歴史の世界

【書評】田中 秀臣『脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている』

GHQ連合国軍最高司令官総司令部)による日本の「経済民主化」は、増税をはじめ今日まで続く緊縮財政策の起源の一つ、すなわち「経済弱体化」政策だった。GHQが掲げる緊縮主義に日本の緊縮主義者が相乗りし、経済や社会、文化をめぐる考え方にマイナスの影響を与えてきたのだ。「財閥解体独占禁止法過度経済力集中排除法の成立、さらには有力な経営者の追放が行われた。これらの政策は、競争メカニズムを形成するというよりも、戦争の原因になった大資本の解体による日本の経済力の弱体化が目的であった」(「第1章」より)。本書は国家を脆弱化、衰退化させる経済思想を、占領期のGHQと日本の経済学者の関係から再考察するもの。さらにアフター・コロナの「戦後」において、日米欧は中国共産党の独裁・統制主義の経済に対峙すべく、自由主義による経済再生に全力を尽くさなければならない。われわれが「100年に1度」の危機を乗り越えるための方向性を示す。

出典:脱GHQ史観の経済学 | 田中秀臣著 | 書籍 | PHP研究所

上にあるようにこの本の中心は敗戦直後のGHQ占領下と現代の日本の経済を論じることが中心となっている。

著者について

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。(アマゾンより

リフレ派(積極財政派)の論客で、文化放送「おはよう寺ちゃん」の火曜日のコメンテーターをやっている。

いつもは緊縮財政派のラスボスである財務省をボロクソに批判しているが(解体しろと言っている)、本書では日銀の緊縮主義を批判している。

目次

第1章 経済学はいまでもGHQが占領中
第2章 緊縮財政の呪縛
第3章 集団安全保障と憲法改正の経済学
第4章 占領史観にただ乗りする中国と韓国
第5章 学術会議、あいちトリエンナーレに映るGHQの影
(アマゾンより)

「はじめに」に以下のように書いてある。

本書 では、 占領 期 の 経済政策 の 思想、 特に 緊縮 政策 = 日本 弱体化 に 関連 する ところ を 大胆 に 切り取る こと に し た。 そして 単に「 歴史」 を 語る のでは なく、 その「 歴史」 が 今日 の 経済・安全保障・国際 関係・言論 の 世界 などに どの よう に 深刻 な 影響 を 与え て いる かに 重点 を 置い て いる。

出典:田中 秀臣. 脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている (PHP新書) (Kindle Locations 65-67). 株式会社PHP研究所. Kindle Edition.

内容・感想

上述のように本書の中心は日本経済だ。

マッカーサーが日本を二度と戦争ができない国にしようとしていたことは多くの人が知っていることだが、その一つが「経済民主化」=緊縮 政策 = 日本弱体化だ。

この政策は朝鮮戦争により一旦は消えるのだが、日銀内部で今日にまで経済思想として残っていた、そのことは日銀の正史である『日本銀行百年史』を読めば分かるという。現在、黒田日銀総裁のもとでリフレ政策を採用しているが、日銀内部ではデフレ政策をした白川前総裁の人気が高いというのは背筋が寒くなるほど恐ろしい話だ。

副題に「エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている」とあるが、GHQが残した緊縮主義は日銀を中心に残っているということになる(財務省の緊縮主義との関係は書いていなかったと思う)。

本書では「GHQ」というキーワードが頻繁に出てくるが、この本を読んで強く思うことは、読者が読後に「GHQ憎し」「アメリカ憎し」で終わるのではなく、占領下で敗戦利権を手にした後継者たちが現在でも日本の政治に深く関わり、日本を弱体化を推し進めているということだ。

そしてこのことは日本経済だけに限らない。

第3章以降に書いてあるが、複数の分野に敗戦利得者の後継者たちがいて、日本弱体化を推し進めている(本人たちは自分の利権を守ろうとしているだけかもしれないが)。日本学術会議などは典型的な例と言える。

日本経済の話に戻るが、日本の国益を守るためには、まず負の伝統である緊縮主義を退けて高橋是清-石橋湛山-下村治から継承されるリフレ政策を日本の経済政策の中心に置くことだ *1

これと軌を一にして悪しき利得権益者を少しでも削っていくことができれば、日本は明るくなっていくだろう。



*1:リフレ政策は他国では標準的な経済政策だ。日本が異常なのだが、財務省とそれに媚を売るマスコミたちがこのことを隠蔽している