リディア(リュディア)は4王国分立時代の大国の一つ。
この国は硬貨(コイン)を製造・流通させた最初の国として有名(その他のことについてはほどんど言及されない)。
リディアは、前回のメディア王国と同じく、歴史的証拠(同時代の文字史料と考古学的遺物)が乏しく(リディア自身の史料も無い)、現代のリディア史は後世の古代ギリシャ人が書き遺した歴史に頼っている。だから信憑性が落ちる。
リディアの歴史
小アジア(現在のトルコ領)西部の古代地方名。カイストロス川の谷間に位置し、北はミシア、東はフリギア、南はカーリアなどの地方に接していた。西にはキュメ、スミルナ、エフェソスなどのギリシア植民都市があった。ギリシア文化の影響を受けた土着系メルムナダイ朝が、ここにサルディスを首都とする王国を築いた(前700ころ~前550)。海岸と内陸部を結ぶ交通の要衝にあったこの王国は、交易と豊富な資源(金、農産物)によって繁栄し、その最後の王クロイソスのときはアナトリア中央部をも勢力下に置いたが、アケメネス朝ペルシア王キロスに敗れた(前546)。[中略]
リディアの文明は土着のものとギリシア系のものが混合している。そこでは史上初の貨幣(金銀合金製)が前7世紀に発明され、それがギリシアとペルシア帝国に採用された。また、リディア旋法とよばれる歌謡の節回しがギリシアに伝わった。リディア人の土着言語はローマ時代にも用いられていたが、アナトリアに入った古いインド・ヨーロッパ語の形を残していたと思われる。[小川英雄]
ヘロドトス『歴史』の冒頭でリディアについて詳しく書かれてはいるが、その内容は神話的なものが多い。ヘロドトスによればリディア地方には歴代の複数の王朝が興ったとしているが、実在に確定している最初の王はアッシリアの史料に記録されているメルムナス朝の初代ギュゲスだ。記録によれば彼はアッシュルバニパルと同時代の王であり、アッシリアに服属していたが貢納を拒否し、そして攻め込まれて再び服属した。メルムナス朝はリディア最後の王朝だ。
前回メディアとリディアが激突した後に境界を確定した話を書いたが、それはこの王朝の4代目アリュアッテスの治世。
そして5代目(そして最後の王)クロイソスが、リディア王で一番有名な王だ。
クロイソスの治世でリディアは最盛期を迎えるが、メディア王国を滅ぼしたアケメネス朝のキュロス2世に滅ぼされた(前547年)。
リディアの富と繁栄は同時代と後世の古代ギリシャ人にとって強い印象を残すほどのものだったようで、ヘロドトスが『歴史』においてリディアは詳しく言及されている。
ヘロドトスによれば、クロイソスはデルファイ(デルポイ、デルフォイ。古代ギリシャの最古の聖域)に奉納したとか知識人に会ったとされているが、本当かどうかはわからない。
世界最古の硬貨(貨幣システム)
リディアの政治史より数段大事なこととされるのが「世界最古の硬貨」の話。
その前に硬貨の重要性の話。硬貨の誕生は「お金(貨幣システム)」の誕生と言っていいだろう。
「お金の機能」については 《お金の機能とは? | G.金融経済を学ぶ | 一般社団法人 全国銀行協会》 を参照。
お金のシステムが無い地域では、金や銀などの希少性のある物質を量って取引をするのだが、硬貨は秤を使用せずに数だけ数えるだけで取引できるようになる。
ここで硬貨の価値は誰が保証するのかという話になるが、それは貨幣を製造した国ということになる。国に信用が有ってはじめてこのシステムが機能することに留意が必要だ。
さて、世界最古の硬貨とされるのは金貨ではなく金と銀の合金のエレクトロン貨。「エレクトロン(エレクトラム)」の語源はギリシャ語の「琥珀」に由来する。この合金の色合いが琥珀に似ているためにそのように名付けられた。
ちなみに「エレクトロン=電子」は琥珀を摩擦すると静電気が起こることに由来する。
リディアに流れる川から採れる砂金は金と銀の天然合金だった。最初の硬貨はこの砂金を溶かした塊に上記のようなライオンの頭の図像を打刻したものだった(鋳造、すなわち鋳型に流し込んで作ったものではない)。ただし遺跡から見つかった硬貨を調べると、自然合金よりも銀の含有量が多いことが分かっている。
そしてクロイソスの治世には金貨と銀貨が製造され流通した。こっちは鋳造だ。 *1
リディアが滅亡すると同国で発明された「貨幣システム」は、オリエント世界を統一したアケメネス朝ペルシア帝国と古代ギリシアに伝播して採用された。