歴史の世界

人類の進化:初期の人類たち/進化のストーリー

初期の人類と言えば、大半の人はアウストラロピテクスを思い浮かべると思うが、今回はアウストラロピテクスより前の4種の人類について書く。

この4種の人類はアウストラロピテクスと比べても、より原始的でサルの特徴をより多く残している。

アウストラロピテクスが草原またはサバンナでの生活に適応しているのに比べ、4種の人類は草原またはサバンナには進出せず、樹上と地上の両方を往来して生活していたと考えられている。

4種の人類を紹介

4種の人類の化石はサンプルが少なく、人類であることを否定・疑問視する学者が少なくないらしい。

火や道具の使用などの状況証拠も発見されていないため、この人類を推測する材料はもっぱら少量の骨のサンプルのみとなる。ここで分かるのは(または推測可能なのは)解剖学的特徴のみとなる。

人類であることの特徴として、直立二足歩行と歯の特徴(臼歯の拡大、犬歯の縮小、エナメル質の厚化)などが挙げられる。

では古い年代順に並べていく。

  • サヘラントロプス・チャデンシス
  • オロリン・ツゲネンシス
  • アルディピクス・ラミダス
  • アルディピクス・カダバ

以上の4種の人類は見ての通りサヘラントロプス属、オロリン属、アルディピクス属の3つの属に分類されるのだが、差異はあまり無いらしい。

今後、頭骨と主要四肢骨において、アルディピテクス、オロリン、サヘラントロプスの標本がそれぞれに充実し、三者を直接比較する必要があります。そうでないと、ほんとうに三つの属があったのかどうか、判断のしようがないのが現状です。

出典:ラミダスと、カダバ、オロリン、サヘラントロプスとの関係は?<Q&A<アフリカの骨 縄文の骨 遥かラミダスを望む(諏訪元・洪恒夫 編)/諏訪氏の筆

では次に各人類について少し詳しく書く。生息年代は化石の古さを表したもの(生息した期間ではない)。

サヘラントロプス・チャデンシス (Sahelanthropus tchadensis)

生息年代

700~600年前

推測の材料

頭骨のみ。

特徴

  • 頭骨の大後頭孔が下方にある(二足歩行)
  • 歯→臼歯の拡大、犬歯の縮小(雑食)
  • 脳の大きさは類人猿と変わらない。
  • 眼窩上隆起にかなりの厚みがある(メスのゴリラと見なす少数意見の論拠にもなっている)。

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「グローバル・ハウス」に展示された「トゥーマイ」復元像と発掘されたつぶれた状態から復元した頭骨
提供:フランスーチャド古人類調査隊(MPFT)

出典:700万年前の“人類最初の顔” 4月7日より、愛・地球博「グローバル・ハウス」にて世界初公開愛・地球博((財)2005年日本国際博覧会協会)

発見・公表

  • 化石:頭骨。
  • 年代:2001年に発見。2002年7月 に発表。
  • 場所:中央アフリカのチャド。トロス・メナラ遺跡。
  • 発見者:Alain Beauvilain(フランス人), and three Chadians。

種・属

サヘラントロプス属。1種のみ。

その他

化石の愛称はトゥーマイトゥーマイ猿人とも。

参考文献

オロリン・トゥゲネンシス(Orrorin tugenensis)

生息年代

610~580万年前

推測の材料

  • 大腿骨
  • 歯数本
  • 上腕骨
  • 下あごの骨の後部
  • 基節骨(手の根元から第二関節の指の骨)

計20個の骨(5体)

特徴

  • 大腿骨の臀部側に外閉鎖筋溝がある*1(二足歩行)
  • 大腿骨頸部の緻密質の厚さが、上方が薄く下方が厚い*2(二足歩行)
  • 歯→臼歯の拡大、犬歯の縮小、エナメル質が熱い(雑食)
  • 上腕骨が薄い(頑丈でないため、木登りはできたがチンパンジーのように腕渡りができない)
  • 頭骨が無いので脳の大きさはわからない。
  • アルディ (アルディピテクス)<wikipedia

発見・公表

  • 年代:2000年に発見・公表。2004年に二足歩行の特徴を示す報告を公表。
  • 場所:ケニアのトゥゲンヒルズ (Tugen Hills)。
  • 発見者:フランス国立自然史博物館のBrigitte Senut と Martin Pickford。

