歴史の世界

人類の進化:アウストラロピテクス各種(前編 「華奢型」グループ)

(注:アウストラロピテクス(Australopithecus)を「A.」と略す場合がある。)

人類はアルディピテクス属からアウストラロピテクス属が誕生し、アウストラロピテクス属からホモ属が誕生すると考えられている。ただし、アウストラロピテクス属は多くの種を持ち、ホモ属につながる種はその中の一つに過ぎない。

420万年前頃に(今のところ)最初のアウストラロピテクス属であるA.アナメンシスが登場するが、270万年前頃から「頑丈型アウストラロピテクス」と呼ばれる数種のグループが出てきた。彼らは「パラントロプス」と呼ばれることもある。

歯や顎が頑丈だから「頑丈型」と呼ばれるのだが、このグループについては次回に書くことにしよう。

「頑丈型」以外をまとめて「華奢型アウストラロピテクス」と言う。「華奢型」とは「非頑丈型」くらいの意味だ。華奢とは言えない種も「華奢型」のグループに入れられている*1

この記事では、タイトル通り、華奢型アウストラロピテクスについて書く。このグループに属する種を紹介する(全てではない)。

f:id:rekisi2100:20171113081327p:plain

出典:第263回 特別講演会 人類の起源 河合信和先生(2007.11.25)邪馬台国の会

以下に紹介する種で、確実に人類直系の祖先だと考えられているものはない。

ただし、アファレンシス(有名な化石「ルーシー」を含む種)は、比較的直系だと考えられているようだ。そのほかは新しい同種の化石が出てこない限り分からない、もしくは論争が続く。

アウストラロピテクス・アナメンシス (A. anamensis)

生息年代

420~390万年前

推測の材料

下あご、犬歯や臼歯、大腿骨や手足の断片骨など

特徴

アルディピクス属よりも犬歯が縮小、臼歯が拡大、エナメル質が厚くなっている。前回書いたアウストラロピテクスの特徴そのもの。

後代のA.アファレンシスになると上の傾向がさらに進む。

発見・公表

  • 1965年、ハーバード大学研究チームにより、トゥルカナ湖の西、Kanapoi で上腕骨が発見された。しかし発表は1987年までほとんどされなかった。

  • 1987年、ハーバード大学のAllan Mortonらによって、トゥルカナ湖の東、Allia Bayで骨の断片が発見された。

  • 1994年、Meave Leakey と archaeologist Alan Walkerにより、Allia Bayで下あごを含む骨の断片が発見された。1995年にMeave Leakeyはこれらの骨が独立の種であると断定し、A.アナメンシスと名付けた。

  • 2006年、カルフォルニアバークレー校のTim D. Whiteによって、エチオピアのアワシュ川中流域で犬歯や臼歯,大腿骨や手足の断片骨などが発見された。同年、犬歯と臼歯の研究の結果、アルディピテクス属とA.アファレンシスの中間の進化過程にあることを発表した。

その他

  • 今のところ、アウストラロピテクス属の最古の種。

  • 発見場所の一つ、エチオピアのアワシュ川中流域は化石の宝庫として知られている。有名な「ルーシー」が属するアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人,約360万年前)や,アルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人,約450万年前)も同地域から発見された。*2

  • ラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)とアナメンシス猿人(アウストラロピテクス・アナメンシス)の歯にはかなりの違いがあり,食性の変化をうかがわせるのだが,《年代的な差は30万年ほどにすぎない。比較的短期間に大きな変化が起こったことになる》。《その過程はあくまで連続的で,系統の分岐も起こらなかったようだ。今回の発見は「人類の種分化は枝分かれを伴い,多様性を促進していく」と考える多くの理論派研究者の予想を裏切る実例にもなると発掘チームは考えている》。*3

参考文献

アウストラロピテクス・アファレンシス(A. afarensis)(アファール猿人)

生息年代

390~300万年前

推測の材料

全体骨格2体ほか。

特徴

  • A.アファレンシスの特徴の傾向が進んでいる。
  • 脳の大きさは380-430mlで類人猿とほとんど変わらない。
  • 性差が大きい。犬歯には性差は表れていない。
  • 腕が脚よりもわずかに長い。

発見・公表

  • 1973年11月、ドナルド・ジョハンソン、ティム・ホワイトらのチームによりエチオピアのアワッシュ川中流域、アファール渓谷で膝関節が発見された。この発見が翌年のルーシーの発見につながる。

