「地政学とは何か」を考える。
地政学とは何か
地政学というのは簡単に言うと、ある国が他国/他地域を支配するためのツールの一つである。
「ある国」というのは主にアメリカやロシア・中国のような世界覇権を争う大国のことで、彼らは世界地図を見ながら地政学を使って他地域を支配する戦略・政策を立てている。つまり地政学は戦略・政策を考えるためのツールと言うこともできる。その一方で、戦略・政策を語り合うための共通知識であり、素人(政治家を含む)を説得させるためのツールにもなっている。
さて、では「他国他地域を支配するためのツール」が一体どのようなものなのか?このブログではマクロ的な部分とそうではない部分に分けて説明したい。
(別の記事で、以下の説明よりももう少し詳しい説明をする予定)
マクロ的な地政学
現代地政学の開祖と言われるハルフォード・マッキンダー(1861-1947、イギリス)は、「人類の歴史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史である」とする。
- 「pivot area」≒ランドパワー
- 「 Inner or marginal crescent」+「Lands of outer or insular crescent」≒シーパワー
ランドパワーとは、ユーラシア大陸の内陸の国々。代表例はロシア・中国。利益(資源・交通など)を内陸に求める。陸軍が強い。
シーパワーとは、ユーラシア大陸の周辺部あるいはその周りの島々の国々。つまり海洋に面した国々。代表例はアメリカ・イギリス・日本。利益を海洋に求める。海軍が強い。
地政学では、アメリカ大陸やオーストラリア大陸は「島」で、ヨーロッパ大陸は「半島」として扱われる。だから米・豪・西欧はシーパワーとなる。ただし、フランスやドイツはランドパワーとして扱われることがある(ナポレオン・フランスやナチス・ドイツなど)。(以上、奥山真司『サクッとわかるビジネス教養 地政学』p22-23参照) シーパワーとランドパワーは特性(習性)が異なる。
平間洋一氏によれば、
シーパワーは、広い海洋を活動フィールドとして持ち、豊富な海洋資源を有し、さらに自由が利く交易が可能となり、小規模な組織体でも独立が可能で、他国とも比較的平等な国際関係を築くことができる。国家体制も比較的平等なものとなる(民主主義が発達する素地がある)。
一方、ランドパワーは、資源が(場所的にも量的にも)限定的で、周りは隣接国に囲まれているため、交易の自由度が低く、領土紛争が絶えない。領土紛争を無くすためには、主従関係をはっきりとするか併合してしまうかの二択になるため、国際関係は平等とは程遠いものになる。国家体制も専制的なものとなる。(以上、地政学と歴史から見た北東アジアの安全保障 参照)
上記の説明だとシーパワーの方が良いことばかりだとなる。事実、シーパワーの国々のほうが生活環境が良くて人口も多いのだが、シーパワー国家は小規模なので大国のランドパワー国家の圧力に弱いという欠点がある。
最後に、もう一つ重要な点。「ランドパワーとシーパワーは両立できない」。
上述の通り両者は特性が異なるため、両方の性格を持つことは基本的にはできない。ただし、もっと簡単な理由を言えば、両立させようとすれば資源を二分しなければならず、結果的に弱いパワーを2つ持つだけになってしまうからだ。
非マクロ的な地政学
マクロ的な見方以外で、重要なのは「地理」。地政学(地理政治学)は地理を土台として戦略を考えるツールなのだから、当然のことながら地理は重要なものだ。
私たちが高校の地理の授業では地形・場所以外に農産物・鉱物・主な生業・宗教・国家体制など様々な国/地域の基本情報を習うが、地政学でもこれらは基本情報となる。
一方、奥山真司氏によれば、「地理」は単純化すれば、「天・地・人」の3つの要素で成り立っているという(『"悪の論理"で世界は動く!』p107)。
- 「地」とは現実の地理。私たちが高校で習った基本情報のこと。
- 「天」とは「人間の頭の中にある地理」つまり人間の感情や心理面、感覚という色眼鏡で見た地理のこと
*1。
- 「人」とは人が作ったもの、テクノロジーのこと。前近代にはなかった鉄道や飛行機あるいはインターネットなどの通信技術によって、人間の「地理」の見方が大きく変わることになる。
終わりに
以上に書いた説明以外にも重要な事柄はある。それらについては別の記事で書いていく。
地政学的な考え方は古代の書物にも書かれているが、これらを体系化したのは近代に入ってからだ。地政学の歴史についても、別の記事で書くつもりだ。
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“悪の論理”で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国
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*1:「感情などで歪められた地理」と言えるかもしれない