歴史の世界

先史:ホモ・サピエンスの大拡散:アメリカ大陸編

新大陸、南北アメリカ大陸への進出は最終氷期に地続きになった「ベーリング陸橋(地峡)」を渡って達成したというのが通説だが、舟によって達成されたという説もある。併せて紹介する。

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出典:ジャレド・ダイアモンド/銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎/草思社/2000/p51(原著はアメリカで1997年に出版)

南北アメリカ大陸へ進出

上述したジャレド・ダイアモンド氏の本には「人類が南北アメリカ大陸に住みはじめたのが35000年前から14000年前のあいだのどの時期かは、はっきりしているわけではない(p63)」と前置きをして上の図の通りの「北米に紀元前12000年頃、中米に前11000頃に到達」という説を展開している。

メキシコに接するアメリカ南西部のニューメキシコ州にある都市・クローヴィスにちなんだクローヴィス文化は南北アメリカ大陸の最初の文化とされているが、ダイアモンド氏はその文化の担い手の先祖がベーリング地峡(陸橋)を渡って中米まで南下してクローヴィス文化を反映させたのが、人類の南北アメリカ大陸の進出の始まりだと考えている(※ベーリング地峡(陸橋)とは現在のベーリング海峡氷期の海面下降により出現した地面のこと(ベーリング地峡<wikipedia参照)で、ホモ・サピエンスはこの陸橋を渡って初めてアメリカ大陸に進出した、というのが通説だ、または通説だった)。

そしてクローヴィス文化より古い時代と主張される遺跡が100ヶ所もあることに言及した後、以下のように主張する。

私としては、クローヴィス以前に人類が定住していたとすれば、それを明確に示す遺跡がこれまでに各地で発見されているはずであり、したがってこの論争はすでに解決済みのはずだと思われる。しかしこの点について、考古学者の意見はいまだに分かれている。

クローヴィス以前に南北アメリカ大陸に人類が存在していたと解釈しようがしまいが、われわれがアメリカ先史について理解している内容は同じである。南牧大陸には紀元前11000年頃に始めて人類が移り住み人口増加が短期間のあいだに起こった。あるいは、人類が最初に移り住んだのはそれよりもう少し前であったが、考古学的にはほとんど何も残さぬ存在であった(クローヴィス以前の定住説の支持者は、だいたい15000年前から2万年前、または3万年前までと推定していて、それ以上前とする説は少ない)。

出典:ダイアモンド氏/p70

通説に挑戦する説

ナショナルジオグラフィック日本版のウェブサイトでは「異説」を紹介している。ダイアモンド氏の主張を「通説」として「異説」は以下の通り。

この通説を覆したのが、1997年に南米チリのモンテベルデ遺跡で発掘調査を行った考古学者のチームだった。米国バンダービルト大学のトム・ディルヘイは、同地で1万4000年以上前に人類が居住していた証拠を発見したと発表。北米にクロービス文化が現れるより1000年も前ということになる。

だがそんな時期に、どうやってはるかチリまで到達できたのだろうか。一つの仮説は、海からのルートだ。

米国カリフォルニア州チャンネル諸島では、約1万2000年前、島の人々が海洋文化を発達させていたことを示す有力な証拠が見つかった。彼らの祖先はアジアを出発し、「ケルプ・ハイウェー」とでも言うべき海路を通って、おそらくベーリング陸橋での長い滞在を経て米大陸に来たのではないか。調査を進めるオレゴン大学のジョン・アーランドソンは、そう考えている。ケルプ・ハイウェーというのはコンブなどの海藻が密生し、魚や海生哺乳類が豊富な生態系が連なる海域のことだ。

「3万年前から2万5000年前の日本には、舟を操る海洋民がいたことがわかっています。そうした集団が環太平洋地域を北上し、米大陸に来たのかもしれないと考えるのは、理にかなった推論でしょう」

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2015年1月号でどうぞ。

出典:アメリカ大陸 最初の人類<ナショナルジオグラフィック日本版2015年1月号(文=グレン・ホッジズ)

チリ南部のモンテベルデ(Monte Verde)の遺跡については『銃・病原菌・鉄』でも紹介されている(p69)。ナショナルジオグラフィックの別のページによれば*1、「この遺跡は1万4500~1万4250年も以前のものと推定されている」。

さて問題は「ケルプ・ハイウェー」だ。「ケルプ」をgoogle検索すると「オオウキモ<wikipedia」が引っ掛かった。

オオウキモ(学名:Macrocystis pyrifera)は、不等毛植物門褐藻綱コンブ目コンブ科に属する海藻である。英名のジャイアントケルプ (Giant Kelp) が用いられることも多い。既知の藻類の中では最大種である。

根状部で海底の岩に付着し、上方に向かって茎状部や葉状部を成長させていく。その成長のスピードは著しく速く、1日に50cm近くも成長することもある。茎状部には空気をためた浮き袋が付いているため、これにより海中で直立して浮いていることができる。茎状部は海面に達するまで伸び続け、50m以上に達することもある。海面に達した後は、海面上に広がるような形で成長する。

オオウキモが密集した場所では、「ケルプの森」と言われる海底から海面に及ぶ長大な藻場が形成される。海中に林立し、さらに海面を覆い尽したオオウキモを側柱と天蓋に見立てて、「カテドラル(大伽藍)」などと呼ばれることもある。この藻場は生物多様性に富んでおり、カニなどの甲殻類、ウニやヒトデなどの棘皮動物、魚類、そしてアザラシやラッコなどの海獣類のコロニーとなっている。

出典:オオウキモ<wikipedia

このページより英語版のページ「Macrocystis pyrifera」に行くとギャラリーを見ることができる。そのひとつが下の写真。

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Giant Kelp floating just outside the Santa Cruz harbor.
出典:Macrocystis pyrifera<wikipedia英語版*2

上の写真は港のものなので「ケルプの森」の全体がこのようであるかは分からない。

「Kelp forest<wikipedia英語版」には以下の図が載っている。

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Global distribution of kelp.
出典:Kelp forest<wikipedia英語版*3

「ケルプの森」は北太平洋の海岸沿いに有り、アメリカ大陸の最初移住者はこれを伝って移動した、というのが「ケルプ・ハイウェー」の仮説だ。

上述のジョン・アーランドソンが所属するオレゴン大学のウェブサイトに"Kelp Highway Hypothesis"が載せられている。

またブログ『ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!』のページ「Who Discovered America? 最初のアメリカ人は誰?」で「ケルプ・ハイウェー」の仮説が紹介されている。何かのドキュメント番組のメモらしいがなんという番組かはわからなかった。

「通説ができるのには数十年かかる」

再び『銃・病原菌・鉄』より

これまで最古とされていたものが新しい学説によって否定され、じつはそれより以前であったと主張されることがある。そうした学説はこの本でも繰り返し出てくるが、それをどう受け止めるかはむずかしい問題である。ある学者によって「最古といわれたX」より古いXが孫際していたという学説が発表されると、それよりさらに古いXを見つけ、その学説を否定しようとするものがかならず現れる。[中略]これまで最古とされていたものより古いものではあるが、それが考古学上ほんとうに最古のものであると学問的に合意されるには、何十年もの研究成果の積み重ねが必要なのである。

ダイアモンド氏/p52