歴史の世界

中国文明:「中国文明」を調べる際の注意点② 「多地域進化説」を唱える中国人学者

北京原人からホモ・サピエンス

人類の進化の一般的な見解は「アフリカ単一起源説」だ。つまり、現生人類(ホモ・サピエンス)はアフリカ大陸で誕生し、他の大陸に拡散したという説。

これに対して、ジャワ原人北京原人ネアンデルタール人などが各地域で現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)に進化していったとする「多地域進化説」というものがある*1。ただし、「多地域進化説」はあまり(ほとんど?)支持されていない。

中国の先史について中国人学者のあいだでどのような議論が為されているのか知らないが、彼らの中には「多地域進化説」を支持する人がいるそうだ。

人類進化の研究(に限らず近代の学問が全般的にそうなのですが)が西洋の研究者の主導により進められたことは否定できず、そこでは、アジア東部よりもヨーロッパ・アフリカ・西アジアが重視されてきた傾向は否めません。そうした傾向は現在でも解消されたとは言い難く、東アジア、とくに中国の研究者たちは、それに強い不満を抱いているようです。

出典:中国での発見が書き換える人類史 雑記帳/ウェブリブログ 2016/07/15

上の記事によれば、これまでの考古学的発見から、「東アジアにおけるエレクトスから現代人までの継続的進化を示している、と中国を中心とした一部の研究者たちは主張しています」という。

また、「東アジアにおける人類進化の連続性を主張する見解の背景には中国のナショナリズムがある、との見解も提示されています。中国の研究者たちはそうした見解を否定しています」とも書いてある。

「中国産の類人猿からホモ・サピエンスへ」

香港で出版された先史の本が翻訳されている。

先史 文明への胎動

先史 文明への胎動

原著は2001年出版。翻訳本は2006年出版。

原著者の3人の中の一人は夏商周断代工程の参加者で、他の一人は河南省の発掘調査と研究の責任者(いずれも出版当時)。「多地域進化説」は中国共産党幹部が許容しているか、推している。

この本によれば、まず禄豊古猿(700-800万年前)と呼ばれるラマピテクス(類人猿の一種)からアウストラロピテクスが誕生し、アウストラロピテクスから元謀人(ホモ・エレクトスへの過渡期の化石人類)へと進化した(170万年前)。禄豊古猿と元謀人は両方とも雲南省で発見された(アウストラロピテクスの化石は発見されていないようだ)。(p13)

ご丁寧に、神話を扱う節では「雲南の楚雄のイ族の創世詩には、サルが石を道具として使うことを覚え、石を打ちあわせて火をおこし、食べ物を調理するようになり、最後に「サルがヒトになった」という一節があります」とある。(p7-8)

ちなみに、ラマピテクスが人類の直系の祖先だという説は ほぼ否定されている*2

元謀人についても、そんなに古くはなく、せいぜい50~60万年前ではないかとも言われている。

さらに、30~5万年前に「古代型ホモ・サピエンスの段階」へ入る。中国で発見されたこの段階に属する化石人類は中国産ホモ・エレクトス北京原人など)から進化した、とはっきりとは書いていないが、北京人(北京原人)と「古代型ホモ・サピエンス」と中国の現代人には連続性があるとしている。(p32-37)

おそらく、「古代型ホモ・サピエンス」は中国産ホモ・エレクトスがある程度進化した(脳の大容量化など)人類だろう。ただし独立した人種なるほどの進化ではなく、ホモ・エレクトスの中での進化ということになる、と思う。(p251 先史年表)

5万年~3万年前に「古代型ホモ・サピエンス」から「現代型ホモ・サピエンス」への移行期、とある(p251 先史年表)。

この「現代型ホモ・サピエンス」が我々と同じホモ・サピエンスだ。

ただ、この本によれば、禄豊古猿が「人類の直系の祖先」(p251 先史年表)とある。

さらに、p40では5万~1万年前までに、「現代型ホモ・サピエンス」が出現するのだが、それは「三代人種」(モンゴロイドコーカソイドネグロイド)が独立して誕生した、としている。つまり、モンゴロイドの祖先は禄豊古猿だということだ。日本人の祖先も禄豊古猿ということになる。

トンデモとしか思えない。

日本人学者2人の見解

「多地域進化説」について

中国人学者(の一部?)が「多地域進化説」を推している中で、日本人学者はどのような見解を示しているか。

私が読んでいる本の中では『宮本一夫/中国の歴史01 神話から歴史へ(神話時代・夏王朝)(講談社/2005年)』と『世界歴史体系 中国史1 先史~後漢山川出版社/2003)』の2冊がこれに言及してるが、両方とも「多地域進化説」に対してはほぼ否定している。

「古代型ホモ・サピエンス」「現代型ホモ・サピエンス」の呼称について

基本的にどの参考文献も(上の2冊以外も)「古代型ホモ・サピエンス」「現代型ホモ・サピエンス」の呼称を採用している。