授業の中で
私はむかし、人類は「猿人→原人→旧人→新人」のように進化した、と教えられた。最近の中高生が実際にどのように教えられているかは分からないが、youtube に上げられている幾つかの授業を見ると、あまり変わっていないようだ。
実際の進化はこんな簡単なものではないが中高の授業で分類学上の論争を披露しても意味が無いので、便宜的に上のように教えるのは至極まっとうだと思う。これらの用語は時代区分の代わりをしているようだ。
学界では?
それでは学界ではどうなのだろう。
猿人→原人→旧人→新人という人類進化の図式は、多くの日本人にとっておなじみのものとなっているでしょうが、これは人類の単系統の発展段階を前提としています。しかし、猿人とされた人類と原人とされた人類だけではなく、旧人とされた人類と新人とされた人類も長期間共存していたことや、旧人の代表格のネアンデルタール人はわれわれ新人の祖先ではない、との見解が有力になってきたことなどから、人類の単系統の発展段階説は、もはや破綻してしまったと言ってよいでしょう。
しかし、説明しやすく便利な概念であることと、慣例もあってか、日本ではまだ猿人・原人・旧人・新人という用語がひんぱんに使われています。ただ、英語圏ではもはやこうした用語が使われることはほとんどないようで、近年の古人類学関係の論文や報道でも、私が読んだかぎりでは、こうした用語は登場していません。
出典:猿人・原人・旧人・新人という日本語訳の問題について <雑記帳(ブログ)2007/10/08
そのむかしは、ネアンデルタール人が現代人(ホモ・サピエンス)の祖先だと考えられていたが違ったので、上のような仮説は破綻したのだが、それでも用語は今でも使われ続けているようだ。
素人の私の意見としては日本の学者が「○○原人」とか「△△猿人」などと使っているのは、原人や猿人を時代区分の代わりにしているのだと思う。あとは、アウストラロピテクスのような長ったらしい言葉を書くのが面倒なのかもしれない。
教科書の中の用語と種・属の関係
歴史教科書としては以下のように区分されている。
- 猿人:基本的にはアウストラロピテクス属全般を指すが、これ以前の人類(サヘラントロプス属など)も猿人としている。
- 原人:ホモ・エレクトスとホモ・エルガステルを指すが、教科書ではジャワ原人、北京原人のみが紹介されているものしか見たことがない。
- 旧人:ネアンデルタール人を指す。
- 新人:ホモ・サピエンスを指す。クロマニヨン人が紹介されているが、クロマニヨン人は私たち現代人と変わらない。
邦訳書の中の「旧人」は"archaic humans"
上の引用のように海外でこれらの用語に相当するものは使用されていないということだが、2つの邦訳書*1で「旧人」という言葉が使われていた。検索した結果これらは、"archaic humans"の訳だった。
「archaic humans<wikipedia英語版」によれば、この言葉はホモ・ハイデルベルゲンシスとネアンデルタール人が含まれる*2。
化石を種ごとに正確に分類するのはなかなかむずかしいし、いったいいくつの種がホモ・エレクトスの末裔なのか、どの種がどの種の祖先なのかについても一致した見解はない。ともあれ重要なのは、これらの人類が基本的にホモ・エレクトスの脳の大きい変異体ということであり、人間の身体の進化について考えるなら、彼らをひとくくりにして「旧ホモ属」(俗に旧人類」)としょうするのは便利だし、理にかなってもいる。
ここでも「旧人類」つまり旧人は時代区分の代わりとして使用されている。
まとめ
原人や旧人、あるいはarchaic humansなどは、時代区分の代わりとして使用し、分類学上の論争の影響を避けるためにわざと曖昧な用語になっていると理解できるだろう。