中国の初期農耕は黄河流域(華北)がアワ・キビ、長江流域(華中)はイネ(コメ)とされる。
中国本土(シナ)における農耕の起源または初期農耕の証拠はきわめて少なく、複数の仮説が並んでいる。
イネの栽培の起源について
栽培家の候補地として幾つかの説を書いてみる。
珠江流域起源説
イネの栽培種(Oryza sativa)の祖先である野生種=ルフィポゴン(oryza rufipogon)の生息地と栽培化の起源が判明したという研究結果がネイチャーに2013年10月に発表された(遺伝:イネゲノムの変異マップから栽培イネの起源が判明)。研究者の一人である倉田のり教授(国立遺伝学研究所)がインタビューに答えている。
――具体的に、どのようなことがわかったのでしょう?
ジャポニカの最も古い系統をたどっていったところ、中国、珠江の中流域に行き着き ました。そのジャポニカ系統につながった野生イネの生息地もまた、珠江の中流域であることがわかりました。また、インディカ系統についても調べたところ、 やはり珠江中流が起源で、インディカ系統につながった野生イネの生息地も、同じ珠江の中流域でした。これらのことは、珠江の中流域において「倒れにく い」、「実が落ちにくい」といった栽培に適した野生系統のあるイネが選び出されて稲作がはじまり、やがてジャポニカ系統は単一系統由来のものとして、また インディカ系統は各地の野生イネ系統と交配しながら、アジア各地に広がっていったことを端的に示しています。
また、中国大陸から日本に伝わっ たジャポニカ系統と、タイ、ベトナム、インドなどに広がったインディカ系統とでは、遺伝的な距離がかなり大きいことも明らかになりました。ほぼ同一の祖先 をもちながらも、栽培化のための選択圧が約1万年も加わった結果、遺伝的にかなり異なる2つの系統に進化したことが伺えます。
- 野生種ルフィポゴンの生息地は珠江の中流域(原産と思ってよいのか?)。
- 栽培化の起源も珠江の中流域。
- 野生種ルフィポゴンは「倒れにく い」、「実が落ちにくい」といった特徴があったため選び出されて栽培化された。
- 初めの栽培化で出来たのがジャポニカ種。
- インディカ種はジャポニカ種が野生イネ系統と交配した結果 出来た。
- 栽培化の起源は1万年前。
2012/10/26付のマイナビニュース *1では《研究チームは「今回のわれわれの解析で、イネの起源地と栽培化のプロセスが明らかとなり、長い論争に終止符を打つことができた」としている》とまで語っている。
これを証明する「現物」は発見されたのだろうか?今のところネット検索では探せていない。この論文の言うところの珠江の中流(Figure 4b)は南シナ海に近い高温多湿の気候だから遺物が残っていないのか?
『神話から歴史へ』*2によれば、中国の新石器時代前期にあたる農耕文化が栄えた時期になっても珠江流域は狩猟採集文化のままだった。珠江流域に農耕文化(稲作文化)が興るのは紀元前3000年以降ということだ。
長江中流域起源説
西江清高氏(中国史1/2003*3 )によれば、より確かな稲作農耕の最初期の遺跡は、長江中流域の彭頭山文化とのこと。この文化はwikipediaによれば紀元前7500年頃 - 紀元前6100年頃(彭頭山文化 - Wikipedia )。この期間のどの時点で稲作農耕が出現したのかは私には分からない。
長江下流域起源説
本田進一郎のブログ記事によれば*4、長江下流域の浙江省上山遺跡(Shangshan)で発見された陶器の破片についていたイネのプラントオパールを放射性炭素年代測定で調べた結果、9400年前という数字が出たそうだ。
9400年前は紀元前7400年頃ということだから、長江中流域起源説と年代は大して変わらない。
上述の本田進一郎のブログ記事と関連するもう一つ記事*5は、倉田のり氏の珠江流域起源説についても言及されていて興味深い。
アワ・キビの栽培化の起源について
アワ・キビの栽培化および農耕の起源については確かなことは分かっていない。
『農耕起源の人類史』*6では、その候補地を賈湖遺跡(前7000年~)があるイネとアワ・キビの農耕文化が重なる地域と想定している。前述の『神話から歴史へ』(p197)もこの地域に注目している。ただし 二つの書籍とも「イネの栽培化の起源は長江中流」を前提にしている。
賈湖遺跡は黄河中流南部の裴李崗文化(はいりこうぶんか 前7000年~)に属するが、淮河上中流の遺跡と言ったほうがいいかもしれない。
ネット検索によると、アワ・キビの栽培化の起源はだいたい1万年前あたりということらしい。*7 *8
中国の先史は「中国文明」のカテゴリーでやろう。
*2:宮本一夫/中国の歴史01 神話から歴史へ(神話時代・夏王朝)/講談社/2005年/p205
*4:イネの起源1:Origin of Oryza sativa – 農業と本のブログ 2018年4月6日
*5:イネの起源2:Origin of Oryza sativa – 農業と本のブログ 2018年4月11日
*6:ピーター・ベルウッド/農耕起源の人類史/京都大学学術出版会/2008(原著は2004に出版)/p184
*7:キビの参考元:The History of Domestication for Broomcorn Millet - ThoughtCo. March 08, 2017
*8:アワの参考元:Origin and Domestication of Foxtail Millet - ResearchGate December 2017| Request PDF