  • 1974年11月、トム・グレイ、ドナルド・ジョハンソン、ティム・ホワイトらのチームにより、エチオピアのアワッシュ川下流域、アファール渓谷で全身骨格が発見された。全身の骨の40%にあたる。通名ルーシー。

f:id:rekisi2100:20171116115453j:plain

出典:ルーシー (アウストラロピテクス)<wikipedia*4

  • 1974年、Mary Leakey により、タンザニアのラエトリ Laetoli で全ての臼歯と犬歯1つがついた下あごが発見される。

  • 1975年、ドナルド・ジョハンソンの生徒のマイケル・ブッシュがルーシーが発見された隣の丘で計13個体の200以上の骨の欠片を発見した。通名サイト333。

  • 2006年9月、エチオピア人の古人類学者ゼレゼネイ・アレムゼゲド (Zeresenay Alemseged)により、アワッシュ川の南4kmに位置する「ディキカ1」(Locality Dikika-1) と呼ばれる地域で幼女の全体骨格が発見された。2006年9月にサイエンティフィック・アメリカン誌により公表。通名セラム。

  • その他にもサンプルがある。

その他

現生人類の直系の祖先と書かれることが多いようだが、否定する意見もある。

参考文献

アウストラロピテクス・アフリカヌス(A. africanus)

生息年代

390~300万年前

推測の材料

頭蓋骨ほか断片。

特徴

  • A.アファレンシス同様、腕が脚よりもわずかに長い。

  • A.アファレンシスより、二足歩行に適した脚を持つ。

  • 頭蓋の特徴によると、人類直系の祖先よりではなく、頑丈型アウストラロピテクスピテカントロプス属)の系統に近い。A.ロブストゥス(ピテカントロプス・ロブストゥス)はアフリカヌスの子孫だとされている。ただしアフリカヌスの歯は丈型アウストラロピテクスほど頑丈なつくりではない。類人猿よりもヒトに近く、歯列はU字型よりも放物線に近い。

  • 2015年のマシュー・スキナー氏の発表によれば、手の構造の研究の結果、アフリカヌスは道具を使用していた可能性が高い、とのこと。

発見・公表

  • 1924年南アフリカ共和国キンバリー近郊の町タウン (Taung) で、石灰採掘者が2、3の骨断片と頭蓋を見つけた。これらを解剖学者レイモンド・ダートらが調べて、翌1925年にヒトと類人猿の中間にあたる化石だと発表した。しかし学界に受け入れられなかった。のちにA.アフリカヌスに属すると判断された。通名:タウンチャイルド。

f:id:rekisi2100:20171113065141j:plain
タウン・チャイルドの頭蓋骨の複製

出典:アウストラロピテクス・アフリカヌス<wikipedia*5

  • 1947年、ロバート・ブルームとジョン・ロビンソンにより、南アフリカのスタークフォンテイン石灰採集場で、頭蓋骨を発見された。当時女性のものと判断されたため「ミセス・プレス」(標本番号:Sts 5)と呼ばれた(現在では男性のものとされている)。類人猿並みの脳容量で二足歩行をしていたと発表した初めてのケースとなる(当時は脳容量の拡大の後に二足歩行をするようになったと考えられていた)。

その他

  • 「タウンチャイルド」を発見したレイモンドダートはこれを新種として のちに「アウストラロピテクス・プロメテウス」と命名した。アウストラロピテクスという名称が初めてつけられたのはこの時である(上述の通りタウンチャイルドはA.アフリカヌスにカテゴられた)。

  • これまで道具を使用した最古の例は250万年前とされていたのでA.アフリカヌス(生息年代:390~300万年前)が使用していたとなると300万年前よりも前ということになる。

  • 上でも触れたが、現生人類直系の子孫からはずれて、頑丈型アウストラロピテクスの一部の祖先と考えられている。

参考文献

アウストラロピテクス・ガルヒ(Australopithecus garhi)

生息年代

250万年前

推測の材料

頭蓋骨の一部と四肢骨ほか。

f:id:rekisi2100:20171116120009j:plain

出典:アウストラロピテクス・ガルヒ<wikipedia*6

特徴

  • 脳容量は他のアウストラロピテクス属と同様、類人猿と変わらない(450cc)。

  • 歯の特徴は頑丈型アウストラロピテクスの特徴に近い(A.アファレンシスに比べて、臼歯だけでなく、犬歯も拡大している。歯列もU字形であった。ホモ属は放物線形。)

  • A.アファレンシスに比べて、脚は若干長い。身長も高い。

  • 発見・公表

  • 1996年にエチオピア人古人類学者のBerhane Asfawとアメリカ人古人類学者のティム・ホワイトに率いられたチームがエチオピアのアワッシュ川中流域のBouri村近郊で頭蓋骨の一部 (BOU-VP-12/130) が発見された。1997年に新種としてアウストラロピテクス・ガルヒ(Australopithecus garhi)と名づけられた。

