歴史の世界

人類の進化:ホモ属の特徴について ①ホモ属の定義≒「どれだけ現代人(ホモ・サピエンス)に似ているか」

「人類の進化」シリーズも いよいよ、われわれ現生人類が属するホモ属に突入する。

ホモ属の Homo とはラテン語で「人間」を表す。ちなみに australopithecusは「南の猿」という意味*1。ホモ属の個体はアウストラロピテクス属よりもぐっと現代人に近い外見とライフスタイルを持っている。

「Homo<wikipedia英語版」によれば、ホモ属の意味は厳密には定義されていないとのこと。このページはこの説明に、ご丁寧に3つも論文をソースとして挙げている。

この3つの論文の中の一つ「The Human Genus(Bernard Wood、 Mark Collard/Science 284/02 Apr 1999)」は、定義を提案している(正確には未確定の化石をホモ属かそれ以外か見分ける基準を提示している)。

「Paleoanthropology」というサイト(UCLAのサイトの一部)でまとめられていたので引用しよう(拙訳)。

a. アウストラロピテクス(属)に比べてホモ・サピエンスに密接に関連性があること。

b. 推測された体重がアウストラロピテクスよりもホモ・サピエンスに近いこと。

c. 身体の構成の比率がアウストラロピテクスに比べてホモ・サピエンスに密接に合致すること。

d. 機能形態学において、木登りの適性が抑制されて、現代人のような二足歩行に特化した形態を持っていること。

e. 歯や顎の相対的な大きさがアウストラロピテクスよりも現代人に似ていること。

f. 子供の育成期間が延長された証拠があること。

出典:Where to draw the genus boundaries<Paleoanthropology(revised 20 February 2007) (拙訳)

簡単に言ってしまえば、ホモ属の特徴は、アウストラロピテクスの特徴を離れて、現代人/ホモ・サピエンスに より似ていることが基準だということのようだ。この定義の説明は絶対的ではなく相対的なものとなるのだが、この基準では、化石の標本が少ないためもあって、異なる意見が出て来るのも当然だろう。しかし、ホモ属の特徴とアウストラロピテクスの特徴の両方を持っている場合もあるので、どのように定義しても異論を無くすことはできない。

さて、形態とライフスタイルについて少しだけ書いておこう。

  • (c)の身体の比率に関して言えば、現代人はアウストラロピテクスに比べて足が長く、腕が(相対的に)短い。脚が長い分もあり、身長は高くなる。これは木登りの適性を捨てて、二足歩行に特化した(さらに適応した)せいである。

  • (e)についてはアウストラロピテクスが「生の、噛みにくく、栄養価の低い」植物を食べるために頑丈な歯と顎が必要である一方、ホモ属は火・道具の使用、植物・肉の両食(?)により「火を通した、噛みやすく、栄養価の高い」食事をするようになったためである。

  • (f)に関しては、ホモ属の脳容量が大きくなり、二足歩行の特化より産道が狭まったために、胎児が成長する早い段階で出産せざるを得なくなったことに原因がある。この存亡の危機に直面したホモ属の種(あるいはその直近の祖先)はあまりにも小さな子供を長期間かけて育てる戦略を取った。

このように形態とライフスタイルは密接な関係があり、化石を見ればその種がどのような生活をしていたのかある程度は分かる。ホモ属に限ったことではないが。

上記を踏まえて、論文の著者のウッド氏とコンラード氏は一般に初期ホモ属と呼ばれているホモ・ハビリスとホモ・ルドルフェンシスをホモ属から除外している。

この除外について、ウッド氏が2014年に発表した解説で改めて説明している。この説明を「雑記帳」というブログが日本語で開設してくれているので、これを引用しよう。

ウッド氏は、1999年にマーク=コラード氏と共に、体のサイズ・姿勢・歩行形態・食性・生活史といった特徴に焦点を当てることで、ホモ属ともっと原始的な人類との境界を再検討しました。たとえば、上肢が下肢と比較して、あるいは前腕が上腕と比較してどれくらい長いのか、臼歯は類人猿のように早期に萌出するのか、それとも現生人類のように顎で徐々に形成されるのか、といった問題です。

その結果、ハビリスは一般的にアフリカヌスよりも大きいとはいえ、その歯と顎は同じ比率であることや、ハビリスの体のサイズに関して証拠はほとんどなく、手と足からはハビリスがエレクトスのような議論の余地のないホモ属よりもずっと木登りが上手だったことが窺える、ということが判明しました。したがって、ハビリスがホモ属に分類されるのであれば、ホモ属は一貫性のない特徴の寄せ集めになる、とウッド氏は指摘します。ウッド氏の見解は、ハビリスはアウストラロピテクス属でもホモ属でもないそれ自身の属に分類されるべきだ、というものです。

出典:ハビリスの発表から50年間のホモ属の起源をめぐる議論<雑記帳(ブログ)2014/04/05

このように、いちおうホモ属にカテゴられているホモ・ハビリスらはホモ属の特徴・定義を厳密にしようとすると、除外することになる。

ホモ・ハビリスらをウッド氏が言うように、除外することはいったん脇において、定義を厳密にすることが当然のことになってしまったら属の数が膨大になってしまって分類学の意味が薄れてしまうのではないか、と素人的には思ってしまう。



*1: 南(Australo- ラテン語australisから)、猿(pithecus ギリシャ語pithekosから)。初めて発見されたのは南アフリカだった。