歴史の世界

中国_諸子百家

道家(17)老子(『老子』の有名な言葉  後編)

前回の続き。 上善如水 学絶てば憂い無し 足るを知る 和光同塵 柔よく剛を制す 上善如水 第8章の一部。 [書き下し文] 上善は水の如し。 水は善く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に居(お)る。 故に道に幾(ちか)し。 [現代語訳] 一体、最上…

道家(16)老子(『老子』の有名な言葉  前編)

『老子』の中には、『老子』を知らない人でも知っている言葉が幾つかある。その中の幾つかの意味をここに書留めておく。 大国を治むるは小鮮を烹るが如し 天網恢恢疎にして失わず 小国寡民 大国を治むるは小鮮を烹るが如し 第60章より。 [書き下し文]大国…

道家(15)老子(戦略書としての『老子』⑤--中国の戦略思想──西洋との違い)

この記事では、中国の戦略思想を西洋のそれと比較して、その特徴を書いていく。 「戦略」 「後発制人」 現代中国と「後発制人」 「指桑罵槐」という言葉 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: …

道家(14)老子(戦略書としての『老子』④--「無形」と「道」と世界観)

今回は《実は『老子』の中の重要な概念「無」「無為」も『孫子』の「無形」から発展したものだった》という お話。 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: 単行本 水の比喩と「無形」と「無」「…

道家(13)老子(戦略書としての『老子』③--「反」の理論)

前回の続き。 今回は「反」の理論。 「反」の理論 「反」の理論と「道」 「反」の理論と「柔弱」 「柔弱」と「勢」と「形」 「反」の理論と「無為」と「有為」 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メデ…

道家(12)老子(戦略書としての『老子』②--『孫子』の「詭道」の考えの採用)

前回からの続き。 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: 単行本 さて、中国戦略思想の歴史の流れの中で、『孫子』の後に残された課題を『老子』が受け継いで完成させた。 その課題は以下の通り…

道家(11)老子(戦略書としての『老子』①--『老子』は『孫子』の影響を受けている)

『老子』を戦略書として読むことについては、以下の本に書いてある。 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: 単行本 この本は『孫子』を戦略書として解説する本だが『老子』についても戦略書と…

道家(10)老子(「無為自然」と政治)

この記事では、『老子』に出てくる「自然」という言葉を中心にして「無為自然」とは何かを書いていく。 ソースは池田知久著「『老子』その思想を読み尽くす」の第5章 『老子』の自然思想 。 『老子』 その思想を読み尽くす (講談社学術文庫)作者:池田 知久…

道家(9)老子(「無為」について③--「無為」と政治)

(ブログのタイトルを変えました。「歴史の世界」→「歴史の世界を綴る」。) 保立道久氏によれば、「『老子』は、まずは「王と士の書」として読むべきものであろう」としている。 *1 *2 簡単に言えば、(大きな意味での)為政者たちの教訓・心得のような書と…

道家(8)老子(「無為」について②--「無為」と儒家批判)

「無為」についての2つ目の記事。 今回は儒教批判について。 『老子』が編纂された時期には世間に充分に儒教が道徳として広まっていたらしく、そのような状況で『老子』は「儒教が広まっているのに秩序が乱れ、道徳として機能していない現状」を批判してい…

道家(7)老子(「無為」について①--「無為」と「有為」の境界)

「無為自然」を理解するために、今回は「無為」について理解する。 『老子』のいうところの「無為(または無為自然)」は何もしないということではなく、「あるがままに生きる」と解されることが多いらしい *1。 『老子』を自己啓発書として読むだけなら上の…

道家(6)老子( 『老子』は「無」を重要視する)

最終目的は「無為自然」が何なのかを書くことだが、段階を追って書いていく。 この記事では「無」について。 『老子』の「無」への言及 「無用の用」は『荘子』の思想 再び『老子』の中の「無」へ 『老子』の「無」への言及 三十本の輻(や)を轂(こしき)…

道家(5)老子(『老子』=『道徳経』における「徳」とは何か)

前回と対になる記事。 前回は「道」について書いたので、今回は「徳」について。 「徳」について 「徳」の重要性 「徳」について 儒学でいう「道徳」の中心は「道」であるそこでは「道」が「為すべきこと」であって、「徳」はそれを担う品性という二次的な意…

道家(4)老子(「道」とはなにか)

以前にも書いたが、『老子』は『道徳経』とも呼ばれる。この「道徳」は倫理的な意味のそれではなく、以下の理由により名付けられた。 『老子道徳経』は5千数百字(伝本によって若干の違いがある)からなる。全体は上下2篇に分かれ、上篇(道経)は「道の道と…

道家(3)老子(構成/時代背景/内容について)

『老子』の構成 時代背景 内容について キーワード 『老子』の構成 『老子』は『道徳経』あるいは『老子道徳経』とも呼ばれる。 『老子道徳経』は5千数百字(伝本によって若干の違いがある)からなる。全体は上下2篇に分かれ、上篇(道経)は「道の道とすべ…

道家(2)老子(著者と成立時期)

著書の『老子』は本来は『道徳経』と呼ばれるものだが、ここでは一般に通じている『老子』で一貫する。 なお、このブログでは書物の老子は二重括弧で、人物の老子は括弧なしで表記する。 成立時期 著者について 成立時期 『老子』(=『道徳経』)は春秋時代…

