歴史の世界

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メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ③(神)

前回の記事「メソポタミア文明:ウルクの大杯に学ぶ②(牧畜・家畜)」から引き続いて書く。

今回も前回同様に小林登志子著『シュメル――人類最古の文明』と前川和也編著『図説メソポタミア文明』に頼って書く。

中段:剃髪した裸の神官

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出典:小林登志子/シュメル/中公新書/2005/p55

中段では、羊と逆方向に裸の男の行列が二種類の容器と注口付き壺をもって歩いている。『シュメル』によれば、この剃髪した裸の男は神官だとする。「剃髪、裸体の意味はよくわからない」(p71)。二種類の容器には下段の農地から作られたパン類と羊乳が入っているのだと思われる*1

上段:神への献上

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図説メソポタミア文明/p9

上段の図はウルクの都市神である女神イナンナにウルクで育った作物で作られたものを献上しているシーン。

欠損している部分は当時のウルクの支配者と考えられている。これは残存している部分に格子状の長いスカートの裾と素足、それと後ろの従者が持っている長い房飾りより判断できる。ほかの円筒印章にこれと同じような図像があるからだ。この支配者はおそらく「エン」の称号を持っていた。「エン」とはすなわち王である。*2

下は円筒印章の例。

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出典:三笠宮崇仁監修、岡田朋子・小林登志子共著/古代メソポタミアの神々/集英社/2000/p44

支配者については別の記事で書こう。

「エン」の前で容器を持っているのは中段と同じ裸の神官で、献上品をまさに献上しようとしている。これに対面しているのは女神官とする。これを女神イナンナとする説もあるが、『シュメル』(p74-75)によれば、鼻の前に手を置く姿を祈りを捧げているポーズとみて女神官としている。

女神官の後ろに奇妙な形のポールが2本ある。これは葦束で女神イナンナを表す。「イナンナ神をあらわす楔形文字は、もともとはこのポールを形象した文字サインだった」(図説メソポタミア文明/p8)。

ポール(女神イナンナ)の右側は神殿(の倉庫)を表している(ポールは神殿の入り口も表している)。

「大杯」の葦束の後方は神殿内部の様子である。二重の線で、二頭の羊が表されている。羊の背に置かれた台上に二人の人物が刻まれている。葦束を背後にした後方の人物は合掌している。前方の人物はなにかを手に持っているが、一説によれば古い時代の文字、エン(「主人」の意味)を持ているともいう。また、後代には神は動物の上に乗って表現されることから、二人の人物は神あるいは神像を表すとも考えられている。

一対の大杯の背後に、ガゼルとライオンの形をした容器がある。その下には一対のパンを盛った高坏(たかつき)、一対の供物籠が置かれ、犠牲として奉献された牡牛の首もある。詳細な部分では意味がわからないものもあるが、全体としては神殿内の供物を表しているようだ。

出典:シュメル/p74

神(最高神アン・女神イナンナ)

古くはウルク市の都市神、つまり都市の最高神はアンであったが、アンはデウス・オティーオースス(「暇な神」)となり、代わってアンの娘、妻あるいは「聖娼」といわれるイナンナが都市神となったと考えられている。ただし、その時期や理由はわからない。イナンナはのちにアッカド語でイシュタルと呼ばれ、豊穣と性愛、戦争の女神としてメソポタミアで広く、長く信仰された最大の女神である。

出典:シュメル/p73

最高神アンについて

アンはシュメールの神話で「太陽の頂き」あるいは「天」という意味の名前を持つ神である。アンはシュメール神話の神々の中では、大地の神エンリルや深淵の水の神エンキと並んで最も古い神である。エンリルが、シュメールとアッカドの事実上の最高神となるまでは、アンが最高神であった。アンはアッカド神話ではアヌと呼ばれる。

出典:アヌ (メソポタミア神話)<wikipedia

最高神アンはシュメールの天地創造に関係している。

最も古いシュメール人が考えていた宇宙観によれば、宇宙はアン(天)とキ(地下世界を含む大地)の二層構造からなっていた。アンとキとは本来は一つの世界であった。原初、そこには神々だけしか住んでいなかった。その後、人間の住まう場所が必要となったために、ある時点で分離してしまったという。

出典:アンソニー・グリーン監修/メソポタミアの神々と空想動物/山川出版社/2012/p13/上記は稲垣肇氏の筆

アンは最高神であり、かつ、創造神でもある。男神

ウルクの都市神イナンナについて

その名は「天の女主人」を意味するとされている。アッカド帝国期には「イシュタル」と呼ばれた。イシュタルは南アラビアの女神アスタルテやシリアの女神アナトと関連し、古代ギリシアではアプロディーテーと呼ばれ、ローマのヴィーナス(ウェヌス)女神と同一視されている。

出典:イナンナ<wikipedia

イナンナはあらゆる土着の女神と同一視された。イシュタルは「新アッシリア語名で、古くバビロニアの「星」の意味に由来」するとあるから*3、本来はイナンナとは別の神で のちに同一視(習合)されたのだろう。

シュメルの最高女神イナンナは元来はニン・アンナ「天の女主人」という意味だが、イナンナを表す絵文字は豊穣の「葦束」から発達したものである。

出典:古代メソポタミアの神々/p38

イナンナはもともと土着の豊穣女神だったが、ニン・アンナ「天の女主人」という名前を、おそらく後からつけられたのだろう。もともとは豊穣の神であり、「戦いの神」などの神性も習合した神々たちのものだったのだろう。



*1:図説メソポタミア文明/p8

*2:シュメル/p70、図説メソポタミア文明/p6

*3:イシュタル<wikipedia