歴史の世界

人類の進化:ホモ属の特徴について ⑫脳とライフスタイル その7(ライフスタイルの進化 後編)

前回からの続き。

人類進化の謎を解き明かす

人類進化の謎を解き明かす

今回も上の本を頼って、ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)と現生人類(ホモ・サピエンス)に取り掛からろう。

ネアンデルタール人

共同体の規模:110人*1

ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)とホモ・サピエンスの脳の大きさはそれぞれ、1170-1740cc、1100-1900cc(ダニエル・E・リーバーマン/人体 600万年史 上/早川書房/2015(原著は2013年に出版)/p169)。「ネアンデルタール人wikipedia」にあるように(おそらく)平均値ではそれぞれ1600cc、1450cc とネアンデルタール人の方が脳が大きいようだ。

しかし、脳が大きい=頭がいいと即断できないことをダンバー氏の本は示している。

ダンバー氏曰く、ネアンデルタール人の脳の発達は、視野系を発達させるため、すなわち弱い日差しの中で(生息地は高緯度のヨーロッパ)、遠くまで見える能力の発達の結果だということだ。

高緯度地帯では日差しが弱いので、遠くのものを見づらいのだ。これは狩人にとって深刻な問題で、子どものサイを仕留めようとしているときに、母親のサイが暗い森のはずれにひそんでいるのを見逃すというミスを犯す訳にはいかないからだ。日差しが弱い地域での暮らしは、たいていの研究者が考えるより大きな負担を視覚に強いる。

出典:ダンバー氏/p190

このために後頭葉の最後部にある第一次視覚野が発達した。そのために後頭部が異様に出っ張っているような形になっている。

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出典:ネアンデルタール人wikipedia*2

簡単に言うと、ネアンデルタール人は視野系を強化するために脳の大きさを発達させたが、社会認知を高めるための脳の前方領域の発達は無かった。いっぽう、ホモ・サピエンスは低緯度地域アフリカで視野系を発達させない代わりに前方領域が拡大した(ただし、現代人も高緯度に住んでいる人びとは比較的視野系が発達しているらしい(これによる前方領域の脳の犠牲は無い) )(p192-194)。

これにより(脳の前方領域の発達はなかったことにより)、ネアンデルタール人は直系先祖のホモ・ハイデルベルゲンシスと同じ共同体規模を持つ(110人)。

ライフスタイル

ネアンデルタール人は高緯度の気温に適応したため手足は短かったが、頑丈な身体を持っていた。

狩猟方法は「待ち伏せ型」という特徴的なスタイルが中心だった。木の陰に隠れて、近寄ってきた獲物(大型・中型動物)をルヴァロワ石器という新しい石器でできた穂先をつけて槍で突き刺した。このような危険を伴う狩猟は怪我人が絶えなかったことが化石に現れているらしい。食性は肉食に偏っていて肉食動物と同程度だというデータがある(p184-185)。

ガタイのいい身体の持ち主のネアンデルタール人はホモ・ハイデルベルゲンシスやホモ・サピエンスよりも体重が重かった。

ホモ・ハイデルベルゲンシス:50-70kg
ホモ・ネアンデルターレンシス:60-85
ホモ・サピエンス:40-80((リーバーマン氏/p169)

ここで、社会的グルーミングの話に移ろう。

ダンバー氏によれば、ネアンデルタール人は、社会的グルーミングの一つとして、音楽を発明した。

ダンバー氏は、音楽の先駆的な例として、ヒヒの一種のゲラダヒヒの音声による社会的グルーミングを紹介している。ゲラダヒヒは120頭という霊長類の中でかなり多いレベルの頭数の集団を形成できる種であるが、この集団を保つために複雑なコンタクトコール(親和的意図を伝える鳴き声)を多数用いて絆を維持している(p196-197)。

ネアンデルタール人は言語を持たなかったが、ハミングなど発声により音楽を作ったとしたら、笑う時と同じように呼吸の制御を必要とし、胸壁筋や横隔膜を活発に動かし、その結果エンドルフィンが分泌される。またハミングは分節化、構音、区切り方、共時性など多くのヘラいや言語と共有している(p195)。

ここで言う「共時性synchronicity」とはカール・ユングが提唱した概念のことではなく、ある集団が同調して(シンクロして)同じ行動をすることによって社会的グルーミングの効果が起こることを言っている。

ホモ・ハイデルベルゲンシスからの進化で体重が増え、その分の摂食・狩猟の時間が増えた一方、ルヴァロワ石器と音楽の発明は時間収支の軽減を促した。

ホモ・サピエンス

上記で書いたように、ホモ・サピエンスは、先祖のホモ・ハイデルベルゲン市すに比べて、社会認知を高めるための脳の前方領域すなわち前頭葉を拡大させた。この結果、ダンバー氏の主張する社会脳が発達し、共同体の規模(ダンバー数)は150人となった

ホモ・サピエンスはさらに500人、1500人の互助的な関係を形成することができたので(ダンバー数 後編 参照)、全滅の可能性は他のどのホモ属よりも低かった。

言語から宗教へ

ホモ・サピエンスが150人の共同体を維持した社会グルーミングの手段は「言語」だ。社会的グルーミングができる会話集団は「笑い」と同じく平均3人上限4人だが、物語などを共有することで おのおのが同じ文化を持つ共同体の一員だということを認識できただろう。

物語の中でも重要なのが、精霊の世界の話だ。精霊の世界とは死後に人が行く世界で、生者もトランス状態にあれば訪れることができる。こういった概念が十分に確立されたのは遅くとも3万年前~2万5千年前で、これより遡ることは大いに有り得る(ただし証拠はない)(p265-266)。このトランス状態、精霊の世界がシャーマニズムになりさらに教理宗教(神、聖所、聖職者、教義がある宗教)へと変化していった。

教理宗教はダンバー数を遥かに超える共同体をまとめるのに必要なもので、遊動または半遊動生活をする狩猟採集民はシャーマニズム、定住する村落、都市は教理宗教に特徴づけられる(p300-301)。

ネアンデルタール人ホモ・サピエンスの運命を分けたもの

ネアンデルタール人の絶滅については以前書いた。絶滅の原因は簡単に言えば、激変した気候変動とホモ・サピエンス登場のストレスなどの諸要因。

ホモ・サピエンスは、激変した気候変動に耐えることができた。投槍または投槍具(アトラトル)を使って、中小の動物を狩ることができた。また、よく言われることだが、「縫いあわせた衣服(手足を隙間なく覆って暖かく保った)」(p237)を作ることができた。

ネアンデルタール人はこのようなものを開発できなかった。彼らは複雑なものを作る能力は持っていなかった。

社会脳に関係する前頭葉(特に前頭前野)は、計画能力や未来を予測して実行する能力、道具その他の物をデザイする能力にも関係している。

ネアンデルタール人は社会脳だけではなく、物質文化においてもホモ・サピエンスに劣り、その結果 生存競争に敗れてしまった。  


ホモ・サピエンスのライフスタイルについては、「先史/ホモ・サピエンス」のカテゴリーで書いた。
この本を読んでしまったから、リライト必至。