歴史の世界

【戦略学】フィクション その1

「現実を見ろ!」と主張するリアリストの奥山真司氏が、一方で「フィクションは大事だ」と言っている。興味深い。

どうしてフィクションが重要なのかを以下に書き留めておく。

(フィクションと戦略の関係の話は次回にする。)

この記事における「フィクション」

「フィクション」とは通常はウソとか作り話のことを指すのだが、ここでは(未来を語る上での)仮定の話や(国家や宗教を語る上での)神話なども含まれることに注意。これよりもさらに拡大解釈もある。

真実に勝つフィクション

まず↓の動画。フィクションというものが実は真実よりも強いのではないか?という話。

この動画は『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏がnew york timesに書いた記事の紹介。複雑な部分を省略して、簡単に解説し、感想その他を加えている。

  • 世間一般の人たちは「真実には力がある」と思っている。つまり「真実を世に公開すれば、ウソは駆逐される」と信じている。
  • ハラリ氏は、いろいろ人類の歴史を見てきたけど、それはウソだと言い切っている。
  • まず、社会を動かすためには真実だけでは全く動かない。
  • 動かすためには「コモン・ストーリー」が必要。つまりフィクションだ。
  • 本当に力があるのは真実ではなく、ウソやフィクションだ。
  • フィクションの(真実に対する)強み。
    • その1:「真実は普遍的だが、フィクションはローカルである。」簡単に言い換えると、科学(真実)は普遍的だが、ある組織(ローカル。宗教団体、国家、民族など)の中ではフィクション(コモン・ストーリー。教義、神話、歴史教育など)のほうが真実よりも力を持つ。例えば、『日本書紀』の神話は日本国を一つにまとめる役割を果たしているが、他国にとってそれはフィクションにすぎない。
    • その2:「真実は汚くて目を背けたいものである。」例えば、韓国の歴史はなにもないので、韓国は檀君神話を信じる。(歴史・過去というものはドロドロとしているもので、それを覆い隠すものが神話や英雄伝説である)
  • 国家だけではなく、個人も自分自身のためのコモン・ストーリーを作って、人生を歩んでいったほうがいいのではないか?どんな困難・災害があっても自分なら生き抜いていけるという非科学的な自身は多くの人が持っているが、そういう思い込みはどうしても必要だ。
  • アメリカの政治家が真実・実情だけしか言わなければ、必ず落選する。だから政治家たちは建国の父の話などを語る。やっぱり政治家にはフィクションが必要だ。
  • ただし、フィクションを語りかけられる側も、以上のことを理解しておくことが重要だ。

人類史とフィクション

ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』の紹介説明で以下のようなものがある。

サピエンス躍進の起点となった認知革命はおよそ7万年前に起きた。原因は遺伝子の突然変異らしいが、サピエンスは柔軟な言語をもって集団で行動できるようになり、先行する他の人類種や獰猛な動物たちを追い払った。この認知革命によって獲得した〈虚構、すなわち架空の事物について語る〉能力は神話を生み、大勢で協力することを可能にした。後に国家、法律、貨幣、宗教といった〈想像上の秩序〉が成立するのもここに起因している。

出典:サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 | ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 |本 | 通販 | Amazon

(「認知革命」については議論があるところなのだが、その話はここでは省く。)

一般的に動物は大きな群れを維持することはできないのだが、ホモ・サピエンスが言語を「発明」して伝達を用意にしたことによってこの壁を克服した。

そしてさらに虚構つまりコモン・ストーリー(神話や宗教など)を創作してを作って共有することにより大きな共同体が維持できるようになった。そして「大勢で協力することを可能にした」その結果が文明に至る。

ここまでは私もすんなりと納得できたのだが、国家、法律、貨幣も虚構だという主張を受け入れるのには躊躇する。

ハラリ氏はあるインタビューで以下のように語っている。

虚構は悪いイメージがあるが?

「虚構は重要で、価値があるものだと思います。なければ社会は成り立たない。例えば、貨幣がなければ、今の経済は明日にでも崩壊してしまう。秩序がなければ、互いに殺し合ったり、そうしても罰則も与えられなかったり。ですから、虚構が悪いと言っているわけではありません」

「例えばサッカーには誰もが合意しているルールがあります。このルールは自然なものでも、神からもたらされたものでもない。人間がつくったものです。でも、そのルールに合意、つまり共通の虚構を受け入れなければ、サッカーをプレイできなくなります」

出典:"貨幣や宗教は虚構"「サピエンス全史」ユダヤ人著者が語ったこと。

ハラリ氏が使う「虚構」という言葉は以上のようなものを含んでいる。『サピエンス全史』は世界的ベストセラーになった本で多くの人たちがハラリ氏の主張を絶賛しているのだから、「ルール=虚構」という等式が受け入れられた、または「そういう考え方がある」と認知されたということになる。

新しい社会を作るためのフィクション

以上を踏まえて、新しい社会を作る"虚構"の話を引用。

『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社)という本のこと。これは必読です。ハラリは、人間を人間たらしめた能力は、虚構構築能力だと喝破している。[中略]

伊賀:今、安宅さんが「虚構」と呼んでるのは、まさに私が『生産性』に書いたビジネスイノベーション、非技術的なイノベーションの話ですね。なんだけど、たくさんの人が信じる新たな虚構をつくるのは簡単なことではありません。

安宅:ものすごく難しい。でも、共通の虚構を積み上げることで、人間は社会制度のすべてをつくり、巨大な仕組みを構築してきたとハラリは書いている。その虚構構築能力こそが、人類が現在の礎をつくった時期と同じぐらい大事になってきていると思います。

伊賀:そうですね。そして新たな虚構が提案され、多くの人がそれを信じ始めると、過去にみんなが信じてきた社会制度としての虚構がアップデートされて覆されていくんです。[中略]

生物にとって種の保存は究極の目的ですが、それにもっとも適した虚構、つまり社会制度が何かというのは、環境や利用できる技術が変わればそれに応じてアップデートされていくのが自然なこと。

古い虚構が機能しなくなっているのに、「次はこれでいこう」という新たな虚構を提案できないと、社会も企業も停滞してしまう。少子化問題の根幹もそこにある。そういう意味で私が『生産性』の中で書いたビジネスイノベーションを起こす力というのは、まさに虚構構築能力ってことですよね。

出典:生産性を高める最終兵器は虚構を構築すること 新春対談:安宅和人×伊賀泰代【第3回】 | 新春対談:安宅和人×伊賀泰代|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

社会を良い方向へアップデートするためには虚構構築能力が必要不可欠という話。

(続く)