歴史の世界

人類の進化:アウストラロピテクス各種(後編 「頑丈型」グループまたはパラントロプス属)

(注:アウストラロピテクス(Australopithecus)を「A.」、パラントロプス (Paranthropus) を「P.」と略す場合がある。)

アウストラロピテクス属は2つに分けられる。前回の「華奢型」グループとは別に「頑丈型」グループがある。

頑丈型アウストラロピテクス(=パラントロプス属)については、前回少し触れたが、あらためて「頑丈型アウストラロピテクス」について書き、その後にこのグループに属する種を紹介しよう。

以下の各種の生息年代はダニエル・E・リーバーマン著『人体 600万年史』(早川書房/2015(原著は2013年出版)/P84)のデータを採用している。

頑丈型アウストラロピテクス(=パラントロプス属)とは?

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出典:第263回 特別講演会 人類の起源 河合信和先生(2007.11.25)邪馬台国の会

アウストラロピテクス属の最古の種はA.アナメンシスで生息年代は420~390万年前だ。頑丈型アウストラロピテクスの最古のものはA.エチオピクスで270~230万年前。

前回も書いたが「頑丈型」は派生的なグループで、「華奢型」の方が本流というべきものだが、区別するために「華奢型」と呼ばれている。つまりは「華奢型」=「非頑丈型」という意味だ。

ホモ属は「華奢型」より進化し、「頑丈型」は後継を遺さず絶滅した。

「頑丈型」とパラントロプス属の名称

「頑丈型」の中で最初に発見されたのは、A.ロブストスだが、1938年にロバート・ブルーム(Robert Broom)によって新しくパラントロプス属が設けられ、この種をパラントロプス・ロブストスと命名して発表した。*1

しかしその後、どうやら属名を新たに設ける風潮が起きたために、学界の中で再分類して属名を整理・処分する動きが起こった。その中でパラントロプス属もアウストラロピテクス属に編入することになった。*2

しかし上のような動きに反発または無視する勢力もあり、パラントロプス属を使い続けている*3。一方で、従来の(華奢型の)アウストラロピテクスとの混乱を避けるために、論争とは関係なく、単に通称として使用することが多くなっている*4

特徴

「頑丈型」の特徴は、頭部に表れている。それ以外の胴部および四肢は「華奢型」とほぼ共通している。脳容量は「華奢型」と同じか少し大きい程度(400-550cc)。

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Replica of the skull sometimes known as "Nutcracker Man", found by Mary Leakey.

出典:Paranthropus<wikipedia英語版*5

  • 上の写真の「ナックルクラッカーマン」はP.ボイセイの頭蓋骨の化石のレプリカ。

上の写真のように臼歯と顎が非常に発達しており、「華奢型」に比べて噛む力が極めて強いことを表している。また噛む力の強さから側頭部(頬骨・コメカミ)が盛り上がり、さらに、これも噛む力のせいだが、頭頂部には鶏冠のような隆起ができている(これを矢状稜-しじょうりょう-という)。このような特徴からゴリラと比較されることがある。この顎を中心とした頑丈なイメージが「頑丈型」という名称につながった。

「ナックルクラッカーマン」という通称がつけられるように「頑丈型」もナッツのような硬い植物を好んで食べていたように思われがちだが、実際は「C4植物」(高温・乾燥に強い熱帯性の植物)の地下貯蔵器官(根や塊茎)を大量に食べていた。C4植物は果実に比べ栄養価が低いため、大量に食べなければならなかった。「頑丈型」は長時間の咀嚼の耐性と効率化に適応した頭蓋骨を持っていた、ということになる*6 *7。ただし、C4植物のみ食べていたというわけでもなく、果実その他も食べていた。ちなみに、ゴリラも似たような食性らしい*8

「頑丈型」がC4植物を食べることに適応しなければならなかった原因は、気候変動にある。300万年前に地球寒冷化が始まってアフリカは乾燥し、熱帯雨林が縮小した。人類が誕生した700万年前にはすでに乾燥化・熱帯雨林の減少は始まっていたが、300万年前はさらに加速度を増して減少したらしい*9。果樹の減少の中で生き残るために「頑丈型」は草・雑穀を食べるように適応していった。

アウストラロピテクス・エチオピテクス (Australopithecus aethiopicus)

生息年代

270~230万年前

推測の材料

頭蓋骨

特徴

  • 上述の「頑丈型」の特徴を持つ。

  • 下顎が突出している。

  • A.アファレンシスと類似しているとされる(下顎の突出など「頑丈型」以外の頭蓋骨の特徴がにているらしい)。この特徴からA.エチオピクスはA.アファレンシスから進化したと考えられている。

