歴史の世界

人類の進化:アウストラロピテクス ~森林からサバンナへ?~

アウストラロピテクスネアンデルタール人と並んで最も有名な化石人類だ。

正式にはアウストラロピテクスという名称は属名でアウストラロピテクス・アファレンシスやアウストラロピテクス・アナメンシスなど複数の種がアウストラロピテクス属に属する。

しかしこの記事ではダニエル・リーバーマン著『人体 600万年史』*1に倣って、便宜的に「アウストラロピテクス」という名称をアウストラロピテクス属全体の総称として使う。

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実線は系統関係が予想されるもの、破線は不明瞭なもの

出典:篠田謙一 監修/ホモ・サピエンスの誕生と拡散/洋泉社 歴史新書/2017/p14

上の系統樹のように、今のところ、アウストラロピテクス(属)はアルディピテクス属の後継と考えられている。

アウストラロピテクスとそれより前の人類の人類には大きな違いがあると考えられている。

この違いは人類の進化にとって新たな段階を迎えたことを意味する。

アウストラロピテクスの最大の特徴:土踏まず

アウストラロピテクスとそれより前の人類の最大の違いは土踏まずにある。

土踏まずの役割・機能についてはいろいろあるが*2、その中で3点だけ挙げておこう。

  • 直立時にバランスをとり、腰・膝を伸ばした状態を保つ。*3
  • 歩行運動の足の着地時のショックの吸収。*4
  • 歩行時にバネのように機能して蹴り出す推進力をつくる。*5

「扁平足」の類人猿や初期の人類は、土踏まずがまで形成されていない赤ちゃんと同じくぎこちない二足歩行しかできないが、アウストラロピテクスは、背筋はいく分か曲がっているものの現生人類に似た二足歩行が可能になった。

効率よく歩行できるようになるということは、エネルギー消費が少なくなるということ。食糧を得ることと共に、エネルギー消費を抑えることは、文字通り死活問題だ。低カロリーや有酸素運動をありがたがる現代日本にいる私には想像しにくい状況だ。

(二足歩行の効率化には土踏まず以外にも足腰の骨・筋肉などの進化も当然おこったが、ここでは省略する。)

土踏まずが形成された原因:気候変動

アウストラロピテクスが誕生した頃の気候はそれまでよりも乾燥して熱帯雨林が減少したようだ。

彼らが生きていたのは地質学的に言うと鮮新世という時代(530万-260万年前)で、地球がわずかに寒冷化し、アフリカが乾燥の一途をたどっていた。こうした変化は[中略]間欠的に起こっていたが、アウストラロピテクスが生きていた時代のアフリカでは全体的な傾向として、疎開林とサバンナが拡大し、それまで採れていた果実がぐっと減り、採れる場所もあちこちに分散してしまった。この果実危機によって、間違いなくアウストラロピテクスには強い選択圧がかかった。果実以外の食物を手に入れられる個体が有利になったのである。

出典:ダニエル・リーバーマン/人体 600万年史 上巻/早川書房/2015(原著は2013年出版)/p89

果実が不足した時、類人猿や初期の人類は、葉(ブドウの葉のようなもの)や、茎(生のアスパラガスのようなもの)や、ハーブ(生のローリエのようなもの)を食べてやり過ごしていたが、アウストラロピテクス(とその直近の祖先)は地面を掘って根茎や塊茎、球根を食べるようになった。*6

こうして彼らは地上を歩き回るようになるが、素早く、効率よく歩ける個体は、食糧にありつける可能性が高く、また肉食獣に襲われる可能性を低くした。

素早い行動ができない個体は淘汰される。そして土踏まずがある個体は生き残り、その子孫がアウストラロピテクスになった。

もうひとつの重要な特徴:歯

前々回で初期の人類の歯の特徴で歯(臼歯の拡大、犬歯の縮小、エナメル質の厚化)を挙げたが、この特徴がさらに進んだ。

おさらいしておくと、

  • 臼歯が大きい方が固くてかみにくい食物を噛み砕くことができる。
  • 臼歯の拡大に伴い、トレードオフとして犬歯が縮小した。
  • エナメル質が厚い方が硬いものを食べても歯が削れることが少ない。

上述したようにアウストラロピテクスは根茎や塊茎、球根を食べるようになった。しかしこれらの食物繊維は果実の半分ほど(p91)らしい。

こうなると、アウストラロピテクスが初期の人類より臼歯が大きくなったのは根茎や塊茎、球根を食べるようになったからだとは言えない。

研究者は長い時間をかけて、アウストラロピテクスの臼歯がどうしてこんなに大きく、分厚く、平らになったのかを調べた。結果として引き出された新鮮味のない答えは、こうした特徴は、噛み切りにくく、ときに硬質な食物を噛むための適応だったというものだ。

出典:p94

「噛み切りにくく、ときに硬質な食物」は類人猿も初期の人類も食べていた。ということは、そのような食物を食べる頻度と臼歯の大きさに正の相関関係があるということになるのだろうか。

森林からサバンナへ?