道家(1)道家について

今回は道家について。 道家について 道家の形成 特徴・特色 道家について 道家は諸子百家の一派でその代表は老子と荘子。その思想は老荘思想とも言われる。他には列子も道家に含まれるらしい。 『論語』学而篇や『荀子』勧学篇は、学問の重要性を説く。それ…

兵家(13)呉子

『呉子』の著者について 呉起について 『孫子』との比較 内容 日本における『孫子』と『呉子』の評価 『呉子』の著者について 『呉子』 中国の兵法書武経(ぶけい)七書の一つ。呉起の著作といわれてきたが、門下の作か、後人の手になる偽書か、諸説あって定ま…

兵家(12)孫子(まとめ)

この記事で『孫子』は最後。まとめる。 著者は呉の将軍、孫武 『孫子』が著された背景 『孫子』の内容 孫臏兵法 まず、『孫臏(そんびん)兵法』と『孫子』の関係から。 『孫臏兵法』 著者は呉の将軍、孫武 古代より『孫子』の著者が誰であるか議論されてき…

兵家(11)孫子(君主は開戦について慎重にすべし、戦略的成功を常に心がけるべき)

諸子百家 (図解雑学)作者:浅野 裕一出版社/メーカー: ナツメ社発売日: 2007/04/24メディア: 単行本(ソフトカバー) 開戦には慎重を期すべし 君主は戦略的成功を常に心がけるべき 開戦には慎重を期すべし 浅野裕一氏が『孫子』の特色を簡単に書いていたが、…

兵家(10)孫子(戦略書としての『孫子』 後篇/全3篇 --道(タオ)--)

今回は道(タオ)の話。 今回もデレク・ユアン『真説 孫子』(中央公論新社/2016(原著は2014年出版))で語られるものを素人の勝手解釈で書いていく。 ユアン氏の語る『孫子』は著者である孫子(孫武)の考えを発展させたものであり、孫武が語っていないこ…

兵家(9)孫子(戦略書としての『孫子』 中篇/全3篇 --陰陽--)

今回は陰陽について書く。 真説 - 孫子 (単行本)作者:デレク・ユアン出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2018/02/07メディア: 単行本 陰陽の原義と意味の拡大 中国の戦略思想における「陰陽」 陰陽から道(タオ)へ 陰陽の原義と意味の拡大 陰陽【いんよ…

兵家(8)孫子(戦略書としての『孫子』 前篇/全3篇)

今回は戦略書としての『孫子』について書く。 戦略書としての『孫子』 戦略と戦術の違い 『孫子』の全13篇と戦略と戦術 前編のまとめ 戦略書としての『孫子』 『孫子』は今でも戦略書として研究されているらしい。デレク・ユアン『真説 孫子』 *1 によれば、…

兵家(7)孫子(『孫子』と中国人社会の関係)

ここでは、『孫子』の地域的背景すなわち『孫子』と中国人社会の関係について書く。 中国人社会については、当ブログで「中国人論・中国論」というカテゴリーがあるので参考になるかもしれない。 相手(敵)を如何に貶めるか 彼を知り己れを知れば、百戦危う…

兵家(6)孫子(他者・他書との比較 -- 対マキャベリ『君主論』篇)

記事タイトルどおり、他者(他書)との比較について書く。 今回はマキャベリ『君主論』。 ソース 「信玄→『孫子』」、「信長→『君主論』」 両書の比較 信玄 vs 信長 『君主論』と比較して浮かび上がる「孫子の盲点」 ソース 『孫子』を『君主論』と比較しよ…

兵家(5)孫子(他者・他書との比較 -- 対クラウゼヴィッツ『戦争論』篇)

記事タイトルどおり、他者(他書)との比較について書く。 他と比べて、『孫子』がどのようなものなのか、イメージだけでも分かればいいかと思って書いてみた。 戦争論〈上〉 (中公文庫)作者:カール・フォン クラウゼヴィッツ出版社/メーカー: 中央公論新社…

兵家(4)孫子(春秋時代末期から戦国時代の戦争へ)

まだ時代背景は続く。 しかし今回はいよいよ『孫子』の著者の孫武の登場。 春秋末期。孫武の戦争 戦国時代の戦争 おまけ:あぶみの話 春秋末期。孫武の戦争 春秋末期。中原の社会秩序は凝り固まったまま崩れていく過程にあった。 この時代に、孔子は新しい秩…

兵家(3)孫子(春秋時代後期の戦争)

今回も時代背景の話。 戦争そのものの変化 「将軍」職の発生 戦争そのものの変化 新しい戦い方は、春秋時代後半に次第に広まってきた。ただしその原因や結果は、戦争の規模が拡大したことにあるのかは明確には言えない。いずれにせよ、当時の国々が行った改…

兵家(2)孫子(春秋時代前期の戦争)

この記事では孫武が生きた時代が戦争の活気であったことを示すために春秋戦国時代の戦争の移り変わりを書いていこうと思う。 戦闘について ルールについて 「宋襄の仁」 戦闘について 今から2500年以上前、中国春秋時代の戦争は、互いをはるかに見通すことの…

兵家(1)孫子(『孫子』は誰が書いたか)

これから『孫子』に入る。まずは著者と著作について。 兵法書『孫子』は誰が書いたか かつて著者について論争があった 現代に伝わる『孫子』までの変遷 兵法書『孫子』は誰が書いたか 『孫子』の「子」は先生というくらいの意味で、『孫子』の著者は孫氏であ…