歴史の世界

プロパガンダのテクニック一覧 その3/止(O~)

前回からの続き

O, P, Q(5)

  1. Obfuscation, intentional vagueness, confusion:難語化。難しい言葉や定義が曖昧な言葉を使って議論をはぐらかす。

  2. Operant conditioning:オペラント条件づけ *1
    子供が「おつかいをするとお小遣いがもらえる」を学習すると、すすんでおつかいにいこうとするようになる、という条件付け。
    逆のパターンとして、学校でカンニングしてこっぴどく叱られたら、次からはやらないようになる。
    また、自分の体験でなく他者の体験の観察でも、このような「学習」が起こる。例えば、兄がおつかいをしてお小遣いをもらっているところを "観察" した弟はおつかいをしたがるようになる、など。

  3. Oversimplification:過剰な単純化
    たとえば、Aという事象の結果の要因がB+C+Dだったのに、「Aが起こったのはBのせいだ」と言って、Aに全ての責任をかぶせたり、BやCの責任を隠したりする。
    【例】何でもかんでもユダヤ人のせいにするユダヤ陰謀論や、安倍総理(当時)のせいにする安倍万能論者(アベガー民、アベノセイダーズ)がこの典型。

  4. Pensée unique *2:発言者主張する時に「これが唯一の解決策だ」などのような断定的な言葉を使って、それ以外の選択肢を排除しようする論法を指す。
    【例】マーガレット・サッチャーが自らの経済政策を推し進めるために「他に選択肢はない"There is no alternative."」と発言が有名 *3
    【注】ただし実際のこの用法は、「他に選択肢はない」と主張した人に向かって批判するために「それはPensée uniqueだ!」という具合に使われる。

  5. Quotes out of context:文脈の主張とは違う引用をすること。
    敵対者の文章から趣旨から外れた部分を都合よく切り取って、敵対者を攻撃する。たとえば、論敵が「Aの場合を除いて、BはCだ」と主張しているのに、「Aの場合を除いて」と言ったことを省略して「(論敵は)BはCだ、と言っている」と騒ぎ立てる。
    もう一つ、有名な(あるいは権威のある)言葉を都合よく引用することで自分の主張を補強する。

R(3)

  1. Rationalization:正当化。自分のネガティブな行為・結果に対して正当化しようとする。
    【例】「原爆投下によって、戦争を早く終わらせ、100万人のアメリカ兵の生命が救われた」 *4がこの典型。

  2. Red herring:論点を逸らすテクニック *5
    【例】中国の軍事的脅威が増している状況で自衛隊の軍備増強が喫緊の課題であるのに、「中国との対話が先だ」とか「憲法改正が先だ」と論点を逸らす。

  3. Repetition:Ad nauseamと同じ。

S(5)

Scapegoating:スケープゴート。ネガティブな結果の原因を特定の個人/組織に責任を追わせて、自分の責任を転嫁/軽減する。

Slogans:演説、ポスターなどに使われる。完結で覚えやすいフレーズ。ポスターを多く貼ったり、スローガンを言い続けて、大衆を洗脳する。
【例】「欲しがりません勝つまでは」「改革無くして成長なし」

Smears:誹謗中傷。対象者の名誉・評判を傷つける。効果のある中傷なら真偽を問わない。組織的、計画的にやるとさらに効果が発揮される(ネガティブキャンペーン・Smear campaign)。

Stereotyping, name calling or labeling:Stereotypingは対象のイメージを単純化して共通認識化して固定化すること(大衆の頭の中に固定観念化すること)。多くの場合、ネガティブなプロパガンダとして行使される *6
name calling、labelingは既にやったが、目的はStereotypingと同じ。

Straw man:主張・論点を曲解したり別の論点にすり替えて、自分の主張を押し通したり返答・反論する。
【例】X氏「私は雨の日が嫌いだ。」
Y氏「もし雨が降らなかったら干ばつで農作物は枯れ、ダムは枯渇し我々はみな餓死することになるが、それでもX氏は雨など無くなったほうが良いと言うのであろうか。」 *7

T(4)

  1. Testimonial:推薦文。基本は有名人や尊敬されている人・権威者などの推薦によって、こちらの主義主張を受け入れさせるテクニック(beautiful people)だが、健康関連商品においては、CMに見られる体験談のように、一般人でも効果があるそうだ。(推薦文 - Wikipedia 参照)。

  2. Third party technique:第三者の口を借りて対象者を説得するテクニック。
    【例】対象者と共通する上司を使ったり、政府→大衆の場合は御用学者や御用評論家をつかったり、商業の場合も学者やタレントを雇って言わせたりする。(beautiful peopleに関連する)

  3. Thought-terminating cliché:議論を止めるための決り文句。
    【例】「もう決まったことだ」「ならぬものはならぬ」 *8

  4. Transfer:転移。2つある。
    ひとつは、誰もが権威のある人・尊敬される人あるいは国旗など強い感情を呼び起こすもの、これらのポジティブなイメージを自分に転移する。つまり同一視させる。
    もう一つ、逆にネガティブなイメージと敵対者をリンクさせる。
    ポジティブの例→アメリカの選挙候補者は、ピルグリム・ファーザーズや建国の父の話をよくする。また、国旗も選挙キャンペーンに使う。
    ネガティブの例→敵対者をヒトラーや鉤十字とリンクさせて第三者に印象づける。

U, V, W(3)

Unstated assumption:主張を既成事実として伝える *9。 こちらの主張がまだ通っていない場合、議論の余地があるにも関わらず、確定したこと(前提条件)として、次の話に進める。
【例】(無料体験を受けた人に、承諾していないのに、サービスを申し込むことを前提として)「6ヶ月コースと1年コースがありますがどちらにしますか?」と話し始める。

Virtue words:政治関連でよく使われる。「美徳の言葉」とは、ポジティブなイメージを持つ抽象的な言葉で、例としては平和、希望、幸福、安心、自由、などがある。これらの言葉を演説などで使って、自分の主張の方向性を示すとともに、好印象を持つように仕向ける。

Whataboutism:この語の日本語訳は「そっちこそどうなんだ主義」。
議論相手の主張に対して反論せずに、関連する別の話を持ち出して「そっちこそ〇〇はどうなんだ」と言って、論争を泥仕合に持ち込む。
【例】国連などの場で、日本が北朝鮮拉致問題の話をすると、北朝鮮側は「そっちこそ従軍慰安婦に対して謝罪しろ」などと言い出す。




これで終わり。


*1:行動主義心理学の基本的な理論。 スキナー博士のネズミの実験が有名だが、ここでは書かない。 オペラント条件づけ - Wikipedia 参照

*2:Penséeはフランス語で「考え」

*3:「 TINA」という言葉すらある

*4:ヘンリー・スティムソン - Wikipedia

*5:直訳は「赤いニシン」。燻製ニシンの虚偽 - Wikipedia 参照

*6:「ポジティブ」の場合もあるらしい

*7:ストローマン - Wikipedia

*8:プロパガンダの見破り方/p242

*9:プロパガンダの見破り方/p224-225