なぜ「?」をつけたかを説明する。前座としてイーストサイドストーリー仮説の話から始めよう。

アウストラロピテクスイーストサイドストーリー仮説

イーストサイドストーリー」仮説については以前に触れたが、人類がサバンナで誕生したという仮説だ。この仮説はアルディピテクス属などの初期の人類の化石が当時森林だった箇所から発見されたことで破綻した。

アルディピテクス属の化石が発見される前はアウストラロピテクスが最古の人類だと考えられていた。アウストラロピテクスはサバンナの住人だと考えられていた。

この考え方は訂正あるいは修正が必要だ。

樹上生活の適応を失っていなかった

アウストラロピテクスには多くの種があり、川や湖に接する疎開林に棲んでいた種から草原に棲んでいた種までさまざまだが、いずれにしても彼らの住環境は、部分的に開けた土地だった。そうした環境は、そもそも果樹が少ないうえに、類人猿の一般的な住環境である熱帯雨林と比べて季節差がある。結果として、アウストラロピテクスは広く分散してしまった食べ物を探しに出たに違いない。必要十分な食料を見つけるために毎日長い距離を歩いていたこともほぼ確実だ。ときには開けた土地の真ん中も進んでいかなければならなくて、危険な捕食動物と灼熱の太陽に自らの身をさらしたことだろう。しかし一方で、アウストラロピテクスはまだ木にも登っていた。食物を得るためだけでなく、安全な寝場所を確保するためにも、木登りを辞めるわけにはいかなかった。(p99)

したがって当然ながら、その骨格には類人猿から受け継いだ、木登りに便利な特徴が保持されている。チンパンジーやゴリラのように、彼らの脚は比較的短く、腕は比較的長く、手足の指は長くて少々湾曲していた。さらに、多くのアウストラロピテクスの種は、前腕の筋肉が強く、いかり肩をしていたこれは木のえだからぶら下がったり、自分の身体を引っ張り上げたりするのに適応していたしるしだ。(p105)

出典:リーバーマン

  • 肉食獣から身を守るような武器はアウストラロピテクスは作ることができなかった。狩りが始まるのはまだ先だ。
  • 余談になるが、二足歩行の利点の一つとして日光が当たる面積が縮小が挙げられる。体温調整のコストを下げることができる。

そういうわけで、アウストラロピテクスは、サバンナで行動していた種もいたかもしれないが、基本的には疎開林と開けた土地で生活していた。

食生活の変化が地上生活を定着させた

上の方で、アウストラロピテクスは根茎や塊茎、球根を食べていたことを紹介した。

これらを地下貯蔵器官と言い、ジャガイモ、キャッサバ、玉ねぎもこれに相当するらしい。アウストラロピテクスは火の使用を知らなかったのでこれらを生で食べた。当然だが、食べやすいように品種改良などしていない。食物繊維豊富どころか繊維だらけで私たち現代人には食えたものではないが、彼らは時間をかけて発達した臼歯と咀嚼筋で噛み砕いて消化した。

ただしこれらの食物にはメリットがある。チンパンジーが食べる果実と比べて、デンプンとエネルギーが豊富で食物繊維が果実の半分ほどだということだ(p91)。これによりアウストラロピテクスは主食を果実から地下貯蔵器官に移すことができた。

土踏まず他の二足歩行への適応も重要だが、地下貯蔵器官がなければ、果樹と決別して地上生活に(より)適応することは不可能だったろう。

アフリカは300万年前から始まるさらなる乾燥化に襲われることになる*7。そして人類はさらなる進化を迫られることになる。

地上生活の適応した人類は次の段階ヘ否応なく進むことになった。



*1:上巻/早川書房/2015(原著は2013年出版)/p82

*2:「土踏まず 役割」で検索すると、いろいろと出てくる

*3:土踏まずのメカニズム<あの日にかえる 参照

*4:足部の重要な2つの機構!トラス機構とウィンドラス機構<理学療法士Y成長日記!のトラス機構の節を参照。トラスメカニズム(Truss mechanism)ともいう。

*5:足部の重要な2つの機構!トラス機構とウィンドラス機構<理学療法士Y成長日記!のウィンドラス機構の節を参照。ウインドラスメカニズム(windlass mechanism)ともいう。

*6:リーバーマン氏/p90

*7:p111