  • 脳容量は410cc。

発見・公表

  • 1967年に、Camille Arambourg と Yves Coppens により、エチオピア南部で下顎の一部と歯の断片が発見された(標本番号:Omo 18)。発見当初は標本の小ささから新種とは判断されなかった。

  • 1985年に、Alan WalkerとRichard Leakeyにより、ケニアの西トゥルカナで頭蓋骨が発見された(標本番号:KNM-WT 17000)。この標本は当初P.ロブストスのものとはんだんされたが、より多くのA.アファレンシスとの類似点を持っているため、新種であるとされた。

その他

P.ロブストスとP.ボイセイの祖先だという説があるが、反論もあり、確定していない。

参考文献

  • Paranthropus aethiopicus<wikipedia英語版
  • KNM-WT 17000<What does it mean to be human?--Smithonian National Museum of Natural History

アウストラロピテクス・ボイセイ(Australopithecus boisei)

生息年代

230~130万年前

推測の材料

頭蓋骨

特徴

  • 3種の中で「頑丈型」の特徴が最も顕著である。具体的には臼歯が現生人類の2倍の大きさで、頬骨の出っ張りも後述のA.ロブストスよりも際立っている。

  • 脳容量が510-550ccでA.エチオピクスより大きい。

  • 性差が大きい。

発見・公表

  • 1959年、メアリー・リーキーにより、タンザニアのオルドヴァイ渓谷で頭蓋骨が発見された(標本番号:OH 5、通称:Nutcracker Man-くるみ割り人間-)。

  • 1969年、リチャード・リーキーとH. Mutuaにより、ケニアのKoobi Foraで女性の頭蓋骨が発見された(標本番号:KNM ER 406)

他にも頭蓋骨や下顎が発見されている。

その他

  • KNM ER 406と同じ年代の層にホモ・エレクトスの化石が発見された。この2つの種は同時代に生きていたことが証明された。

  • 上述のように、従来は硬い植物(ナッツ類や塊茎など)を主食していたとされてきたが、C4植物を主食としていたという説も出ている。

参考文献

アウストラロピテクス・ロブストス(Australopithecus robustus)

生息年代

200~150万年前

推測の材料

頭蓋骨

特徴

  • 性差あり。

  • 脳容量は450-530cc。

発見・公表

  • 1938年、ロバート・ブルームにより南アフリカ共和国の中西部にあるスワートクランズで頭蓋骨のおよそ左半分が発見された(採掘工が1936年に発見したものをブルームが買った、という方が本当かもしれない)(標本番号:SK 46)。同年ブルームにより発表した。これが「頑丈型」の化石の最初の発見であり、ブルームによりパラントロプス属という属が新たに設けられた。

  • 1950年、採掘工によりスワートクランズの洞窟で頭蓋骨の一部が発見された。1952年にブルームにより発表された。

他の化石もあるらしい。

その他

  • A.ボイセイよりも下顎・頬骨が発達していないのは、A.ボイセイと比べれば多様な食料資源が有ったかもしれない。A.ロブストスは主に南アフリカに生息していたが、おそらく比較的果実が多く手に入ったのだろう。またA.ロブストスは骨器を使いまわしてタンパク源であるシロアリを食べていたと推測されている。

  • 初期ホモ属と同時代、同所で生息していたらしい。

  • A.エチオピクスの子孫という説とA.アフリカヌスの子孫という説があり、確定していない。

参考文献



以上で紹介した化石は全部頭部の化石だが、胴部、四肢の化石はアウストラロピテクスのものと見分けがつかないらしい。


*1:Paranthropus robustus<What does it mean to be human?--Smithonian National Museum of Natural History

*2:アウストラロピテクス類(Australopithecines)< ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典<コトバンク

*3:Paranthropus#Disputed taxonomywikipedia英語版

*4:パラントロプスコトバンク

*5:著作者:Durova、ダウンロード先:https://en.wikipedia.org/wiki/Paranthropus#/media/File:Paranthropus_boisei_skull.jpg

*6:ボイセイの形態と食性との関係 <雑記帳(ブログ)2011/06/09、Diet of Paranthropus boisei in the early Pleistocene of East Africa (Cerlinga et al., 2011) 

*7:鮮新世更新世の移行期のアフリカ東部の人類の食性雑記帳(ブログ)2016/11/20、Testing Dietary Hypotheses of East African Hominines Using Buccal Dental Microwear Data(Martínez et al., 2016) 

*8:山極 寿一, バサボセ カニュニ/ゴリラは葉食者か果実食者か?/霊長類研究 Supplement/J-STAGE

*9:ダニエル・E・リーバーマン/人体 600万年史/早川書房/2015(原著は2013年出版)/P111