歴史の世界

人類の進化:ホモ属各種 ③ホモ・エルガステル

ホモ・エレクトスは、ホモ属の代表的な種の一つだ。生息年代は100万年を超え、生息地域もユーラシア大陸で広範囲に確認されている。

いっぽう、ホモ・エルガステル(またはホモ・エルガスター Homo ergaster)は独立した一種と認めない学者・勢力がかなりいる。つまり彼らはホモ・エレクトスの変種(時種または亜種)としている。

独立した一種であると断言する人はあまりいないようで、書籍やサイトでホモ・エルガステルを紹介する場合、論争・議論中の状況を説明した上で便宜的に種として紹介している。

とりあえずこの記事では、ホモ・エルガステルを種として認めて書いていく。

「Homo ergaster<wikipedia英語版」によれば、ホモ・エルガステルはホモ・ハビリスの「子孫」で、ホモ・エレクトスの「先祖」と信じられている。

生息年代

190-140万年前

特徴

This species’ tall, long-legged body, with a flatter face, a projecting nose and a somewhat expanded brain was well along the evolutionary path leading to modern humans but it still possessed a number of intermediate features.

出典:「 Homo ergaster <Australian Museum」のKey physical featuresより

発見・公表

1971年、リチャード・リーキーがケニアトゥルカナ湖で下顎の化石を発見した。KNM ER 992。正基準標本。
当初はホモ・ハビリスとみなされていたが、1975年に、Colin Groves と Vratislav Mazák によって新種とみなされ、ホモ・エルガステルと名づけられた。
この下顎は、ホモ・ハビリスアウストラロピテクスに比べて華奢で、臼歯と小臼歯が小さい。

1984年、リチャード・リーキーが率いるチームの一員のKamoya Kimeuが、トゥルカナ湖西岸のナリオコトメ(Nariokotome)で少年の骨格(ほぼ全身)が発見した。KNM-WT 15000。トゥルカナ・ボーイ(Turkana Boy)、ナリオコトメ・ボーイ(Nariokotome Boy)とも呼ばれる。
少年は、8-11歳、身長163cmとされている。成人になったら185cmになるとも書かれる。これに対して、この少年は成人か成人になる直前だったとして身長は伸びても数センチ程度だったろうという主張もある(エルガステルは現代人より成長が早いことは知られている)。180cmを超えるという主張のほうがかなり多いようだが、個人的には後者の説を採りたい。
生息期:160万年前
脳容量:880 cc

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Turkana Boy
Image is of a cast on display at the American Museum of Natural History

出典:Turkana Boy<wikipedia英語版*1

1975年、Bernard Ngeneo と Richard Leakeyが、トゥルカナ湖東岸のKoobi Foraで、成人女性の頭蓋骨を発見した。KNM ER 3733。
成人男性の化石と比べて少し華奢で小さい。
脳容量:850cc

1976年、Richard Leakeyが、同じKoobi Foraで成人男性の脳頭蓋(頭蓋骨の上半分)を発見した。KNM ER 3883。
KNM ER 3733より少し頑丈で大きい。
脳容量:804cc(推定している人が違うからか、KNM ER 3733より小さい数値)。

1991年から2005年にかけてジョージアグルジア)のドマニシで複数の化石が発見された。これらの化石をホモ・ゲオルギクス、またはホモ・エレクトス・ゲオルギクスとする学者もいる。
175万年前の化石とされ、「出アフリカ」の最古の化石の例となる。
2013年に研究発表されたが、2016年に更新された。
Australian Museum では これらを「ホモ・エルガステルかもしれない」としてドマニシの化石とエルガステルの化石を比較している。その他のソースの説明ではホモ・エレクトスの早期のものとするか、エレクトスとホモ・ハビリスの中間とするものがあった。この記事ではホモ・エルガステルの仲間としておく。
ドマニシの化石については下記の参考文献を参照。

その他

  • 石器については以前に書いたが、人類における第2段階の石器、アシュール石器群(アシューリアン)は170-160万年前に発明されたとされている。この発明者として、ホモ・エルガステルが候補に挙がっている(エルガステルを認めない人はホモ・エレクトスとしている)。

  • 火の使用の発明者とする学者がいるが、彼らの一部が火を使用していたとしても、それは限定的なもので途絶している。人類が習慣的に火を使用したのは40万年前からだ。(「ホモ属の特徴について ⑤火の使用」参照。)

  • 140万年前以降の化石が発見されていない。なぜ絶滅したのかは分かっていない。

  • ホモ・サピエンスネアンデルタール人の祖先とされるホモ・ハイデルベルゲンシスの祖先はホモ・エルガステルという主張があり、結構 有力らしい。ハイデルベルゲンシスはエルガステルにかなり似ているとのこと。しかしハイデルベルゲンシスは60万年前に誕生(または最古の化石が60万年前)であり、この開きをどう解釈するかが問題になってくる。この時にエチオピアのアワッシュ川上流のメルカクンチュレ(Melka Kunture)層のゴンボレ2遺跡から出土した化石がこの穴を埋めてくれるかもしれない、という。

この研究は、総合すると、ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋(おそらくは1個体のもの)は、アフリカにおけるエルガスターとハイデルベルゲンシスの間の形態学的な相違を埋めるものであり、80万年前頃にアフリカに出現したハイデルベルゲンシスがユーラシアへと拡散したのではないか、との見解を提示しています。ハイデルベルゲンシスという種区分の問題はさておくとして、ネアンデルタール人と現生人類(だけではないのでしょうが)の共通祖先系統としてのホモ属の分類群が80万年前頃までにアフリカに出現し、ユーラシアへと拡散した、との見解は、大まかにはじゅうらいの有力説の枠組みで把握できるでしょうし、近年の遺伝学の研究成果とも整合的だと思います(関連記事)。ただ、やはりアフリカにおける90万~60万年前頃の人類化石記録の乏しさという問題は残っており、この時期の新たな人類化石の発見が期待されます。

出典:アフリカにおける後期ホモ属の進化<雑記帳(ブログ)2017/11/29

  • この記事ではホモ・ハイデルベルゲンシスの誕生は80万年前となっている。
  • 詳細はリンク先で。

参考文献



ホモ・エルガステルとホモ・エレクトスの両方を一つの記事に書こうとしたが、長くなってしまったのでエルガステルだけとする。

*1:著作者:Claire Houck/ダウンロード先:https://en.wikipedia.org/wiki/File:Turkana_Boy.jpg