  • 1998年までに同チームが同地の近辺で別の頭蓋骨と四肢骨を含む胴部の骨を発見した。

その他

  • 現生人類直系の先祖であるという説と頑丈型アウストラロピテクスの先祖であるという説とがある。どちらかは分からない。

  • 道具の使用の最古の例は250年前だという説があるが(異説あり)、この説とA.ガルヒと関連付ける説がある。

250万から260万年前のアウストラロピテクス・ガルヒの化石の近くから、オルドワン石器によく似た原始的な石器がわずかに見つかり、1999年4月23日付けのサイエンス誌で、現代の人類に繋がるホモ・ハビリスよりも前に道具が使われていたようだと発表された[3]。それまで長い間、古人類学者たちは、ヒト属の初期の種が最初に道具を使い始めたと推測していた。さらにエチオピアのBouri村の別の場所からは約250万年前のものと推定される3000もの石器が発見されている。

出典:アウストラロピテクス・ガルヒ<wikipedia

参考文献

アウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人、Australopithecus sediba)

生息年代

200~180万年前(標本が生息した可能性がある領域)

推測の材料

少年と大人の女性の化石2体(両者とも部分的なもの)

特徴

  • 研究チームによれば、A.セディバはアウストラロピテクス属とホモ属の両方の特徴を持っていると主張している。

  • ホモ属としての特徴は「小さな歯と現生人類に似た鼻の形」と「右脳、左脳の形が人間と同じように不揃い」なところ。*7

  • アウストラロピテクス的な特徴は、「脳が極めて小さい」ところと「原始的な手首と長い腕という木登りに適した猿人の特徴も兼ね備えている」。これらの点から、研究チームはホモ属ではなく、アウストラロピテクス属に分類せざるをえなかったとしている。*8

発見・公表

2008年に、古人類学者リー・バーガー( Lee Berger、ベルガーとも)の息子マシュー(9歳)により、南アフリカ共和国のマラバ地方の洞窟で左鎖骨が発見された。発掘作業は続けられ、翌2009年には少年と大人の女性の化石2体(両者とも部分的なもの)が発見された。

上記の発表はバーガー氏らによって、2010年4月にされた。

その他

ナショナル・ジオグラフィック日本語版のニュース記事「セディバ猿人、ヒト属の祖先か猿人か」(2010.04.08)によれば、「アウストラロピテクス属とヒト属をつなぐ有力な証拠はほとんどない」とか(230年前のホモ・ハビリスを念頭に置いて)「50万年近くも遅れて登場したセディバはヒト属の祖先と断定できないだろう」など権キューチームの発表に懐疑的だ。

またNatureのニュース記事「Claim over 'human ancestor' sparks furore」(8 April 2010)によれば、有名な古人類学者ティム・ホワイトはA.セディバはA.アフリカヌスのchronospecies(時種:種内の僅かな進化的差異)に過ぎないとし、ホモ属に無理やり結びつけようとする研究チームの姿勢を批難した。*9

参考文献

アウストラロピテクス・プロメテウス?(リトルフット)

  • 「プロメテウス」という名称はリトルフットと名付けられた化石(標本番号:Stw 573)を発見したRonald J. Clarkeが、この化石を新種として名づけたもので、一般に通用していない(リトルフットは通用している)。

  • この名称は先に1924年にレイモンド・ダートが発見した化石(通名:タウン・チャイルド、標本番号:Taung 1)に新種として名づけた名称だが、この化石はのちにA.アフリカヌスと名づけられた。

  • 「プロメテウス」については、クラーク氏らのリトルフットの研究結果以外に情報がなく、学界で現在どの程度認められているかは分からない。

f:id:rekisi2100:20171113060252p:plain
新しい年代測定法により、南アフリカのスタークフォンテイン洞窟で発見された初期人類化石「リトルフット」が370万年近く前のものであることがわかった。

出典:南アの初期人類化石、370万年前のものと判明<ナショナル・ジオグラフィック日本語版(2015.04.02のニュース記事)(PHOTOGRAPH BY JASON HEATON)

生息年代

367万±16万年前

(上の数字は2015年にクラーク氏らが発表したもの。他の測定結果は220万年前とするものから400万年以上前までばらつきがあり、論争中。)

推測の材料

  • 全身骨格の90%
  • 生息年代については化石の周りの石を測定の材料にしている

特徴

  • 足の親指が長く、樹上生活に適応している。

  • その他の特徴はよく分からないが、クラーク氏によれば、今まで発見されたどの種とも違う特徴をもっている新種だとのこと。

発見・公表

  • 1994年にレイモンド・クラークらにより南アフリカヨハネスブルク近郊のスタークフォンテイン洞窟で足首の化石が発見されたが、その後クラーク氏らは十数年かけて全身骨格の90%を採掘することに成功した。

  • 発見の翌年1995年から数度にわたって研究報告がされている。

  • 2015年の発表では推測年代が367万±16万年前であると発表。

その他

  • リトルフットはA.アフリカヌスとされていた時期もあったが、現在クラーク氏らの研究発表では新種だとされている。

  • 頑丈型アウストラロピテクス(パラントロプス Paranthropus属)の系統ににていると報告されている。

参考文献