前回からの続き。
- 作者:ロビン・ダンバー
- 発売日: 2016/06/20
- メディア: 単行本
この本は時間収支モデルと社会脳仮説を使って人類の進化を説明しようというものだが、これら以外のキーワードとしてダンバー数というものがある。これについては2つ記事を書いた。
あと2つ、キーワードを追加しよう。それは「社会的グルーミング」と「不経済組織仮説」だ。
社会的グルーミング(社会的毛づくろい、ソーシャルグルーミング)
グルーミング(毛づくろい)は、汚れ・ノミ・寄生虫などを取るなどの衛生管理のための行動だ(グルーミング<wikipedia参照)。
グルーミングは自分で行うもの(セルフグルーミング)と他者に行なうもの(アログルーミング allogrooming 、ソーシャルグルーミング Social grooming )があるが、後者は物理的な衛生面以外の効果がある。
グルーミングを他者からされると脳内で β-エンドルフィンが分泌される。β-エンドルフィンが分泌されると多幸感をもたらす、気持ちが落ち着く、痛み・緊張・ストレスが緩和される、などの効果が起こる。
さらに互いにグルーミングをすることで信頼関係が形成され、互いの窮地の時に援助する関係が作り上げられる。また弱者が格上の強者にグルーミングを行なうことで身の保全を求めることもあるという。
類人猿では、このような行為は社会集団あるいは派閥を形成するために必要な行為とされている。
人間の場合は、社会的グルーミングは、上記のような物理的な(衛生的な)効果を求めるものではなく、もっぱら精神的なものをいう(背中を流すことや髪を梳かすなどの本来の意味のグルーミングもあることはある)。
ダンバー氏の著書には、人類の進化の中で社会的グルーミングの進化が大きな役割を果たしたことが書いてある。
この著書に直接的に書かれていないが重要な事は、性行為(交尾、セックス)によるグルーミング的効果、つまり絆を深める効果のことだ。性行為では両者にβ-エンドルフィンが放出されるので、ここで絆が深まる。これが つがいの間のペア・ボンディング pair bonding の固い絆のなるのだろう。そしてこの絆はおそらく血のつながりに匹敵する。この仕組み(性行為とβ-エンドルフィンの関係)も血縁淘汰説の一部なのだろう。
不経済組織仮説
1995年にピーター・ウィーラーとレスリー・アイエロが唱えた仮説。ホモ属の脳の増大に対するエネルギー増加分をどのように補ったのかに対するもの。
彼らは、腸と脳はエネルギー消費にかんして同程度のコストがかかると考えた。腸には神経が稠密に張りめぐらされているし、脳はニューロンがいつでも発火できるように準備を整えている。両者によれば、人類進化のある時点で、ホミニンはエネルギー割当ての一部を高コストで不経済なある組織(腸)から別の組織(脳)に再分配することで、全体として余分なコストを出さずに脳を大きくした。彼らは食べ物の質を上げ、小さくなった腸による栄養素の吸収率を改善することでこれを実現したというのだ。
出典:ダンバー氏/p144
簡単に言えば、脳の増量分のエネルギー増加は腸の縮小分のエネルギー減少で相殺されたということだ。この仮説は今でも通用するようだ。
40万年前に料理が習慣化されたため、これからさらなる脳の増大が起こっていく。
5つのキーワードでホモ属の進化を見ていく
5つのキーワードとは時間収支モデルと社会脳仮説とダンバー数、社会的グルーミング、不経済組織仮説。
次回より、これを使って主に脳の拡大を中心にして進化の過程を追っていこう。