著者について
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【書評】内藤陽介『世界はいつでも不安定 - 国際ニュースの正しい読み方』 - 歴史の世界を綴る
を参照。
目次
序 章 ジャーナリストも嵌ったドミニオン陰謀論
第一章 大統領選挙、負けても勝ったとQアノン
第二章 君にもなれるQアノン
第三章 Qアノン前史---保守系ネットメディアの曙
第四章 ピザゲート事件---子供たちを救出……のはずが
第五章 陰謀論は止まらない
第六章 目覚めよ、さらば救われん---Qアノンのカルト宗教化とその背景
*1
評
この本は『みんな大好き陰謀論』の続編だが、近著の『世界はいつでも不安定 - 国際ニュースの正しい読み方』とも関連性があり、合わせて読むとこの本の理解が深まる。
『世界はいつでも不安定』の第1章《【アメリカを読む】南北問題で知る、米大統領選と左翼運動》では、左翼運動の紹介と、ポリコレなどの行き過ぎがトランプ大統領を誕生させたことを書いている。本書はトランプ大統領誕生の流れに沿った右翼運動(?)について書かれている(Qアノンを右翼と呼ぶのは間違っているかもしれないが)。
Qアノンの考え自体は大したことはなく支持者たちも烏合の衆なのだが、彼らの支持するトランプ大統領が彼らを擁護したことによって政治的に意味のある集団になってしまった。トランプ大統領はある意味、彼らにお墨付きを与えたと言えるだろう。 *2
そしてこの本の重要な部分は、Qアノンがどういうもので如何に間違えているかではなく、Qアノンやその支持者がどうして生まれ育ち暴発したのかにある。土壌となったアメリカ社会や事情にある。
キーパーソンとしては、スティーブ・バノンが出てくる(第3章)。彼は一言で言えばアンチ・エスタブリッシュメントだ。彼のような反エリート層の人たちが、エスタブリッシュメントに対するルサンチマン(妬み、恨み)を「ディープステート」陰謀論を作り上げていったのだが、バノンは彼らが喜びそうなフェイクニュースを与えることによって有名になった。
キーワードとしては、アンチ・エスタブリッシュメントの他にも幾つかあるが、オルタ・ライト(またはオルタナ・ライト。アメリカ版ネトウヨ)(第3章)や「目覚めよ」(キリスト教関連)(第5章)がある。これらの説明をしだすと長くなるので省略。
アメリカ社会や事情が分かれば、Qアノンの人気が無くなったとしても、同様のものが再び現れることが理解できる。アメリカを熟知している人たちにとってはQアノンを見て「また変なのが現れた」と言ってるかもしれない。
ちなみに日本で大統領選挙後にトランプ勝利を信じて疑わなかった連中(通称Jアノン)はQアノン信者とは別の思考である。この本でのキーパーソンは馬渕睦夫元駐ウクライナ兼モルドバ大使だ。これは日本の事情だ。表面的には同じに見えるが根っこの部分が違うことをこの本は指摘している。
*1: 誰もが知りたいQアノンの正体 - 株式会社ビジネス社
*2:さらにコロナ禍によってQアノン勢力は拡大した