈の主張が岡田英弘氏の主張にかなり近いのがとても興味をそそった。

倉山氏の言うように「ネトウヨ本」かもしれないが、大隈がたいへんな教養の持ち主だったこともこの本で分かる。

中国人論として的を射ていると思うので6つの記事に亘って参考にしさせてもらった。

【9月8日配信】歴史人物伝「●●もビックリの中国論?!大隈重信を語る」倉山満 宮脇淳子【チャンネルくらら】 - YouTube」という番宣の動画もたいへん参考になる。

(毎週火曜配信)皇帝たちの中国 宮脇淳子 田沼隆志 - YouTube

『チャンネルくらら』というYouTubeのチャンネルの中の番組。

岡田英弘著『皇帝たちの中国』をネタ元にして中国史を語る番組なのだが、この番組で語られる注目すべきことはずばり中国人論だ。『皇帝たちの中国』よりも『この厄介な国、中国』の話のほうが面白い。中国人を知りたい人は見るべき番組だ。




現代中国に関する本はたくさんあってそれも読まなければ、とは思ったが、遅読のため諦めた。


*1:有名な話としては、『崔杼、其の君を弑す』と書いた役人が崔杼(春秋時代の斉の権力者)に殺されたエピソードがある。このエピソードが語り継がれているのは、殺されることを覚悟で真実を書こうとする官吏は歴史上ほとんどいなかったことの裏返しだろう。