これからユダヤ教の成立の歴史について書く。
古代イスラエルの王国の歴史については、以下の記事より連投している。
ユダヤ教成立の歴史については、以下の本を参考にして書く。
『一神教の起源』というタイトルだが、内容は「ユダヤ教の起源」すなわちユダヤ教成立の歴史だ。
ユダヤ教以前のカナンの宗教
ユダヤ教はカナンと呼ばれる地域で生まれ育った。
カナンは、聖書では「乳と蜜の流れる場所」と描写される地域。この地域は世界史において「パレスチナ」と呼ばれる地域とだいたい一緒だ。
この地域におけるユダヤ教が誕生する前の宗教はウガリット神話によって明らかにされている。
ウガリット神話の神々
ウガリット(ウガリット語: 𐎜𐎂𐎗𐎚 ugrt [ugaritu]、英: Ugarit)は、地中海東岸、現在のシリア・アラブ共和国西部の都市ラス・シャムラ(رأس شمرة、Ras Shamra、ラタキアの北数km)にあった古代都市国家。当時の国際的な港湾都市であり、西アジアと地中海世界との接点として、文化的・政治的に重要な役割を果たしたと考えられている。紀元前1450年頃から紀元前1200年頃にかけて都市国家としての全盛期を迎えた。この遺跡から見つかった重要な文化には、独自の表音文字・ウガリット文字と、ユダヤ教の聖書へとつながるカナン神話の原型ともいえるウガリット神話集がある。
ウガリットはフェニキア人が作った都市の一つ。フェニキア人は東地中海で海洋交易をしていた民族として有名(詳細は別の機会に書く)。
フェニキア人はカナン人や後のヘブライ人(イスラエル人)と同じセム語系の言語を話し、文化的にも宗教的にも同系の民族だ。フェニキア人とカナン人を分けたものはカルメル山のそれぞれ北にいるか南にいるかに過ぎない *1。
カナン・フェニキアの宗教は典型的な多神教で、神々の父であるエルを頂点に複雑な万神殿(パンテオン)があったが、特に民衆の間で人気があり、宗教生活で重要な役割を果たしたのが、嵐の神で豊穣のもたらし手と信じられていたバアルである。
「万神殿(パンテオン)」とは体系化された神々のことをいう。ギリシャ神話のゼウスを頂点とする神々の体系を思い起こせばいいだろう(ローマ神話ではディー・コンセンテス)。
なぜ最高神エルよりバアルの方が人気があったのかという話については以下の文章が説明してくれている。
「最高神」「すべての神々の祖」は、多くの場合太陽神であったり、天の概念化であったりします。
この太陽や天は、誰もが「そりゃいと高き存在だろう」と納得できるものですが、ただそこに存在するだけで、あまり活発に活動するものではありません。
なのでしばらくすると、実質的な権威は天候神や豊穣神に移ってしまうのです。[中略]
メソポタミアにおいても、天神アヌ(アン)が最初は神々の王でしたが、実質的な主役は[風・嵐の神]エンリルとなっています。
こうした例は枚挙に暇がありません。
ウガリット神話ではエルが隠居して最終的にバアルが最高神になる。