歴史の世界

3つのイメージ/ネオリアリズム

「3つのイメージ」はケネス・ウォルツ氏が考え出した国際政治の分析方法(1959年『人間・国家・戦争ー国際政治の3つのイメージ』)。

浅いことしか書けないが、備忘録として。

3つのイメージ

f:id:rekisi2100:20210225040748p:plain:w300

国際政治を分析する時に、3つの分析方法に区分する。
【例】として、現在進行している米中冷戦を付け加える。

  1. ファーストイメージ:外交・安全保障を決定する個人、つまり大統領や首相に焦点を当てる。
    【例】バイデンと習近平

  2. セカンド・イメージ:国内事情、国内の組織に焦点を当てる。ただし国際政治を動かす国家とは大国だけだ(中小国は対象外)。
    【例】アメリカなら、民主党共和党の対立や、対中強硬路線の議会(両党とも)など。中国も習近平の権力集中が強まっているものの、内部で抗争があるようだ。

  3. サードイメージ:環境とはすなわち国際情勢のことなのだが、「3つのイメージ」を考案したケネス・ウォルツ氏によれば、目まぐるしく変わる短期的な情勢ではなく、国際政治を動かす法則に照らし合わせて、現在を分析し将来を予測する。
    よって国際政治を動かす法則を知らなければならないのだが、その法則とはネオリアリズムという考え方になる。
    ウォルツ氏自身は国際政治はサード・イメージで動いていると主張する。

とにかく、国際政治を動かす起因は3つの要因の中の一つあるいは複数が絡み合った形で現れる。これが3つのイメージの考えだ。

ネオリアリズム

リアリズムについては以前に当ブログで書いた。ネオリアリズムはこれと別個のものではなく、リアリズムの一部だ。

ネオリアリズム(ネオリアリスト)という一派はケネス・ウォルツ氏から始まった。それまでの古典的リアリズムは「人間の権力欲から権力闘争を行う」と考えていたが、ウォルツ氏はこのような考えに国際システムという法則性を加えた。

ただし、ウォルツ氏は国際政治を個々の国家の総体と見るのではなく、それぞれの国家の差異を些末なことと切り捨てて同質のものとして考える。例えば、アメリカと中国の性質は普通に考えれば全く異質なのだが、ウォルツ氏の味方はこの差異を捨象する(法則を単純化(モデル化)するため)。

ネオリアリズムの国際システム(国際政治の法則)とは、

  • 国際政治は無政府状態アナーキー)だ(各国を法的に支配する「世界政府」は存在しない)。
  • 国家(大国)は国益のために、または国家間の相互不信のために、争いをやめることができない。「平和」とは休戦状態または小康状態のことである(勢力均衡状態=バランス・オブ・パワー)。
  • 国際政治は、国際システムという法則によってほぼ決まる(これを抜きにして、個人や国家の意思だけで決まることはほぼ無い)。
  • 国際システムはバランス・オブ・パワーで説明される。

バランス・オブ・パワーについては後述するとして、要するに、ウォルツ氏を含むネオリアリスト一派は国際システムを物理法則と同じように考え、国家(大国)は物理法則によって動かされる物体と同質だという考えだ。そして物体の中身については考慮しない。社会現象のモデル化。

ここで注意点を一つ。大国とは基本的に核兵器を保持する国のことを指す。核兵器を持つことは国際政治を動かす意思の表明ということになる。つまり北朝鮮はその意思を持ち、日本は持たない。

バランス・オブ・パワー

バランス・オブ・パワーについては以前に書いた(リンク)。この記事か以下の奥山真司氏のブログ記事を参照のこと。

簡単に言えば、一つは大国間の軍事的均衡、もう一つは覇権国家が第二位の大国(挑戦者)を攻撃するというもの。

前者はイメージしやすい。お互いに国益を主張したり足を引っ張ったり牽制しあって均衡が保たれる。

後者は、今現在のアメリカと中国のことだ。覇権国家アメリカが挑戦者中国を攻撃している。ただし、攻撃すると言っても武力衝突すると、時刻の損害が大きいので、第三位以下の国と同盟を組んで外交その他で、挑戦者の勢力を縮小させようとする。挑戦者もやられっぱなしというわけにはいかないので、こちらも諸国と同盟するなどして防御・反撃する。こうして均衡が保たれる。

このようなわけで、ネオリアリズムにおいては、冷戦でも均衡を保たれていれば、「平和」と言える。

米中衝突は国際システムの法則の中にある

最後に米中冷戦の話。

バイデン大統領は親中派だと言われてきたが、上述のバランス・おブ・パワーの法則により、米中の衝突は既定路線であり、バイデンが親中派であってもその流れを止めることはできないよ、という話。さらにバイデン大統領自身に政治力はなく(ファースト・イメージ)、議会は圧倒的に対中強硬路線(セカンド・イメージ)という状況で、冷戦が加速する要素はあれど、減速する要素がない。