上の発見とは別の発見もあり、計5体20個の骨がある。

種・属

オリオン属。1種のみ。

その他

愛称はミレニアム・アンセスター。

参考文献

アルディピクス・カダバ

生息年代

580~520万年前

推測の材料

顎骨片、犬歯ほか。

特徴

  • 後述のラミダスとほぼ同じ。
  • ラミダスとの違いは犬歯が より原始的なところ。

発見・公表

上以外に犬歯などの追加発見がある。

種・属

アルディピクス属。同属には別の種にアルディピクス・ラミダスがいる。

2001年の研究結果公表時には、以前に発見・発表されていたラミダスと大差がなかったことと化石の古さを考慮し、ラミダスの亜種と認定されていた。そして名前はアルディピテクス・ラミドゥス・カダバとされていた。

しかしその後、新たに犬歯その他が発見され、その研究の結果、カダバはラミダスと別個の種だと修正された。そしてアルディピクス・カダバと改名された。

その他

化石の俗称はカダバ猿人。

参考文献

アルディピクス属<wikipedia

アルディピクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)

生息年代

約440万年前

推測の材料

全身。

特徴

  • 頭骨の大後頭孔が下方にある(二足歩行)。
  • 歯→臼歯の拡大、犬歯の縮小(雑食)。
  • アルディの歯の磨耗の度合いなどから、アウストラロピテクス属に比べ、磨耗を促進する砂まじりなどの食物をあまり摂取していなかっただろうとも推測されている。
  • 手にはナックルウォークの形跡が無い(二足歩行)。
  • 足の親指は他の指と対向的についており、物をつかむことができる。
  • 土踏まずが無い。
  • 体格の性差が小さい。
  • 全体の骨格は二足歩行に適応してはいるが、のちのホミニン(ヒト亜科、人類)に比べれば原始的で、長距離の歩行や走行はできなかったであろう。
  • 脳大きさは類人猿と変わらない。

Ardipithecus ramidus, artistic reconstruction.jpg
By Source, Fair use, Link

出典:Ardi<wikipedia英語版

アルディピクス・ラミダスは、おそらく熱帯雨林とサバンナの間の熱帯季節林帯*3で樹上と地上を往来して生活していた。樹上・地上の両方の行動に適応していたが、どちらかに特化した類人猿やホミニンと比べると中途半端、どっちつかずの感がある。

初期の人類たちはラミダスと同じような生活をしていたが、彼らは熱帯季節林帯に適応したという特殊な霊長類といえるかもしれない。

発見・公表

  • 化石:全身(アルディと名づけられた個体1体のみ)。歯については少なくとも35個体分が出土している。
  • 年代:1992~1994年に発見。1994年に公表。2009年に研究成果を公表。
  • 場所:エチオピアのアワッシュ川中流域。
  • 発見者:諏訪元ほか東京大学、カリフォルニア大学およびエチオピアのリフトバレー研究所からなる国際チーム。

種・属

アルディピクス属。同属には別の種にアルディピテクス・カダバがいる。

その他

化石の愛称はアルディ。ラミダス猿人とも。

参考文献

  • アルディピテクス属<wikipedia
  • アルディ (アルディピテクス)<wikipedia
  • 松村秋芳/歩行の比較:初期人類と類人猿の下肢骨形態からみた直立二足歩行の進化

進化のストーリー

松村氏のPDFに進化のストーリーが書いてあったので貼りつけておく。

下の簡潔な引用文は、松村氏の直立二足歩行の研究が現在の有力な進化の説と矛盾しないことを表している。

これまでの知見から以下のような進化のストーリーが考えられる.チンパンジーと人類の共通祖先から分かれた初期人類は,樹上の二足行動に適応したあと地上で二足歩行するようになったが,樹上空間を利用することもあった.手足や骨盤にはヒトと共通する形質のほかに,類人猿と似た部分が残されていた.この中から上下方向に短い骨盤や土踏まずのある足をもち,樹上の生活から離れて地上で日常的に二足歩行する人類の系統が現われ選択された.それに続く過程で,骨格のプロポーションや筋の付着部が調整され,それらと密接に関係した歩容が完成されてきたと思われる.

出典:松村秋芳/歩行の比較:初期人類と類人猿の下肢骨形態からみた直立二足歩行の進化



*1:松村秋芳氏によれば、「この溝は,直立二足歩行で股関節を過伸展させたときに腱の圧力が大腿骨頸部表面に加わることによって形成される圧痕とされている.アウストラロピテクス・アファレンシス(320万年前)ではこの溝が観察されることが知られている.オロリン・トゥゲネンシス(600 万年前)の大腿骨でも外閉鎖筋溝が観察されたが,このような大腿骨頸部の形態的特徴は 600 万年前の猿人が直立二足歩行をしていた証拠と考えられている」とある

*2:大腿骨頸部の緻密質の厚さがチンパンジーのように均一ではなく、現代人のように上方が薄く下方が厚い

*3:湿潤熱帯に属するが,一年の間に明確な乾季をもつため,ある割合で落葉樹種を含む熱帯林-- 光合成辞典<日本光合成学会 参照