初期ホモ属は一般的にホモ・ハビリスとホモ・ルドルフェンシスのことを指す。この2種をアウストラロピテクス属だと主張する学者も多く(ロビン・ダンバー氏もその一人)、ホモ属に分類する学者も暫定的に分類している(れっきとしたホモ属だとする学者もいるかもしれないが)。
とりあえず、このブログでは上記2種を初期ホモ属と呼ぶ。
前回も書いたが、アウストラロピテクス属からホモ属への移行期(境界付近)は、多様化が進み、様々な形態を持つ人類が現れた。
ホモ・ハビリスとホモ・ルドルフェンシスもこの移行期の中の種だ。この時期の他の種と同じように、彼らはアウストラロピテクス属とホモ属の両方の特徴を持っている。
ホモ・ハビリス
生息年代
240万年前から140万年前
推測の材料
頭骨、顎、歯、手など。
特徴
脳の大きさ:510-690cc
体重:30-40kg
身長:100-135cm
外見はアウストラロピテクスに近い(長い腕、短い足)
ホモ属的特徴としては、比較的大きい脳、顎の出っ張りが少ない、指の骨の丸みが少ない(物を正確に持てる)、歯が小さく歯列がホモ属のようにU字型に近くなっている。
発見・公表
1960年、Jonathan Leakeyに、オルドヴァイ渓谷(タンザニア)で下顎と頭頂部を発見した。「OH7」
1964年、LeakeyらのチームによってNatureに発表された。ホモ・ハビリスと名付けられる。
OH7は、前回で紹介したとおり、2015年に再検討が公表され、以前の発表よりも顎がアウストラロピテクスに近いが脳容量は大きいとされる。
1986年、Donald Johanson と Tim Whiteによってオルドヴァイ渓谷で上腕と大腿骨を含む化石が発見された。「OH62」
これにより、短い足と長い腕が確認され、ハビリスは よりアウストラロピテクスに近いとされた。
1960年に、Louis Leakeyによって、足の一部が発見された。「OH8」
この化石について、R.S.KiddaとP.O'Higginsらが研究結果を公表した。この研究結果は、OH8の個体はアウストラロピテクス的な特徴があるものの現代人と同じような足取りで歩いていた、と結論づけている。
1994年に、Hadar(エチオピア)で上顎の化石が発見された。「AL666-1」
前回 紹介した記事にある通り、230万年前のものとされる。さらにはこの顎の形態はOH7(AL666-1より50万年後の化石)よりも現代人に近い。
ホモ・ハビリスに近い、似ている、と書かれる。
その他
人類が多様化した時代の中で、現代人に繋がる可能性が一番あるのがホモ・ハビリスのようだ。
OH7の新しい研究結果については前回の記事で紹介した。
+「 雑記帳」というブログの記事「ハビリスの発表から50年間のホモ属の起源をめぐる議論 」を読むと詳細がわかる。
参考文献
- ホモ・ハビリス<wikipedia
- Homo habilis<wikipedia英語版
- Olduvai Hominid 8<wikipedia英語版
- Homo habilis <Australian Museum
- ハビリスの発表から50年間のホモ属の起源をめぐる議論 <雑記帳(ブログ)2015/03/06
- 人類の進化:ホモ属各種 ①(最古のホモ属 ~多様性の中で~)<当ブログ 2018-01-13
ホモ・ルドルフェンシス
ホモ・ルドルフエンシスとも書かれる。
生息年代
190-170万年前
推測の材料
頭蓋、下顎など(標本が少ない)
特徴
ホモ属的特徴:脳容量が大きい。平面な顔面。
アウストラロピテクス的特徴:大きい臼歯。
発見・公表
1972年に、バーナード・ンゲネオ (Bernard Ngeneo) が、クービ・フォラ(ケニアのトゥルカナ湖東岸)で頭蓋の化石を発見した。「KNM ER 1470」(基準標本)
発表当初から様々な議論がある中で、1986年、V. P. Alexeevにより「ホモ・ルドルフェンシス」という学名が提唱され、その後 普及した。
約190万年前のものだと推定されている。
1470は砕けて断片になっていたが、Meave LeakeyとBernard Woodがこれを組み立てた結果、ハビリスより大きな頭蓋(脳容量が大きい)と平面な顔面が確認された。アウストラロピテクスは顎が出張っていたが、1470は脳蓋部が前方に出張っているため、顔面が平面になっている。
しかしこの組み立てられた頭蓋骨についても批判が寄せられている。
2007年~2009年にかけて、KNM-ER 62000(1470によく似た、しかし小さな若年の顔面)、KNM-ER 60000(ほぼ完全な下顎骨)とKNM-ER 62003(下顎骨の断片)が発見された(発見者はおそらく発表者)。
2012年、ミーブ・リーキー氏とその娘ルイーズ・リーキー氏が率いる「コービ・フォラ(Koobi Fora)調査プロジェクト」によって発表された。この論文には3つの化石と1470との比較研究が書かれている。発表者は62000の平面な顔面を示して1470の顔面も同じように平面だった、これにより1470が独立した種であると確立された、としている。ただし研究者はホモ・ルドルフェンシスという呼び名は使用していない。
その他
「ホモ・ルドルフエンシス<wikipedia」に《2007年3月、ニューヨーク大学の人類学者Timothy Bromageの率いるチームがKNM-ER 1470の頭蓋骨の再構成に成功した。頭蓋の形はかなりサルに近く、推定される脳の容積も752ccから526ccに減少した。》ということが書かれているが、参考文献ほか検索をかけた限りでは、あまり注目されていない。
以下はKNM ER 1470の頭蓋とKNM-ER 60000の下顎の合成写真。
出典:FOSSIL: Two Other “Homo” Species Walked Side by Side With Homo Erectus In Kenya<Science Vibe May 9, 2017(著作者はおそらく発表者グループの一員のFred Spoor氏)
参考文献
- ホモ・ルドルフエンシス<wikipedia
- Homo rudolfensis<wikipedia英語版
- KNM-ER 1470<Smithsonian Institution
- ケニア北部のクービ・フォラで新たに発見された化石は、初期ヒト属の分類学的多様性を裏付ける<Nature 日本語版 2012年8月9日
- Homo rudolfensis <Australian Museum
- ケニア北部で発見された初期更新世の化石<雑記帳(ブログ)2012/08/10
- FOSSIL: Two Other “Homo” Species Walked Side by Side With Homo Erectus In Kenya<Science Vibe May 9, 2017
- トゥルカナ湖東岸クービ・フォラでホモ・ルドルフェンシスの新化石発見<河合信和の人類学のブログ 2012/8/10
- 顔面が平らな新種初期人類の下顎を発見<ナショナルグラフィック日本語版 2012.08.09